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Infinity編
12話
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普段、あまりに傍若無人な貫士ばかりを見ているからか、例え基希が相手であっても大人しく正座をして説教を食らっている様子は違和感の塊だったりする。後から思い返してみても、確かに忌々しそうにそして時に横柄な返事をしながらも、貫士は特に言い返すことなくずっと正座したままだった。
何か弱みでも握られているのだろうかと寛人は思ったが、そもそも基希は貫士と違って性格悪いということはないので弱みをネタに脅したり強請をすることはないように思える。いや、もしあまりに貫士がアレ過ぎて弱みを駆使してでも説教しないとと考えざるを得ないにしても、やはりどう考えても貫士がそもそも弱みを持っているとは思えないし、大人しく言うことを聞くような玉にも見えない。
もしかして、貫士にとって基希は特別なのだろうか。ふとそんな風に思えた。あの二人は年も一歳違いなだけと近いし、寛人も一緒に組む前から確かお互いを知っている。
片や嫌がらせばかりして、片やあんな性格だというのに大人しく言うことを聞く。
何だよそりゃ。
妙に忌々しくてイライラした。
その日は風呂へ入るのも忌々しかった。湯に浸かると何されたか嫌でも思い出すからだ。温めにしたつもりだったがピリリと尻の穴が沁みるように痛んで、思い出したくなくとも思い出す。
もちろん未遂だ。未遂だが、先っぽは入っていた。改めて貫士は死ねばいいと思う。
とりあえずいつか絶対殴る。顔は仕事にならねぇから、吐きたくなるくらい思い切りグーパン腹にぶち込んでやる。
そう思いつつ、ふと物騒なものを突っ込まれようとする前に味わわされた指の感触まで思い出してしまい、寛人は舌打ちして顔まで湯に浸かった。
翌日、音楽番組の出演があったので否応なしに貫士と顔を合わせたが、前回の勉強の時と同じく貫士に悪びれた様子はなかった。むしろいつもと全く変わらない。ついでに基希に正座させられていたとは思えない。
こいつ、絶対反省してねぇ。
内心思いつつも自分だけ反応するのが腹立たしいため、寛人もいつものように基本的に無視しておいた。収録中、貫士はクールな様子でたまに葵に突っ込みを入れていた。
数日後、メンバー五人とも珍しく特に予定が夕方までないため事務所に待機していたら、葵のつき合っている相手である奏真がやって来た。
葵はまだ基希から解放してもらえてないらしい。いくつかのテストやり直しは何とか赤点回避できるようになったらしいが、まだあと少し残っているのだという。
それまでゆっくり奏真に会えないのが思いの外ストレスらしく、むしろ基希が奏真に連絡を取ったようだ。少しでも時間をあまり取らせないよう、葵に向かわせるのではなく奏真を呼び寄せた流れらしい。
「……」
次の仕事まで少し抜けるつもりしかない葵は今、社長室で何やら話している。恐らく重要な仕事話でも何でもなく「絶対遅れないでね、わかってるよね」などと社長に念を押されているのだろう。
しばらく凛太に絡まれた後、手持ちぶさたといった様子で、だが少し興味深げに辺りを伺いながら奏真は立っていた。ふと寛人と目が合うと、無言のままだがペコリと頭を下げてくる。寛人も同じく無言で頭を下げた。
「ごめんね、わざわざ来てもらって」
基希の言葉には一応首を少し振りながらも「いえ……」とだけは言っていた。
相変わらず平凡そうな上に無口そうでもある。葵が奏真の一体どこに惚れたのか全く想像もつかないが、多分寛人の見えていない何かが葵の琴線に触れたのだろう。
そんな奏真も貫士が「エンのスイートちゃん」とからかうようにニコニコして頭を撫でると少しだけ赤くなっていた。すると貫士は楽しげに「平凡ちゃん、反応は意外にかわいいじゃねーか」と片腕で引き寄せている。
奏真の反応が少し違ったのは、奏真が貫士のファンだからだと寛人も知っている。前に葵が忌々しそうに言っていた。
Infinityというバンド自体のファンである中でも貫士のベースが特に好きらしいが、それは忌々しいながらに寛人もわかる。貫士の演奏テクニックは本当に凄い。また音の出し方も絶妙だ。他の音に紛れることなく、逆にベースという低音が出過ぎて音が太くなり他を妨害することもない。
本人の性格とはえらい違いだよな。
そこを思うと寛人は激しく微妙な気持ちになる。とにかく奏真が貫士のベースが一番好きだと思うことに異論はない。ないのだが、何故か何となくもやっとする気がして寛人は怪訝に思った。恐らく相変わらず鬱陶しい貫士の態度のせいだろう。
「っあ、てめ……! 奏真から離れろクソが!」
ただ寛人が何か言う前に葵が社長室から出てきて貫士と奏真に気づき、速攻で奏真を貫士から引き離していた。
「嫉妬か? かわいいやつよな、エンも」
ニヤリと笑う貫士に葵は「うるせぇ」と睨むと、奏真の手をつかんだ。
「現地直行するから。じゃーな」
そしてあっという間に奏真を連れて出て行った。電光石火の勢いとはこのことだろう。あまりにあからさま過ぎる様子に、寛人はむしろ苦笑する。
「エン、ちんこ使う気満々だね!」
凜太がかわいい笑顔でどストレートに口にして、基希に「フータ、少しは包もうね」とニッコリ言われていた。
何か弱みでも握られているのだろうかと寛人は思ったが、そもそも基希は貫士と違って性格悪いということはないので弱みをネタに脅したり強請をすることはないように思える。いや、もしあまりに貫士がアレ過ぎて弱みを駆使してでも説教しないとと考えざるを得ないにしても、やはりどう考えても貫士がそもそも弱みを持っているとは思えないし、大人しく言うことを聞くような玉にも見えない。
もしかして、貫士にとって基希は特別なのだろうか。ふとそんな風に思えた。あの二人は年も一歳違いなだけと近いし、寛人も一緒に組む前から確かお互いを知っている。
片や嫌がらせばかりして、片やあんな性格だというのに大人しく言うことを聞く。
何だよそりゃ。
妙に忌々しくてイライラした。
その日は風呂へ入るのも忌々しかった。湯に浸かると何されたか嫌でも思い出すからだ。温めにしたつもりだったがピリリと尻の穴が沁みるように痛んで、思い出したくなくとも思い出す。
もちろん未遂だ。未遂だが、先っぽは入っていた。改めて貫士は死ねばいいと思う。
とりあえずいつか絶対殴る。顔は仕事にならねぇから、吐きたくなるくらい思い切りグーパン腹にぶち込んでやる。
そう思いつつ、ふと物騒なものを突っ込まれようとする前に味わわされた指の感触まで思い出してしまい、寛人は舌打ちして顔まで湯に浸かった。
翌日、音楽番組の出演があったので否応なしに貫士と顔を合わせたが、前回の勉強の時と同じく貫士に悪びれた様子はなかった。むしろいつもと全く変わらない。ついでに基希に正座させられていたとは思えない。
こいつ、絶対反省してねぇ。
内心思いつつも自分だけ反応するのが腹立たしいため、寛人もいつものように基本的に無視しておいた。収録中、貫士はクールな様子でたまに葵に突っ込みを入れていた。
数日後、メンバー五人とも珍しく特に予定が夕方までないため事務所に待機していたら、葵のつき合っている相手である奏真がやって来た。
葵はまだ基希から解放してもらえてないらしい。いくつかのテストやり直しは何とか赤点回避できるようになったらしいが、まだあと少し残っているのだという。
それまでゆっくり奏真に会えないのが思いの外ストレスらしく、むしろ基希が奏真に連絡を取ったようだ。少しでも時間をあまり取らせないよう、葵に向かわせるのではなく奏真を呼び寄せた流れらしい。
「……」
次の仕事まで少し抜けるつもりしかない葵は今、社長室で何やら話している。恐らく重要な仕事話でも何でもなく「絶対遅れないでね、わかってるよね」などと社長に念を押されているのだろう。
しばらく凛太に絡まれた後、手持ちぶさたといった様子で、だが少し興味深げに辺りを伺いながら奏真は立っていた。ふと寛人と目が合うと、無言のままだがペコリと頭を下げてくる。寛人も同じく無言で頭を下げた。
「ごめんね、わざわざ来てもらって」
基希の言葉には一応首を少し振りながらも「いえ……」とだけは言っていた。
相変わらず平凡そうな上に無口そうでもある。葵が奏真の一体どこに惚れたのか全く想像もつかないが、多分寛人の見えていない何かが葵の琴線に触れたのだろう。
そんな奏真も貫士が「エンのスイートちゃん」とからかうようにニコニコして頭を撫でると少しだけ赤くなっていた。すると貫士は楽しげに「平凡ちゃん、反応は意外にかわいいじゃねーか」と片腕で引き寄せている。
奏真の反応が少し違ったのは、奏真が貫士のファンだからだと寛人も知っている。前に葵が忌々しそうに言っていた。
Infinityというバンド自体のファンである中でも貫士のベースが特に好きらしいが、それは忌々しいながらに寛人もわかる。貫士の演奏テクニックは本当に凄い。また音の出し方も絶妙だ。他の音に紛れることなく、逆にベースという低音が出過ぎて音が太くなり他を妨害することもない。
本人の性格とはえらい違いだよな。
そこを思うと寛人は激しく微妙な気持ちになる。とにかく奏真が貫士のベースが一番好きだと思うことに異論はない。ないのだが、何故か何となくもやっとする気がして寛人は怪訝に思った。恐らく相変わらず鬱陶しい貫士の態度のせいだろう。
「っあ、てめ……! 奏真から離れろクソが!」
ただ寛人が何か言う前に葵が社長室から出てきて貫士と奏真に気づき、速攻で奏真を貫士から引き離していた。
「嫉妬か? かわいいやつよな、エンも」
ニヤリと笑う貫士に葵は「うるせぇ」と睨むと、奏真の手をつかんだ。
「現地直行するから。じゃーな」
そしてあっという間に奏真を連れて出て行った。電光石火の勢いとはこのことだろう。あまりにあからさま過ぎる様子に、寛人はむしろ苦笑する。
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