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34話
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基本的に他人のことに興味ないし、テレビなどにも興味ない。ましてや恋愛などにも全く興味は湧かない。ついでに言うと、今いるような高級ホテルにも興味ない。
人見知りなどはしないが、一人でいるのが気楽でいい。とはいえ引きこもっていたいのではなく、食べ物に関してや陸上に関してなら好きで動く。
なのでホテルに関してもこの風呂は広くていいが、大抵高級ホテルよりは旅館の方が料理や風呂が楽しめそうだし、何より好きなのはオーベルジュだ。ただし、たまにオーベルジュと銘打っておきながら全然自慢の料理を提供していないところもある。食べることが何より目的である奏真にとってそれは許しがたい。
と、考えが反れたがとにかく奏真自身でもそういった自分を自覚している。それでも人が嫌いといった風に思ったことはない。ただひたすら興味ないだけで。
だからさすがに申し訳ないと思った。今の今でも一体何故自分なんかを好きになったのだと疑問しかないが、葵がずっと奏真を好きだと言っていた上に葵なりに真摯な態度だったのだろうと思う。だというのに勘違いしたまま適当に対応していた。普通に考えて失礼だし酷いくらいは奏真にでもわかる。
ただ、ごめんと謝ると葵はまるで異世界の住民を見るかのごとく奏真を見てきた。それはそれで失礼だと思う。
「……俺でも悪いと思ったりするけど……」
「一瞬宇宙人がお前に乗り移ったのかと思ったぞ」
「……異世界の住民でも宇宙人でもないんだけど」
本当に、何で俺が好きなんだ?
確かに色々と興味ないところは皆と違うかもしれないが、謝っただけで宇宙人かと唖然としてしまうようなやつだと思われているわけだ。だというのに好きだなどとますます謎でしかない。
「いつもだとあまりにお前、我が道を進み過ぎてんだろが」
それは否定できないけども。
「謝るくらいできる……」
「……ぉう……」
何故かその後葵が少し沈黙してきた。いつもは煩いくらい何か文句を言ってきたり偉そうなことを言ってくるのにと奏真は怪訝に思う。静かな葵が珍しいからか、つい聞いていた。
「あんた、何で俺が好きなの」
確かに何故だろうと思ってはいるが、答えを聞いたからといって逆に奏真はその気持ちに答えられるものでもない。聞いても仕方ないことだ。おまけに延々と理由を聞かされるのは勘弁して欲しい。
だが聞いてしまったものは仕方ないと葵を見ると、口をへの字にしてムッとしたような顔している。ムッとすることか? と謎に思っていると葵が口を開いた。
「わからねえ」
「……は?」
「わからねえっつったんだよ!」
「……聞こえてるけど……」
「最初はそもそも俺のこと知らねえウゼェ変なやつくらいにしか思ってなかった」
ますますムッとした顔で言ってきたが、そこはこちらがムッとするところではないだろうかと思いつつも奏真は黙っていた。
「でもいつの間にか好きになってたんだよクソが」
「何でそこでクソがつくの……」
「うるせぇ。俺は女が好きなんだぞ? 俺のアイデンティティ壊されたようなもんなんだよ!」
それは奏真にとって知ったことではないが、確かにもし今まで男に興味なかったのだとしたら、葵からすれば苛立たしいことなのかもしれない。本当に奏真にとって知ったことではないが。
ただそれよりも少しだけ驚いたのは、誰かを好きになるというのは多分凄いことだと何となく思っていたのだが、葵本人には好きになった理由や出来事の自覚がないということだ。
奏真からすれば誰かを好きになる動力は半端なさそうだと思うのに、理由もわからず気持ちや体が動くのかと驚く。人によるのだろうか。好きになる熱量も大きな人もいれば小さな人もいる。こういう理由だから好きになったと明確にわかる人もいればわからない人もいる。そういうことだろうか。
だったら……俺も?
自分も気づかない内に誰かを好きになったり、また好きだと気づかないほど熱量が低かったりする可能性もないとは言えないのだろうか。そう、例えば目の前の男が気づかないうちに思っていたより接しやすかったとふと知るように──
「おい」
「……」
「おい!」
「……ぁ、え?」
「ぼーっとしてんなよ。もしかして湯にのぼせたのか? 上がるか?」
偉そうなのにそういえば優しいところもあるよなとぼんやり思う。
「いや……別にのぼせてない」
「そうか? でもすげぇぼんやりしてんだろが。お前、馬鹿みてぇに食ったかと思うと気づけば満腹で気分悪くなるくらい、いきなりヤバイ状態になるからな」
「……それ、関係ないし」
「あるわ。湯にのぼせんのだって、まだ平気とかいいつついきなり目の前真っ暗になるパターンだろが」
「……。……ほんと何であんた、俺のこと好きなの……」
基本的に悪い部分しか指摘されていない気がする。
「だからわからねえっつってんだろが」
「とにかくのぼせてない」
「……ふーん。だったらこのままキスしてもいいか?」
「は?」
だったらとは。どう繋がるのか。
「いい?」
葵とキス。裸で。
歌も演奏も踊りも上手いくせに、奏真を好きだと本気で言ってくるよくわからない男で。なのに奏真のことをちっともわかってない上にわけのわからないことばかり言ってきて。いつも偉そうで煩くて。
それでいてちゃんと奏真の話を聞いていて、意外に優しくて無理やり何かはしてこなくて。
そんな葵と、裸で、キス。好きなやつとしか、しないと言う、キス──
「い、やだ。絶対、嫌だ」
「んだと、てめぇ!」
熱い。くらくらしてくる。
「って、おい! クソが! やっぱりのぼせてんじゃねぇか! おい!」
奏真の目の前が真っ白になった。
人見知りなどはしないが、一人でいるのが気楽でいい。とはいえ引きこもっていたいのではなく、食べ物に関してや陸上に関してなら好きで動く。
なのでホテルに関してもこの風呂は広くていいが、大抵高級ホテルよりは旅館の方が料理や風呂が楽しめそうだし、何より好きなのはオーベルジュだ。ただし、たまにオーベルジュと銘打っておきながら全然自慢の料理を提供していないところもある。食べることが何より目的である奏真にとってそれは許しがたい。
と、考えが反れたがとにかく奏真自身でもそういった自分を自覚している。それでも人が嫌いといった風に思ったことはない。ただひたすら興味ないだけで。
だからさすがに申し訳ないと思った。今の今でも一体何故自分なんかを好きになったのだと疑問しかないが、葵がずっと奏真を好きだと言っていた上に葵なりに真摯な態度だったのだろうと思う。だというのに勘違いしたまま適当に対応していた。普通に考えて失礼だし酷いくらいは奏真にでもわかる。
ただ、ごめんと謝ると葵はまるで異世界の住民を見るかのごとく奏真を見てきた。それはそれで失礼だと思う。
「……俺でも悪いと思ったりするけど……」
「一瞬宇宙人がお前に乗り移ったのかと思ったぞ」
「……異世界の住民でも宇宙人でもないんだけど」
本当に、何で俺が好きなんだ?
確かに色々と興味ないところは皆と違うかもしれないが、謝っただけで宇宙人かと唖然としてしまうようなやつだと思われているわけだ。だというのに好きだなどとますます謎でしかない。
「いつもだとあまりにお前、我が道を進み過ぎてんだろが」
それは否定できないけども。
「謝るくらいできる……」
「……ぉう……」
何故かその後葵が少し沈黙してきた。いつもは煩いくらい何か文句を言ってきたり偉そうなことを言ってくるのにと奏真は怪訝に思う。静かな葵が珍しいからか、つい聞いていた。
「あんた、何で俺が好きなの」
確かに何故だろうと思ってはいるが、答えを聞いたからといって逆に奏真はその気持ちに答えられるものでもない。聞いても仕方ないことだ。おまけに延々と理由を聞かされるのは勘弁して欲しい。
だが聞いてしまったものは仕方ないと葵を見ると、口をへの字にしてムッとしたような顔している。ムッとすることか? と謎に思っていると葵が口を開いた。
「わからねえ」
「……は?」
「わからねえっつったんだよ!」
「……聞こえてるけど……」
「最初はそもそも俺のこと知らねえウゼェ変なやつくらいにしか思ってなかった」
ますますムッとした顔で言ってきたが、そこはこちらがムッとするところではないだろうかと思いつつも奏真は黙っていた。
「でもいつの間にか好きになってたんだよクソが」
「何でそこでクソがつくの……」
「うるせぇ。俺は女が好きなんだぞ? 俺のアイデンティティ壊されたようなもんなんだよ!」
それは奏真にとって知ったことではないが、確かにもし今まで男に興味なかったのだとしたら、葵からすれば苛立たしいことなのかもしれない。本当に奏真にとって知ったことではないが。
ただそれよりも少しだけ驚いたのは、誰かを好きになるというのは多分凄いことだと何となく思っていたのだが、葵本人には好きになった理由や出来事の自覚がないということだ。
奏真からすれば誰かを好きになる動力は半端なさそうだと思うのに、理由もわからず気持ちや体が動くのかと驚く。人によるのだろうか。好きになる熱量も大きな人もいれば小さな人もいる。こういう理由だから好きになったと明確にわかる人もいればわからない人もいる。そういうことだろうか。
だったら……俺も?
自分も気づかない内に誰かを好きになったり、また好きだと気づかないほど熱量が低かったりする可能性もないとは言えないのだろうか。そう、例えば目の前の男が気づかないうちに思っていたより接しやすかったとふと知るように──
「おい」
「……」
「おい!」
「……ぁ、え?」
「ぼーっとしてんなよ。もしかして湯にのぼせたのか? 上がるか?」
偉そうなのにそういえば優しいところもあるよなとぼんやり思う。
「いや……別にのぼせてない」
「そうか? でもすげぇぼんやりしてんだろが。お前、馬鹿みてぇに食ったかと思うと気づけば満腹で気分悪くなるくらい、いきなりヤバイ状態になるからな」
「……それ、関係ないし」
「あるわ。湯にのぼせんのだって、まだ平気とかいいつついきなり目の前真っ暗になるパターンだろが」
「……。……ほんと何であんた、俺のこと好きなの……」
基本的に悪い部分しか指摘されていない気がする。
「だからわからねえっつってんだろが」
「とにかくのぼせてない」
「……ふーん。だったらこのままキスしてもいいか?」
「は?」
だったらとは。どう繋がるのか。
「いい?」
葵とキス。裸で。
歌も演奏も踊りも上手いくせに、奏真を好きだと本気で言ってくるよくわからない男で。なのに奏真のことをちっともわかってない上にわけのわからないことばかり言ってきて。いつも偉そうで煩くて。
それでいてちゃんと奏真の話を聞いていて、意外に優しくて無理やり何かはしてこなくて。
そんな葵と、裸で、キス。好きなやつとしか、しないと言う、キス──
「い、やだ。絶対、嫌だ」
「んだと、てめぇ!」
熱い。くらくらしてくる。
「って、おい! クソが! やっぱりのぼせてんじゃねぇか! おい!」
奏真の目の前が真っ白になった。
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