ポーションしか作らないので宮廷から追放されたけれど、俺は絶対にポーション作りを諦めません!

中谷キョウ

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孤児院にて

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 帝都から少し離れた農場。
 そこはシアと出会ったあの風車小屋のある農場だった。

「この農場は教会が運営しながら孤児院の資金にしているものです」

 レアを店番に置いてシスターと一緒にここまで来た俺は周囲を見回した。
 前にも来たことはあるがマジマジとみるのは初めてだった。

 一面に広がる麦畑と少し動きの鈍い風車。近くには小川が流れている。
 そして、その奥にポツンと教会が建っていた。
 あそこが話に聞いた孤児院だろう。

 シスターと一緒に孤児院へと向かった。


 孤児院の中は良く言うなら質素、悪く言うなら貧乏なありさまだった。
 掃除だけは行き届いているようでゴミやホコリはさほど見受けられない。

 歩くたびにギシギシと鳴る床を乗り越えてようやく病気の子供の元へとたどり着く。

「先生こちらです」
「俺は医者じゃないから先生はいらないよ。普通にエルロットって呼んでください」
「わかりましたエルロットさん」

 シスターが恭しく頭を下げた。
 そんな希望を求めるような目つきで見ないでくれ。

「医者はなんて?」
「はい、風邪ではないかと。煎じ薬をいただきました。けれども、様子は変わらずこの有様です」

 病気の子供は3名。皆、熱を出しているのかすごい量の汗をかいている。
 その後、詳しく話を聞いてみたがわかった話は医者は帝都に住むベテランの医者で回復系の魔法も扱えるらしい。
 医者が与えた薬は俺が最近よく使うグリーンハーブではなくホワイトハーブと呼ばれるこの付近では採れない少し良い薬草だ。

 効能はグリーンハーブと同じだが、効果は段違いだ。
 それも効かないとなるとやはり俺の力では手に負えない可能性が高い。

「どうにか、子供たちを救ってください」
「……診るだけだぞ」

 俺が診て何かわかるでもない。
 とりあえず、身体が衰弱しているので栄養ポーションを飲ませる。
 子供向けの甘いポーションで難なく飲んでくれた。

「な、治りますか?」
「まだわかんないよ」

 続いて身体に異変がないのか診てみる。
 女の子……はいろいろとマズいので男の子を脱がせ変なところがないのか確認する。
 ついでに魔力探知魔法で魔力異常が起きていないのかチェックする。

 ごく稀の話だが魔力によって身体に異変が起きることもある。
 全員魔法でチェックしたが問題はない。

 困ったな。
 医者ではない俺にできることはもうほとんど残っていない。
 あとは身体の中に小さな魔物がいるのかチェックするだけだが、チェックする魔法なんて知らないし、そもそも身体の中に入るような小さな魔物なんて見たことはない。ただ、宮廷の医者が貴族の子供を診た時にそんな話を言っていただけである。

「う……ゴホッゴホッ」

 子供のうちの1人が咳込む。
 やはり、風邪だろう。風邪なら薬を飲んでおとなしくしていればいずれ治るはず。

「すみません。この子たちはおそらく――「ゴホッゴホッ」」

 咳?
 そういえば、咳ってどうして起きるんだ?
 風邪の時もそうだがどんな時に咳をするんだろう。
 もしかして、咳の原因を探れば何かわかったりするかもしれない。

「エルロットさん?」
「いえ、もう少し診てみます」

 今、咳をした女の子を診る。
 咳……原因は肺? それとも喉か?

 口を開けさせて中に魔物探知の魔法を放つ。
 小さな魔物がいるのなら魔法に引っ掛かるはず……だが、何も反応はない。

 じゃあ、別の魔法だ。
 探知系の魔法はいくつもあり、俺はそれを全て扱える。
 もちろん、ポーション研究のために覚えたもので、まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。

「『スキャンメイト』『スキャニストウォーター』『トータルスキャン』『エイジングスキャナー』」

 知っている探知魔法をかたっぱしから掛けていると一つだけ妙な反応があった。

「……『スキャンバグズ』」

 奇妙な反応だったのでもう一度探知魔法を唱えると確かにその反応があった。
 探知魔法『スキャンバグズ』。昆虫類、俗に虫と呼ばれるものを探知する時に使う魔法だ。

 虫がいるのか? もしいるとしてもどこに潜んでいる?

「『スキャンバグズ』『マナスペクター』」

 『スキャンバグズ』と一緒に『マナスペクター』を発動させる。
 これで虫と魔力の状態がいっぺんにわかるのだが……。

「なるほどな……シスター。栄養ポーションを飲ませたのでまだしばらく持つと思う」
「はい、それで子供たちは……」
「安心してください。対処策は思いつきました」
「ほんとですか!?」
「ですが。1日ほど時間をいただきます。確かめたいこともあるので」
「あ、ありがとうございます!」
「感謝はしないでください。まだ、終わったわけではありません」

 シスターにそれだけを伝えると俺は子供たちの唾液を瓶に入れた。
 そう、虫は唾液にいたのだ。正確には唾液ではなく喉の奥みたいだが唾液にもいくつかまぎれているようなのでサンプルとしてもらっておく。

 さらに俺は孤児院を出ると周囲を散策した。
 探知魔法で子供たちの中にいる虫と同じものがいないか探したのだ。
 そして、すぐに見つかった。
 思わずうまくいったので笑みを浮かべそうになってしまったが抑える。

 原因はわかった。
 なら、あとはポーションで原因を排除する方法を検討するだけだ。
 俺は急いで工房へと向かった。
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