ドラマのような恋を

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Infinity編

18話

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 その後の貫士は相変わらずいつもと変わらず、何もなかったかのような態度だった。夜も朝も寛人を犯してきたとは思えない。
 とりあえず寛人の家から管理人に連絡を取って鍵のことを話した後、嫌だと言うのに一緒に事務所まで行かされた。

「腕つかんでくんな」
「ほんとうるせーやつだな、てめーは。あちこちガタガタのくせによ」
「誰のせいだと思ってんだよ……!」

 本当に死ねばいいと思い切り睨みつけた後、貫士の手を振りほどいて事務所の中へ入った。少しバランスを崩しかけたが気合いで普通に歩く。

「カンジ……まさかゴンに無理やり変なことしてないよね?」

 一緒に来たのを目ざとく見つけてきた基希が聞いてくる。寛人としては「こいつめちゃくちゃ変なことしやがった」とぶちまけたいところだか、それを言うイコール「カンジにケツを犯されました」と報告することになる。とてつもなく嫌だ。
 なので黙っていた。貫士は舌打ちしながら「スイうるせぇ」と面倒そうにしている。

「うるさくさせてんのはお前の所業のせいでしょ」
「あ? 別に何もしてねーよ」
「本当だろうね」
「あー。つかスイ、てめ、ちょっとこいつのこと気にし過ぎじゃね」
「それもわりとお前のせいだよね」
「そんだけかぁ? 贔屓してんじゃねーの? 他のあいつらと比べてもよぉ」
「……それはお前がそう見えるってことだろう?」
「はっ」
「全く」

 二人のやり取りを見て、やはり貫士と基希は何かあるのではとしか寛人には思えない。

「──おいっつってんだろが」
「……は? あー……、何だよ」
「差し入れあんぞ。食えよ」
「っ食わねえっつってんだろ!」

 そんなに考えに没頭していたつもりはないのだが、何度か貫士に呼ばれていたようだ。ハッとなって聞き返せばまた嫌がらせの一種だった。イライラ言い返すと、寛人はその場から離れる。
 犯されたことに関しては、自分でもびっくりだがさほど落ち込んでいない。もちろん、男だから尻を犯されるくらい、無理やり突っ込まれるくらい平気だ、とは言えない。無理やりは無理やりだ。女だろうが男だろうが、暴力に対しては傷つく。それが性的暴力だって同じだ。精神ダメージが同じか違うかは正直なところ寛人にわからないが、一般的には男であっても傷つくものは傷つく。
 ただ主観的なことを言えば、あれほど身勝手で自己中な男から強引に受けた行為だというのに、何故か寛人はショックをあまり感じていなかった。

 多分あれだ……呆れすぎて傷つく余地もねぇんだ。

 あそこまで当然といった様子で傍若無人なことをされると、いっそショックより呆れが先行するのだろうと独りごちた。それでも腹立たしいのは腹立たしい。ふと視線をやると、貫士と基希が何やら近い距離で話していた。

「ねー、ゴンゴン捨てられた犬みたいな顔してどしたの」
「は? 何だそれ……」

 気づけば凜太が覗き込んできていた。一番年下のくせに身長は貫士の次に高いという忌々しい事実を思い出す。とはいえ、全員一人一人は地味に一センチの差しかないし、寛人も別に小さいわけではない。例えば葵のつき合っている相手、奏真よりは五、六センチは高いと思われる。それでもバンドメンバーの中では地味に一番低い事実は微妙にありがたくない。

「だってそんな感じの顔してたよー」
「知るか。つか覗き込むな」
「素っ気ないなー。あ、ねぇねぇ知ってる? 今日の歌番のやつでフランスの歌手来んだって」
「ふーん」

 フランスだろうがインドだろうが興味ないので、寛人は適当に相槌を打った。
 だが実際現場で寛人は唖然としていた。別に外国人くらい普通に見かけるので、実際何人だろうがそこにいることに驚きはない。そうではなく、貫士にだ。あの傍若無人で自己中で偉そうな貫士がフランス人相手に何かを普通に話している。
 一瞬、日本語が達者なフランス人かと思った。だがそうではなく、貫士のフランス語が達者なのだ。
 本番が始まると、貫士は特にフランス人歌手と接しなかった。通訳は元々いるのでかって出ることもなかった。

「さっき、ゴンゴンめちゃくちゃ変な顔してなかったー?」

 後で凜太がおかしそうに聞いてきた。

「あ? いや、だってカンジだぞ……あのカンジがフランス語……」

 頭がいいのは知っている。だがそれでもなんというか、教養という言葉がこれほど似つかわしくない男はいないと思う。語学を嗜んでいるとか、まるで似合わない。

「ああ。何で? ゴンゴンってほんとカンジに興味ないよねー。つか俺らに興味なくね?」
「は? どういう意味だよ……」
「だって経歴知らなさそう」
「別にいらねーだろ、そんな知識……」

 普通につき合っていくのに不都合はないし、芸能人になる前からのつき合いある一般人である友人の経歴を調べるなんてしたことない。これが普通ではないのか。

「えー、だって俺らの経歴って普通に公開されてんじゃん。一般人と違って。誰でもウィキさん開いたら即わかることだよー」
「……どーでもいいだろそんなん……」
「ほら、冷たいなー」

 冷たいとは違うくないか?

 寛人は微妙な顔で凜太を見た。

「カンジのも普通に載ってるよ。子どもの頃、フランス住んでたことあるって。だから教養とかじゃなくて別に普通に喋れるだけじゃね?」

 マジかよ。

 寛人は唖然とした。あの貫士がフランス?
 似合わない。とてつもなく似合わない。
 仕事を終えて家に帰ってから、だがそういえばやたらお洒落好きではあるなと寛人はハッとした。面倒くさがりのわりに服装などに拘っているところがある。雑誌もやたらお洒落くさいものばかり読んでいる。バンドメンバーとして出演する時は皆、赤と黒を基調としたファッションと決まってはいるが、限られた制限があっても着こなしは悪くないと、ひたすらタンクトップとパーカーを愛する寛人でも思う。
 そう考えてみると、自己主張が強くて好き嫌いがはっきりしているところや気が短く、普段は寡黙なほうでもあるところなどもフランス人っぽいかもしれない。

 いやいや、住んでたことあるだけで、別にフランス人じゃねぇよ。外国住んでたことあるやつ、別にこの業界めちゃくちゃいるだろ……。

 暴走し出した自分の発想に寛人は微妙になった。

 つか、そうだよ。フランス関係ねぇけど好き嫌いはっきりしてんだよな。なのに何であいつ、俺のこと嫌いなくせに構ってくんだよ。嫌がらせがしたいにしても陰湿過ぎんだろ……。フランス人は陰湿だっけか? いや、つかだからフランスに住んでたことあるだけでフランス人じゃねーんだよ。

 一人で突っ込んでいると「挙動不審なやつだな」と笑いながら貫士が入ってきた。

「は? おま、鍵……」
「今日、ついでに作ったけど?」

 けど? じゃねぇよ……!

 寛人は思い切り口を開けつつも貫士を睨みつけた。
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