転生少女は憧れの騎士として生きたい

Guidepost

文字の大きさ
16 / 27

16話

しおりを挟む
 あの後、その上からあえてゆったりとした稽古着を着て誤魔化し、サラに残りの外側に着るペティコートや髪をアップにすることで首を隠すためのネックチーフ、ショートガウン、エプロン、そして白いリネンのキャップをまとめてもらい、イーディスはいつものようにレナードとの待ち合わせ場所へ向かった。乗馬で泉のところまで向かったら残りの衣装をレナードに手伝ってもらい身につけるつもりだった。
 後は上から追加していくだけなので外で着替えても問題ないだろうと踏んでいたのだが、それでもレナードには狼狽えられた。

「狼狽えてないで手伝って」
「で、でもレディの着替えを手伝うなんて」
「これは着替えというより上着を羽織るようなものだと思って。あとレディじゃなくて幼馴染の友人だから」
「もう……! 君ね、そんなだといつか僕に襲われるからね」
「あら、本当? あなたが? 私を襲うの?」
「……襲わない。けど君は僕を苦しめてる」

 確かに好きな女性が近くにいるだけでも多分圭吾だった時なら緊張して大変だったかもしれない。経験がなくてわからないが少なくとも当時はレナードと同じ男だったので全く気持ちがわからない訳でもない。ただイーディスとしては友人にちょっとした手伝いを頼んでいる感覚でしかなかった。

「わかったから。ごめんね、レナード。じゃあ自分でがんばるからもうちょっと待ってて」
「いいよ……手伝う。そのガウン、腕を通すんだね」
「ありがとう、レナード」
「ううん。ああでもどうせ手伝うならさっき君がやってたネックチーフをステイズとやらの中にしまうのを手伝いたかったな」

 先ほどイーディスは首元を隠すために首と肩にかけたネックチーフの先をステイズの中、要は胸元に押し込んでいた。

「このわんちゃんは全く……」
「王子を犬扱いするなんて君くらいなものだから」

 いつものポニーテールと違い、髪は完全に結い上げている。そこにリネンのキャップを着用した。細いリボンを結んで固定する。町では女性が髪を見せるのはふしだらだと言われているらしい。そのため頭巾やキャップで髪を隠す。

「へえ。なら宮廷に出てくる女性たちは皆ふしだらってことか……そう思うと退屈なパーティも楽しめそうだな」

 思わず口にした後でレナードが「あ、そ、その、深い意味はないからね!」と慌てて訂正してきた。

「別に訂正しなくとも何とも思わないよ」

 イーディスも親しい友人がいないのならパーティなど退屈な集まりでしかないと思っている。確かにレナードの言う通り、庶民目線で見ればふんだんにお洒落をしてくる淑女たちは皆下手をすれば娼婦だろう。そう思うとイーディスだって楽しく思えそうだ。ただし「大丈夫、私もそれ同意だよ」などとはさすがに言えないのでさらりと流しておいた。
 準備が済むと二人で城下町へ向かった。馬で近くまで行くと繋いでおき、町へは徒歩で入る。門を通ると客待ちしている馬車や花を売っている店などがあって早速賑やかだった。石畳を歩くと少しすれば広場へ出た。様々なマーケットが集まっている。

「わあ、すごい! 賑やかだね」
「ここね、処刑場にもなるんだ」
「ああ……なるほど」

 確かにこれだけ広いとそういう場にもピッタリなのだろう。思わず前世での知識で知ってるギロチンを浮かべてしまい、イーディスはぞっとした。

「あ、ごめん……。怖がらせた?」
「いいえ。そういうこともちゃんと知っておきたいし言ってくれてありがたいかな」
「そっか。……ねえ、イーディス! 美味しそうな焼肉を見つけたよ! あれ、買いに行こう」
「賛成!」

 二人でテントのようなマーケットを見て回り、食べ歩いた。時折不思議な雑貨やアクセサリー、衣装を売っている店もあり、飽きることがない。
 イーディスは完全に庶民に溶け込めたが、レナードは魔法で髪の色を変えていてもどことなく高貴な匂いでもするのだろうか。店の先々で「お金持ちの旦那」か何かだと思われていてイーディスは「じゃあ私は旦那様の奴隷かな」などとおかしく口にする。

「やめてよ、それなら旦那様の奥さんになって」
「私はだって庶民だから」
「なら僕だって」
「あなたはどうやら高貴な雰囲気から脱せてないようよ」

 それでも別に王子だと疑う者はいないようで、二人は存分に買い物を楽しんだ。

「レリアード第三王子生誕記念コインなんてものも売ってたね」
「はは。じゃあ買っておくかな?」
「確かに記念かもね」

 そんなことを言いながら歩いているとレナードが「ねえ」とイーディスに呼びかけてきた。

「何かアクセサリーをプレゼントさせてくれない?」
「いらな……わかった、わかったから。もらうからそんな必死の顔で見てこないで」

 いらないと言いかけたイーディスは苦笑しながらレナードの手を引いた。すぐに顔を赤らめてきたレナードだったが、嬉しそうに笑うとイーディスの手を握ってくる。

「混んでるし迷わないように手を繋いでいてもいいよね?」
「繋いでから言うことなの? あ、ねえ! くれるのなら私、あれがいいかな」

 綺麗な布などを売っている店の片隅に置いてある細いリボンをイーディスは指差した。宝石などよりは高価でないし、それにイーディスのピアスと似た色をしている。ディーン家のサファイアの色だ。

「リボン? 綺麗な石のついたネックレスや髪飾りなどじゃなく?」
「ええ。私、最近いつも髪を上げているでしょう? 今はリネンのキャップを被ってるからつけられないけど、きっとこのリボンは私の髪に似合うと思うの」
「そ、そうだね! うん、確かにこのサテンの色は君の髪にも瞳にも合うし、ピアスともぴったりだね。じゃあこれにしよう」

 その後二人で町に流れている川の橋を渡った。橋では大道芸人や絵描きがちらほらといて、人が集まったりしている。渡りきると坂を上ってその上にある塔へ向かった。そこから町が一望できるという。
はぁはぁ息を切らせながらかけっこをしたりして登りきると、塔の上から町を見渡した。

「わぁ……!」

 美しい町の建造物が見渡せた。おまけに向こうの方には城や修道院も見える。

「あっちの旧市街地は貴族の住まいが、そしてこちら側には主に商業系の店が多いみたいだよ。ああ、そういえばあそこの修道院はステンドグラスが美しいと有名だったし、後で見に行こうか」
「うん、行く!」

 とても楽しくてずっとここにいたいとまでほんのり思ってしまった。そのせいでか、予定よりも帰るのが遅くなってしまいあっという間にイーディスは皆に町へ行っていたことがバレた。ただ、一応怒られはしたがどちらかというとレナードの方が側近のはずのランスによってかなり説教を受けたようだ。何度も「俺の妹を」と言っていたらしいのでシスコンのせいかもしれない。日を改めてレナードには謝っておこうとイーディスはそっと思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました

志熊みゅう
恋愛
 十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。  卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。  マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。  その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。  ――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。  彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。  断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

処理中です...