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3話
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ひたすら自分について考えてみたが、とりあえず前世はほとんど寝たきりだったため、秀でたものなど思い浮かばない。
薬については健康な人よりは詳しいかもしれないが、薬剤師にはもちろん負ける。同様に医療のことも精通しているとは言えない。本や勉強は好きだったが現実の政治経済についてはむしろ疎かったし、寝たきりもあって話術が得意なわけでもなく、誰かと話すのは好きだったが人を惹きつけるような会話術はない。味覚障害が出ていたので途中からはあまり食べられなくなっていたが元々は食べるのは好きだった。とはいえ料理をする体力だってあまりなかったので自分で作ったことすらない。
(おれ、もしかしてほんっとうに無駄に生きてきた……?)
思わずそう考えてしまい落ち込んだ。芝生にうつ伏せていると、だが使用人の一人が見つけてきて「お嬢様っ?」と奇声をあげてきた。死んでいるとでも思われたのかと思ったが、どうやら令嬢として、堂々と一人で庭に出てくるだけでなく芝生に直接寝転がる行為がちょっと、いやかなりアレだったらしい。
気持ちがよかったのになと思いつつ、渋々起き上がってその場から離れた。途中でお茶の時間だと呼ばれ、テラスまでやってきてテーブルにつくと水とお茶、そしてケーキが運ばれてきた。その時にふと、前世では存在しなかった魔法でならひょっとして何かチート能力があるのでは、と期待がもたげてくる。
記憶が戻る前から魔法に関してもイーディスは家庭教師に教わってはいた。まだ十歳になっていなかったので魔封じをされていたため実際に使ったことはないが、理論的にはわかっている。
わくわくしながら水の入ったコップに触れてその力を使ってみようとしたが、何も起こらない。首を傾げていると思い出した。イーディスの媒体は耳につけているサファイアのピアスだ。イーディスは改めてピアスに埋め込まれた宝石に力を注ぐイメージを浮かべた。その上でコップに意識を集中させる。
(わ……!)
途端にコップの中の水が湧き上がるように溢れ出てきた。慌ててイーディスは念じるのをやめた。このままでは危うくこの辺りを水浸しにするところだった。
どきどきしつつ、イーディスは感動する。
魔法だ。魔法を今、自分は使ったのだ。すごい。とてつもなくすごい。こんなこと、前世では到底あり得なかった。ものすごく、すごい。
ただ興奮が少し冷めると改めて今の力を冷静に考える。
水が溢れたことに相当強い力が働いたのかと咄嗟に考えていたが、よく考えると統制の取れていないいい加減な力、とも取れる。現にテーブルはびしょ濡れだ。本当にすごい力なら周りに被害を出すことなく綺麗に使うか、もしくはいっそこの辺り全てを一瞬でびしょ濡れにするくらい目を見張る程の水を出せたのではないのだろうか。
この世界では魔法は珍しいものではない。ということは魔封じの解けたイーディスも使えて当たり前ということだ。珍しいことではない。だがその使った力が初めてとはいえ無防備にコップから水を溢れさせるだけであるなら、もしかしたらチートどころか、とてつもなく普通、なのではないだろうか。
「……うぅん」
日を改め、今度は剣だと意気込んだ。
(魔法にもわくわくしてたけど、そもそもおれ、騎士にめちゃくちゃ憧れてたし)
もしや隠れた能力が開花して最強の騎士になるかもしれない。このディーン侯爵家はそもそも代々騎士の家系だ。現に父親も兄も国王直々の騎士であり、父親はその中でも第二騎士団長兼司令官を勤めている。
(やばい。おれ、憧れの騎士に本当になれるかも)
前世の最期は確か子どもを助けたはずだった。いや、実際子どもが助かったのか残念ながら見届けられなかったのだけれども、多分助けられたと思っている。憧れていた騎士のように誰かを守れたとイーディスは満足して最期を迎えた気がする。
それもあり、今こうして記憶が残っているのは心残りというよりはもしかしたら神様のご褒美かもしれない、なんて呑気なことを考えた。よってなおさらチート能力が自分の中にあるのでは、と探していた。
早速イーディスは身近な騎士である下の兄の元へ向かった。確かここ数日は父親も兄たちも休暇で家にいるはずだった。イーディスの十歳の誕生日という名目で。結局その後高熱で何日もうなされることになったのだが、どうやら父親も兄たちも心配でまだいてくれていたようだ。ただでさえ子どもと大人は日中ほぼ顔を合わせることがないというのに、多分もう数日もすればまた普段は仕事でますます会えなくなるだろう。今がチャンスだった。
「ランスお兄さま」
「ディー。ほんと元気になってよかった」
とりあえずまず向かった二番目の兄、ランスはイーディスの一つ上なのでどのみちまだ働いてはいない。だが剣の才覚はあるようで、ランスと同じ歳である第二王子の側近として王宮へ上がる予定だ。第二王子のレナード・スタンナードはランスの親友でもあるらしく、ランスは「あいつに俺、忠誠誓って守り抜くとかちょっと笑っちゃいそう」などと王子に対して茶化したことを言ったりしていた。
「あのね、私、剣を教えて欲しいの」
「え、何で」
「何でって、やりたいから」
「な、何言ってんだよディー。駄目だよそんなの。危ないから駄目だ」
「危なくないよう、教えてくれたらいいでしょ」
「危ないから駄目」
だから危険じゃなくなるよう、使い方を教えて上手く使えるようものにしてくれたら危なくないだろって言ってんだよおれは! などと言いたくなったがニコニコと笑顔で堪えた。ため息をつきたくなるのも堪え、イーディスは次を目指す。
もう一人の兄、テイマーはイーディスの八歳上であり、父親と同じように国王直々の騎士団で騎士を勤めている。そしてディーン家の次期当主でもある。ランスよりも真面目であるテイマーはイーディスにしてみたら歳が離れすぎていてあまり兄らしく思ってはいなかったが、前世では兄弟などいなかった記憶を思い出したイーディスからすればしょせん精神的には年下だ。説得してやるぜと意気込んで応接間でテイマーを見つけたイーディスはものの五分ももたずに玉砕した。危ないからと言われただけでなく「令嬢としてあるまじき」とまで言われた。その後最後の頼みとばかりに父親にお願いしに行ったが二人の兄同様「危ないから駄目」だと言われた。前途多難でしかない。
薬については健康な人よりは詳しいかもしれないが、薬剤師にはもちろん負ける。同様に医療のことも精通しているとは言えない。本や勉強は好きだったが現実の政治経済についてはむしろ疎かったし、寝たきりもあって話術が得意なわけでもなく、誰かと話すのは好きだったが人を惹きつけるような会話術はない。味覚障害が出ていたので途中からはあまり食べられなくなっていたが元々は食べるのは好きだった。とはいえ料理をする体力だってあまりなかったので自分で作ったことすらない。
(おれ、もしかしてほんっとうに無駄に生きてきた……?)
思わずそう考えてしまい落ち込んだ。芝生にうつ伏せていると、だが使用人の一人が見つけてきて「お嬢様っ?」と奇声をあげてきた。死んでいるとでも思われたのかと思ったが、どうやら令嬢として、堂々と一人で庭に出てくるだけでなく芝生に直接寝転がる行為がちょっと、いやかなりアレだったらしい。
気持ちがよかったのになと思いつつ、渋々起き上がってその場から離れた。途中でお茶の時間だと呼ばれ、テラスまでやってきてテーブルにつくと水とお茶、そしてケーキが運ばれてきた。その時にふと、前世では存在しなかった魔法でならひょっとして何かチート能力があるのでは、と期待がもたげてくる。
記憶が戻る前から魔法に関してもイーディスは家庭教師に教わってはいた。まだ十歳になっていなかったので魔封じをされていたため実際に使ったことはないが、理論的にはわかっている。
わくわくしながら水の入ったコップに触れてその力を使ってみようとしたが、何も起こらない。首を傾げていると思い出した。イーディスの媒体は耳につけているサファイアのピアスだ。イーディスは改めてピアスに埋め込まれた宝石に力を注ぐイメージを浮かべた。その上でコップに意識を集中させる。
(わ……!)
途端にコップの中の水が湧き上がるように溢れ出てきた。慌ててイーディスは念じるのをやめた。このままでは危うくこの辺りを水浸しにするところだった。
どきどきしつつ、イーディスは感動する。
魔法だ。魔法を今、自分は使ったのだ。すごい。とてつもなくすごい。こんなこと、前世では到底あり得なかった。ものすごく、すごい。
ただ興奮が少し冷めると改めて今の力を冷静に考える。
水が溢れたことに相当強い力が働いたのかと咄嗟に考えていたが、よく考えると統制の取れていないいい加減な力、とも取れる。現にテーブルはびしょ濡れだ。本当にすごい力なら周りに被害を出すことなく綺麗に使うか、もしくはいっそこの辺り全てを一瞬でびしょ濡れにするくらい目を見張る程の水を出せたのではないのだろうか。
この世界では魔法は珍しいものではない。ということは魔封じの解けたイーディスも使えて当たり前ということだ。珍しいことではない。だがその使った力が初めてとはいえ無防備にコップから水を溢れさせるだけであるなら、もしかしたらチートどころか、とてつもなく普通、なのではないだろうか。
「……うぅん」
日を改め、今度は剣だと意気込んだ。
(魔法にもわくわくしてたけど、そもそもおれ、騎士にめちゃくちゃ憧れてたし)
もしや隠れた能力が開花して最強の騎士になるかもしれない。このディーン侯爵家はそもそも代々騎士の家系だ。現に父親も兄も国王直々の騎士であり、父親はその中でも第二騎士団長兼司令官を勤めている。
(やばい。おれ、憧れの騎士に本当になれるかも)
前世の最期は確か子どもを助けたはずだった。いや、実際子どもが助かったのか残念ながら見届けられなかったのだけれども、多分助けられたと思っている。憧れていた騎士のように誰かを守れたとイーディスは満足して最期を迎えた気がする。
それもあり、今こうして記憶が残っているのは心残りというよりはもしかしたら神様のご褒美かもしれない、なんて呑気なことを考えた。よってなおさらチート能力が自分の中にあるのでは、と探していた。
早速イーディスは身近な騎士である下の兄の元へ向かった。確かここ数日は父親も兄たちも休暇で家にいるはずだった。イーディスの十歳の誕生日という名目で。結局その後高熱で何日もうなされることになったのだが、どうやら父親も兄たちも心配でまだいてくれていたようだ。ただでさえ子どもと大人は日中ほぼ顔を合わせることがないというのに、多分もう数日もすればまた普段は仕事でますます会えなくなるだろう。今がチャンスだった。
「ランスお兄さま」
「ディー。ほんと元気になってよかった」
とりあえずまず向かった二番目の兄、ランスはイーディスの一つ上なのでどのみちまだ働いてはいない。だが剣の才覚はあるようで、ランスと同じ歳である第二王子の側近として王宮へ上がる予定だ。第二王子のレナード・スタンナードはランスの親友でもあるらしく、ランスは「あいつに俺、忠誠誓って守り抜くとかちょっと笑っちゃいそう」などと王子に対して茶化したことを言ったりしていた。
「あのね、私、剣を教えて欲しいの」
「え、何で」
「何でって、やりたいから」
「な、何言ってんだよディー。駄目だよそんなの。危ないから駄目だ」
「危なくないよう、教えてくれたらいいでしょ」
「危ないから駄目」
だから危険じゃなくなるよう、使い方を教えて上手く使えるようものにしてくれたら危なくないだろって言ってんだよおれは! などと言いたくなったがニコニコと笑顔で堪えた。ため息をつきたくなるのも堪え、イーディスは次を目指す。
もう一人の兄、テイマーはイーディスの八歳上であり、父親と同じように国王直々の騎士団で騎士を勤めている。そしてディーン家の次期当主でもある。ランスよりも真面目であるテイマーはイーディスにしてみたら歳が離れすぎていてあまり兄らしく思ってはいなかったが、前世では兄弟などいなかった記憶を思い出したイーディスからすればしょせん精神的には年下だ。説得してやるぜと意気込んで応接間でテイマーを見つけたイーディスはものの五分ももたずに玉砕した。危ないからと言われただけでなく「令嬢としてあるまじき」とまで言われた。その後最後の頼みとばかりに父親にお願いしに行ったが二人の兄同様「危ないから駄目」だと言われた。前途多難でしかない。
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