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25話
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最近イーディスは新たな悩みを抱えていた。とはいっても剣のことほど深刻ではないのだが、何というのだろうか、よくわからなくて悩むというのだろうか。
レナードのことだ。レナードが最近ますます近いというか懐いているというか、とにかく積極的な言動を取ってくる気がする。レナードが学校の帰りまで家に馬車でイーディスを送り届けてくれることに関してはイーディスの不甲斐なさが原因だとはさすがにもう思っていないが、その代わり心配してくれているからとわかっていながらも積極的な言動の一つのようにも思えてしまう。
以前から素直に「好き」だの「婚約して欲しい」だの言っていたのだが、以前はまだ口だけというか、気持ちは本気なのだろうがそこまで本気で言ってきていなかったように思っている。だが最近は違う。むしろ婚約して欲しいとはあまり言ってこないがとてもガンガン来られている気がしてしまう。それで調子が狂うのか、自分までなんだか変な気がするのだ。
授業を終えた後でイーディスはふと、姉に相談してみようと思い立った。こういう時こそ同性の、目上であり身近な存在に助けを求めるべきだろう。前世では姉も兄もいなかったから親に甘える感覚と友人と接する感覚がごちゃ混ぜになったような風に接していたように思うが、今こそまさに姉を頼る時だとイーディスは意気込んだ。
思い立ったが吉日だとばかりに、イーディスは学園のサロンにいたエレンの元へ駆けつけた。だがその際にビリーを伴ったジュードもいることに気づき、思わず内心ジュードに土下座した。
「お、お邪魔してしまい……」
「何を言うんだ、イーディス。俺は構わない」
相変わらずいい人な王子が申し訳なくて不憫で、イーディスはさらに心の中で土下座する。
「どうしたの、ディー。あなたが相談したいなんて珍しい」
二人きりになりたいであろうジュードに気づいていないのか気づいていてそれでもイーディスなのか、エレンが微笑みながらも心配そうな顔を向けてきた。
「あのね──」
イーディスはモヤモヤとすることをエレンに説明した。しかし説明しながらだんだん落ち着かない気持ちになっていく。これはひょっとして、人前で話すようなことではないのではないだろうかとそわそわしてきた。対してエレンは「まあ」「あら」と時折妙に楽しそうにしながら聞いている。そして聞き終わった途端、満面の美しい笑みで「それは恋ね、ディー、あなたレナードに恋してるのよ」などと穏やかながらにはっきり言ってきた。
(もう少し、せめてもう少しオブラートに包んで言って欲しかったよエレンお姉さま)
脱力した後に妙な羞恥心と共に納得のいかない気持ちがふつふつと湧いてきた。だってそんなはずはない。
「それは……違います」
「ディー」
「イーディス、レナードのことは嫌い?」
黙っていたジュードが優しい声で聞いてきた。
「そんなことは絶対、ないです」
嫌いなわけがない。むしろ話しやすいし一緒にいて楽しいし、いざという時頼りにまでなる大切な相手だ。
「でもそれは弟に抱くような感覚で……」
説明しながら、ふと今さらながらに姉や兄がいなくて甘え方もあまりよくわかっていなかったイーディスは弟や妹もいなかったことに気づく。持ったこともない弟に抱く感覚。
(でもそれはあくまでも例えで……でも、だって、そう、だって私、前世は男だし)
「なら僕は転生前は女だったかもしれないよ」
「君はたまたま記憶があるだけじゃないか。僕は覚えていないだけ。なら僕が前世で女じゃなかったとどうして言い切れる?」
ふとレナードに言われた言葉を思い出した。
(でも……でも恋なわけが、恋とかだって、そんなの、……だってよく、わからない……)
そもそも恋愛など前世も含めてしたことなどなかった。正直、恋愛にも憧れていた。してみたいと思っていた。どんなのだろう、本にあるように甘酸っぱかったりするのだろうか、切なかったり苦しかったり楽しかったりするのだろうかと想像しては憧れていた。
「そう、私、恋なんてわかりません」
わからないのにガンガン来られても困る。付き合ってどころか婚約者になってなどと言われても困る。
ふとエレンとジュードが互いに視線を交わし、困ったように笑った。ビリーが「レナード殿下も大変ですね」と小さく呟いている。
(大変? 大変なのは私だよ。だってそんな風に見られないのにそんなの、恋とかだって違う、違う……)
「あ、イーディス! ここにいたんだね」
その時原因の張本人であるレナードの声がした。話していた内容が内容だけにそわそわと落ち着かなく、イーディスは慌てて声のしたほうを見た。すると案の定レナードがサロンに入ってきていた。ただし、一緒にスラリと背の高い女性も続けて入ってくる。
(誰……?)
怪訝に思うイーディスの胸元あたりが胃もたれに似たような何かを感じた。
背の高い女性は涼しげな美しい顔立ちをしている。美形の男性としても通りそうな美しさとでもいうのだろうか。
(誰なんだろう……)
気になって仕方がない。レナードはその女性に何か話しかけ、それに対し女性は小さく微笑んで頷いている。
(誰──)
「イーディス、紹介するよ。この人は」
「殿下、私が自分で申し上げます」
女性は声も涼しげだった。静かな、だがよく通る声で言うとイーディスのそばへやってきた。
──紹介するよ、この人は僕の婚約者。君と違って僕の気持ちを受け止めてくれた人なんだ──
言ってもいないレナードの言葉が頭をよぎった。
(嫌だ、私……聞きたくない……)
「レディー・イーディス、私は──」
「婚約者なんでしょう……っ?」
「──え?」
名乗りかけた女性が笑顔のまま固まった。そしてすぐに怪訝な顔をしてくる。予想外過ぎたのか、女性だけでなくレナードやエレンたちもぽかんとイーディスを見てきた。
「あ、いえ、違、その、ご、ごめんなさい」
女性はすぐに「いえ」と微笑んできた。
「初めまして。私、ミリア・リアドルと申します。騎士を目指しております」
「ミリ……、って、え?」
今度はイーディスがぽかんとミリアを見た。
レナードのことだ。レナードが最近ますます近いというか懐いているというか、とにかく積極的な言動を取ってくる気がする。レナードが学校の帰りまで家に馬車でイーディスを送り届けてくれることに関してはイーディスの不甲斐なさが原因だとはさすがにもう思っていないが、その代わり心配してくれているからとわかっていながらも積極的な言動の一つのようにも思えてしまう。
以前から素直に「好き」だの「婚約して欲しい」だの言っていたのだが、以前はまだ口だけというか、気持ちは本気なのだろうがそこまで本気で言ってきていなかったように思っている。だが最近は違う。むしろ婚約して欲しいとはあまり言ってこないがとてもガンガン来られている気がしてしまう。それで調子が狂うのか、自分までなんだか変な気がするのだ。
授業を終えた後でイーディスはふと、姉に相談してみようと思い立った。こういう時こそ同性の、目上であり身近な存在に助けを求めるべきだろう。前世では姉も兄もいなかったから親に甘える感覚と友人と接する感覚がごちゃ混ぜになったような風に接していたように思うが、今こそまさに姉を頼る時だとイーディスは意気込んだ。
思い立ったが吉日だとばかりに、イーディスは学園のサロンにいたエレンの元へ駆けつけた。だがその際にビリーを伴ったジュードもいることに気づき、思わず内心ジュードに土下座した。
「お、お邪魔してしまい……」
「何を言うんだ、イーディス。俺は構わない」
相変わらずいい人な王子が申し訳なくて不憫で、イーディスはさらに心の中で土下座する。
「どうしたの、ディー。あなたが相談したいなんて珍しい」
二人きりになりたいであろうジュードに気づいていないのか気づいていてそれでもイーディスなのか、エレンが微笑みながらも心配そうな顔を向けてきた。
「あのね──」
イーディスはモヤモヤとすることをエレンに説明した。しかし説明しながらだんだん落ち着かない気持ちになっていく。これはひょっとして、人前で話すようなことではないのではないだろうかとそわそわしてきた。対してエレンは「まあ」「あら」と時折妙に楽しそうにしながら聞いている。そして聞き終わった途端、満面の美しい笑みで「それは恋ね、ディー、あなたレナードに恋してるのよ」などと穏やかながらにはっきり言ってきた。
(もう少し、せめてもう少しオブラートに包んで言って欲しかったよエレンお姉さま)
脱力した後に妙な羞恥心と共に納得のいかない気持ちがふつふつと湧いてきた。だってそんなはずはない。
「それは……違います」
「ディー」
「イーディス、レナードのことは嫌い?」
黙っていたジュードが優しい声で聞いてきた。
「そんなことは絶対、ないです」
嫌いなわけがない。むしろ話しやすいし一緒にいて楽しいし、いざという時頼りにまでなる大切な相手だ。
「でもそれは弟に抱くような感覚で……」
説明しながら、ふと今さらながらに姉や兄がいなくて甘え方もあまりよくわかっていなかったイーディスは弟や妹もいなかったことに気づく。持ったこともない弟に抱く感覚。
(でもそれはあくまでも例えで……でも、だって、そう、だって私、前世は男だし)
「なら僕は転生前は女だったかもしれないよ」
「君はたまたま記憶があるだけじゃないか。僕は覚えていないだけ。なら僕が前世で女じゃなかったとどうして言い切れる?」
ふとレナードに言われた言葉を思い出した。
(でも……でも恋なわけが、恋とかだって、そんなの、……だってよく、わからない……)
そもそも恋愛など前世も含めてしたことなどなかった。正直、恋愛にも憧れていた。してみたいと思っていた。どんなのだろう、本にあるように甘酸っぱかったりするのだろうか、切なかったり苦しかったり楽しかったりするのだろうかと想像しては憧れていた。
「そう、私、恋なんてわかりません」
わからないのにガンガン来られても困る。付き合ってどころか婚約者になってなどと言われても困る。
ふとエレンとジュードが互いに視線を交わし、困ったように笑った。ビリーが「レナード殿下も大変ですね」と小さく呟いている。
(大変? 大変なのは私だよ。だってそんな風に見られないのにそんなの、恋とかだって違う、違う……)
「あ、イーディス! ここにいたんだね」
その時原因の張本人であるレナードの声がした。話していた内容が内容だけにそわそわと落ち着かなく、イーディスは慌てて声のしたほうを見た。すると案の定レナードがサロンに入ってきていた。ただし、一緒にスラリと背の高い女性も続けて入ってくる。
(誰……?)
怪訝に思うイーディスの胸元あたりが胃もたれに似たような何かを感じた。
背の高い女性は涼しげな美しい顔立ちをしている。美形の男性としても通りそうな美しさとでもいうのだろうか。
(誰なんだろう……)
気になって仕方がない。レナードはその女性に何か話しかけ、それに対し女性は小さく微笑んで頷いている。
(誰──)
「イーディス、紹介するよ。この人は」
「殿下、私が自分で申し上げます」
女性は声も涼しげだった。静かな、だがよく通る声で言うとイーディスのそばへやってきた。
──紹介するよ、この人は僕の婚約者。君と違って僕の気持ちを受け止めてくれた人なんだ──
言ってもいないレナードの言葉が頭をよぎった。
(嫌だ、私……聞きたくない……)
「レディー・イーディス、私は──」
「婚約者なんでしょう……っ?」
「──え?」
名乗りかけた女性が笑顔のまま固まった。そしてすぐに怪訝な顔をしてくる。予想外過ぎたのか、女性だけでなくレナードやエレンたちもぽかんとイーディスを見てきた。
「あ、いえ、違、その、ご、ごめんなさい」
女性はすぐに「いえ」と微笑んできた。
「初めまして。私、ミリア・リアドルと申します。騎士を目指しております」
「ミリ……、って、え?」
今度はイーディスがぽかんとミリアを見た。
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