転生少女は憧れの騎士として生きたい

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4話

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 父親にも兄たちにも駄目だと言われ、イーディスは途方にくれる。さすがに剣の知識など全くない。柄を握り振ればなんとかなるような気がする時点で完全に素人の浅はかさだと自分でもよくわかる。そんな状態では隠れた能力の開花どころか兄たちの言うように単に危ないだけだろう。
 ランスの一つ上でありイーディスの二つ上になる姉、エレンに相談してみたがやはり「必要ないし危ない」と言われただけだった。それはそうだろう。エレンはイーディスが想像する貴族のお嬢様そのものといった風に穏やかで淑やかで優しい。おまけに前世のイーディスとまではいかないが病弱らしくてよく寝込んでいる。そんなエレンが「いいですね、やりなさい」とでも言うと思ったか、とイーディスは自分に突っ込んだ。
 ついでにエレンの病弱体質について考えてみる。前世での自分なりに知っている知識をかき集めても特にこれといった病気ではない気がする。しいて挙げれば「体があまり強くないようだから動かない、動かないからお腹が空かない、お腹が空かないからあまり食べられない、食べられないから栄養が摂れない、栄養が摂れないから元気がなくなる、元気がなくなるから換気の悪い部屋に閉じこもる、閉じこもるから体も強くならない、強くないようだから──」といった悪循環のコンボではないだろうか。
 微妙な気持ちでそれに気づいてから、イーディスはまず栄養あるスープなどのレシピを料理人に作ってもらうことから始めた。スープで少し体力がついたらちょっとしたテラスだけの散歩から誘おうと思うし、その間に部屋を換気させ掃除させよう。こういったことでエレンが少しでも元気になることを願う。ちなみに前世で料理はできなかったが、副作用で味覚が変わるまでは食べることが元々好きだったためよく料理の本も読んでいたイーディスにとって、多少の料理なら作り方くらい余裕で把握している。
 なんにせよ、前世では騎士や剣士にとても憧れていたくらいなのだ。誰からも「危ないから」と言われてもこんなに目の前に可能性があるというのに諦めきれるものではない。
 庭にある小屋は以前、世間でガーデン・ハーミットという庭園隠者を雇うのが流行っていたため父親の祖父が建てたものらしい。イーディスもよくわからないが土地持ちの貴族といった富裕層の間での流行らしく、自宅の庭の装飾品として、置物などの無機物だけでは飽き足らず人を雇って敷地内の小屋に住まわせ、主人が来客をもてなす際にさも隠遁者かのごとくな恰好をして姿を現わさせるのだ。改めて考えてもよくわからない嗜好だし流行る理由もわからないがそういうものなのだろう。
 今はそういった者はいないがその頃の小屋だけは残っている。外観は雰囲気もあるためそのままにして、今では物置として使用しているようだ。イーディスはそこへ行き、誰も使わなくなった剣をこっそり持ち出した。

「……おっも……! え、無理。こんなの持ち上がりもしない」

 引きずるようにして持ってきたはいいが、剣は振るどころか持ち上げることすらできなかった。その剣は諦め、さらに中を探すとおそらく兄たちが小さな頃に使っていたのだろう、古い子ども用の剣を見つけた。これだ、とテンションを上げ、イーディスは次にそれを振ってみた。これなら何とか振ることはできる。ただ、やはり正しい振り方がわからない。これではやみくもに振っても変な癖がついてしまい、むしろ後悔しそうだ。
 どうしようかと思い悩んだ挙句、二番目の兄が行っている剣の訓練をこっそり眺めてそれを基準にしてひとまずは覚えることにした。
 最初はしっかりひたすら眺める。つぎに剣を持たないまま、何とか型を手振り身振りで覚えた。多分傍から見れば相当滑稽だっただろうと思われる。

(いや、私は見た目が可愛いから間抜けってよりきっと微笑ましい感じだよきっと。だって剣は危ないから駄目って言われて膨れた時だって微笑ましい顔で皆、私を見てきたし……それに前世のおれが必死に剣を振る素振りしている幼女見たらきっと絶対微笑ましいし。……多分。多分)

 実際、周りは薄々気づいていた。最初は一体イーディスは何をやっているのだろうかと、微笑ましいというよりは剣とは違う意味で心配していたが、その内に兄のランスの真似をして剣の勉強をしているのだと気づいた。そうまでして覚えたいのかと思ったが、やはりできれば危ないので正式に教えたくはないというのが皆考えることだったようで、結局黙認することにした。ただし危険がないよう、こっそりランスの従者であるダリー・デリアが見守る役につくこととなった。
 そんなこととはつゆ知らず、イーディスは最近よく自分のそばで見かけるダリーに笑いかける。

「最近よく近くにいるね」
「そ、そうですかね?」
「ふふ。私、知ってるんだよ」
「なっ、え、もうバレて?」
「だってわかるよ。私の侍女のサラが好きなんでしょ」
「……っえ? あ、え? いや、そうじゃなくて、あ、でも、え、なんで」

 ダリーはかわいそうなくらい取り乱していた。そこへたまたまやってきたサラに「ダリー! もしかして私のお嬢様に何かしたんじゃないでしょうね」などと叱られてしまい「むしろされたようなものなのは俺のほうだ」と泣きそうな顔になっていた。
 型を何とか覚え、剣をようやく手にして振ってみたが、やはり振り回されている感が半端ない。もしや筋力が弱いからかと若干十歳の少女ながらにイーディスは筋力アップを計り運動を始めてもみた。これも前世で本から得た知識だ。あの頃は筋力どころかストレッチすらまともにできない体ではあったが。
 どのみち今は元気な子どもなので基本的に動きまわっても大して疲れないし、前世が寝たきりだったため、運動そのものも楽しくてならない。
 だが数か月後、イーディスはとりあえず悟ったことがある。

 チート能力なんて、なかった。
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