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13話
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レナードは言うもんか、といった様子だったが、イーディスがそんなレナードを扱えなかったことなどない。結局あっさりばらしてきた。
「だって好きな人には苦手なものがあるなんてバレたくないでしょ。カッコ悪いし……」
「うじうじそんなこと考えてるほうがカッコ悪いよ」
「う……」
とはいえ気持ちはわかる。前世では二十四年間、寝たきりとはいえ男をやっていたので気持ちはわかる。ぽんぽんとテーブル越しに頭を撫でるとレナードは顔を赤くしてきた。
「それに……イーディスが作ってくれたお菓子を僕に持ってきてくれたのに、それを断るなんてできない」
嬉しかったんだ、と赤い顔を少々伏せながらレナードが言ってきた。
ああ、こういうところは可愛いな。
不覚にもそう思ってしまった。
イーディスが剣を振り回すことを最初は驚きつつも受け入れてくれているレナードは、イーディスが自ら菓子を作ると聞いても「食べてみたいな」と嬉しそうに受け入れてくれた。そういう部分も嬉しいし好きだとは思う。
「それは嬉しいけどレナード、嫌いなものを我慢して食べられるよりは最初から嫌いだと言ってくれたほうが私はいいよ」
「わ、わかった。ごめんね」
「謝らなくていいから、次からは教えてよ」
「うん」
レナードが嬉しそうに満面の笑みで頷いてきた。これで一つ上のそれも王子なのだから全く、とイーディスは苦笑する。
「で、イーディス。僕も教えて欲しいな。……誰がばらしたのか」
だがその後にレナードの純粋で可愛らしい満面の笑みに陰りが過る。ああ、これは言わない方がいいやつだとイーディスは笑顔のまま口元を引きつらせ、思った。令嬢たちの身を案じ「たまたま知っただけだから」とひたすら受け流した。
数日後、イーディスはこの間レナードの弱点を教えてくれた令嬢たちの中で、あの時転びかけた令嬢と出くわした。イーディスが前世から持つイメージではあるが女の子特有の、何人かで行動するパターンと違って多分珍しく一人で歩いている。
「や……あら、この間の」
思わず「やあ」と声をかけそうになりイーディスは丁寧な感じに誤魔化した。令嬢はイーディスに気づくと顔を赤くして驚き、戸惑っている。その拍子に手にしていた扇子を落としていた。
「どうしたの、怒っていらっしゃるの?」
まさか顔を赤くするほどの憤りを感じられているとは、と少々ショックだが仕方がないのかもしれない。この令嬢もレナードが好きだからこそ徒党を組んでいたのだろうし、それならイーディスを見れば忌々しく思ってしまうのだろう。できるのであれば仲良くしたいし残念だなとイーディスはそっと思った。
「お、怒ってなどおりません。急でしたのでびっくりしただけですわ」
「本当? 怒ってないのなら嬉しいな」
よかったと令嬢が落とした扇子を拾い、笑いかけながら差し出した。落とした際に開いた扇子の柄にそして気づくと「なんて綺麗な刺繍。これ、あなたがされたの?」と聞いた。
実際扇子に施された繊細な刺繍はとても綺麗で色もとても上品だった。
扇子を差し出され、おずおずと手を伸ばしていた令嬢はますます顔を赤くして俯いてしまった。もしかして聞いてはいけないマナーか何かあっただろうかとイーディスも少しおろおろとする。
「あの、何か私は失礼なことを聞いてしまった?」
「ち、違いますわ。その……ええ、私が縫いました」
「ほんと? なんてすごいんだろう! ほんっとにこれ、素敵。あなた……」
「ヒルデガルト」
「え?」
「ヒルデガルトですわ! 私の名前です」
名前を教えてくれた。もうこれは友だちだと宣言しているようなものではないのだろうかとイーディスは目を煌かせた。
「嬉しい、ヒルデガルト。では私のこともイーディスかもしくはディーと呼んで欲しいな」
「デ、ディー。その、……私のことはヒルデ、と……」
そんな様子をたまたま近くで見ていたらしい兄のランスが家で「とうとう俺の可愛い妹が他の令嬢を落としにかかってた……」と、喜んでいるのか嘆いているのかわからない様子で上の兄であるテイマーに言っていたと後でイーディスは聞いた。納得がいかない。
むしろできるのであれば令嬢たちと喜んで恋愛していただろう。前世でチートな主人公がやたらとハーレム状態になっていたように、イーディスだってできるのであれば可愛い女の子たちとたくさん付き合ってみたかった。しかしイーディスは女として生まれてきた。残念ながら前世から同性愛者ではなかったイーディスとしては可愛かろうが何だろうが女相手に恋愛は対象外だ。自分の心の片隅が(女の子可愛い)と訴えていても大半の心と体が(でも無理です)とブレーキをかけてくる。
かといって、では男が対象になるかといえばその心の片隅が(いやいや無理に決まってんだろ)とブレーキをかけてくるのでどうしようもない。十回くらい性別を変えて生まれ変わりを繰り返していれば何でも来いと思えていただろうか。とりあえず、やはり将来は騎士となるか、学士となるか、無理な場合修道女になるかだろうか。
ばったり顔を合わせたランスにイーディスは「私のことで訳のわからない心配をなさるより、自分の心配をしてランスお兄さま。いつ可愛らしい恋人を連れてこられるの?」と聞いてやった。ランスも王子たちほどではないにしても見た目はいいし家柄もいい上に王子の側近をしている。こぞって令嬢たちの親が自分の娘を嫁にしたいと思っているのだろうが、結婚に夢でも見ているのかランスは自分で相手を決めたいらしい。内心とても素敵なことだとは思いつつ、今は忌々しいのであえて嫌味として言っておいた。
「だって好きな人には苦手なものがあるなんてバレたくないでしょ。カッコ悪いし……」
「うじうじそんなこと考えてるほうがカッコ悪いよ」
「う……」
とはいえ気持ちはわかる。前世では二十四年間、寝たきりとはいえ男をやっていたので気持ちはわかる。ぽんぽんとテーブル越しに頭を撫でるとレナードは顔を赤くしてきた。
「それに……イーディスが作ってくれたお菓子を僕に持ってきてくれたのに、それを断るなんてできない」
嬉しかったんだ、と赤い顔を少々伏せながらレナードが言ってきた。
ああ、こういうところは可愛いな。
不覚にもそう思ってしまった。
イーディスが剣を振り回すことを最初は驚きつつも受け入れてくれているレナードは、イーディスが自ら菓子を作ると聞いても「食べてみたいな」と嬉しそうに受け入れてくれた。そういう部分も嬉しいし好きだとは思う。
「それは嬉しいけどレナード、嫌いなものを我慢して食べられるよりは最初から嫌いだと言ってくれたほうが私はいいよ」
「わ、わかった。ごめんね」
「謝らなくていいから、次からは教えてよ」
「うん」
レナードが嬉しそうに満面の笑みで頷いてきた。これで一つ上のそれも王子なのだから全く、とイーディスは苦笑する。
「で、イーディス。僕も教えて欲しいな。……誰がばらしたのか」
だがその後にレナードの純粋で可愛らしい満面の笑みに陰りが過る。ああ、これは言わない方がいいやつだとイーディスは笑顔のまま口元を引きつらせ、思った。令嬢たちの身を案じ「たまたま知っただけだから」とひたすら受け流した。
数日後、イーディスはこの間レナードの弱点を教えてくれた令嬢たちの中で、あの時転びかけた令嬢と出くわした。イーディスが前世から持つイメージではあるが女の子特有の、何人かで行動するパターンと違って多分珍しく一人で歩いている。
「や……あら、この間の」
思わず「やあ」と声をかけそうになりイーディスは丁寧な感じに誤魔化した。令嬢はイーディスに気づくと顔を赤くして驚き、戸惑っている。その拍子に手にしていた扇子を落としていた。
「どうしたの、怒っていらっしゃるの?」
まさか顔を赤くするほどの憤りを感じられているとは、と少々ショックだが仕方がないのかもしれない。この令嬢もレナードが好きだからこそ徒党を組んでいたのだろうし、それならイーディスを見れば忌々しく思ってしまうのだろう。できるのであれば仲良くしたいし残念だなとイーディスはそっと思った。
「お、怒ってなどおりません。急でしたのでびっくりしただけですわ」
「本当? 怒ってないのなら嬉しいな」
よかったと令嬢が落とした扇子を拾い、笑いかけながら差し出した。落とした際に開いた扇子の柄にそして気づくと「なんて綺麗な刺繍。これ、あなたがされたの?」と聞いた。
実際扇子に施された繊細な刺繍はとても綺麗で色もとても上品だった。
扇子を差し出され、おずおずと手を伸ばしていた令嬢はますます顔を赤くして俯いてしまった。もしかして聞いてはいけないマナーか何かあっただろうかとイーディスも少しおろおろとする。
「あの、何か私は失礼なことを聞いてしまった?」
「ち、違いますわ。その……ええ、私が縫いました」
「ほんと? なんてすごいんだろう! ほんっとにこれ、素敵。あなた……」
「ヒルデガルト」
「え?」
「ヒルデガルトですわ! 私の名前です」
名前を教えてくれた。もうこれは友だちだと宣言しているようなものではないのだろうかとイーディスは目を煌かせた。
「嬉しい、ヒルデガルト。では私のこともイーディスかもしくはディーと呼んで欲しいな」
「デ、ディー。その、……私のことはヒルデ、と……」
そんな様子をたまたま近くで見ていたらしい兄のランスが家で「とうとう俺の可愛い妹が他の令嬢を落としにかかってた……」と、喜んでいるのか嘆いているのかわからない様子で上の兄であるテイマーに言っていたと後でイーディスは聞いた。納得がいかない。
むしろできるのであれば令嬢たちと喜んで恋愛していただろう。前世でチートな主人公がやたらとハーレム状態になっていたように、イーディスだってできるのであれば可愛い女の子たちとたくさん付き合ってみたかった。しかしイーディスは女として生まれてきた。残念ながら前世から同性愛者ではなかったイーディスとしては可愛かろうが何だろうが女相手に恋愛は対象外だ。自分の心の片隅が(女の子可愛い)と訴えていても大半の心と体が(でも無理です)とブレーキをかけてくる。
かといって、では男が対象になるかといえばその心の片隅が(いやいや無理に決まってんだろ)とブレーキをかけてくるのでどうしようもない。十回くらい性別を変えて生まれ変わりを繰り返していれば何でも来いと思えていただろうか。とりあえず、やはり将来は騎士となるか、学士となるか、無理な場合修道女になるかだろうか。
ばったり顔を合わせたランスにイーディスは「私のことで訳のわからない心配をなさるより、自分の心配をしてランスお兄さま。いつ可愛らしい恋人を連れてこられるの?」と聞いてやった。ランスも王子たちほどではないにしても見た目はいいし家柄もいい上に王子の側近をしている。こぞって令嬢たちの親が自分の娘を嫁にしたいと思っているのだろうが、結婚に夢でも見ているのかランスは自分で相手を決めたいらしい。内心とても素敵なことだとは思いつつ、今は忌々しいのであえて嫌味として言っておいた。
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