ポーションしか作らないので宮廷から追放されたけれど、俺は絶対にポーション作りを諦めません!

中谷キョウ

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新たなポーションを作ろう

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 孤児院からオンボロ工房へと戻った俺は早速ポーション作りを始めた。
 レアから事情を聞いたシアが何か手伝おうかとやってきたので素材を集めるよう指示をした。

 ポーション作りを始めるとはいってもまだ具体的なことは決まっていないので研究することから始めるのだ。シアにはそのための材料集めをやってもらう。

 まず俺は子供たちの唾液をスライムの粘液へ混ぜ、攪拌かくはんする。
 十分に混ぜ終わったら先ほどと同じく『スキャンバグズ』『マナスペクター』を掛けて虫が残っているのか調べる。

 目には見えないが虫は残っているようだ。
 そこで活性化の魔法をかけると虫のいる場所は薄く発光したがその光は弱い。

 どうやら、この虫は魔力への適合力は少なくわずかながら反発している。
 適合力が少ないということは魔物ではないということだ。

 俺は混ぜた液体の一部を別容器に移し今度はいろんな魔法をかける。
 乾燥魔法の『スコーチド』に電気魔法の『スパーク』、氷魔法の『フリーズ』。
 何度も試しては虫の状態を観察する。

 その単純作業を繰り返す。
 しばらく繰り返しているとシアに注文していた素材が届いた。
 何人かの冒険者が素材の入ったカバンを運び入れてきた。

 シアにはとにかく種類を集めさせた。
 この地域で採れるものはほとんど持ってこさせた。
 ただ、高級品だけは資金の都合上、仕入れられないのが歯がゆい。
 今回のポーション作りにはどんな素材が必要となるのか見当もつかないので素材はあるに越したことはない。

 こうして実験を繰り返していると複数のことに気づいた。

 一つ、この虫は高熱に弱い。
 一つ、この虫は凍らせると活動を停止させ、解凍すると活動を再開する。
 一つ、電気を流しても効果はない。
 一つ、薬草と混ぜ合わせても活動する。

 それらを統合するとこの虫を倒すには燃やすしか方法がなさそうだということだ。
 だけど、子供を燃やすわけにもいかないし、第二の手段である凍らせるという方法も現実的ではない。

 うーむ。
 俺の発想では現実的な方法は思い浮かばなそうだ。
 他に虫を倒す方法と言えば……。

「エルロット順調?」

 考え事をしている姿をみて心配したのかシアとレアがのぞき込んできた。

「手詰まりなことがわかったって感じだ。病気の原因をつかめたんだけど、倒すには燃やすか凍らせるくらいしかなさそうなんだ」

 半分泣き言だ。
 原因がわかって退治する方法もわかった。
 でも、それをポーションにしたとしても子供は助からない。

「倒す? ねぇ、病気の原因はなんだったの?」
「小さな虫……かな。探知魔法では引っ掛かるけど目に見えないんだ」

 そう、この虫は目には見えないほどに小さい。
 探知魔法で細かく調べてようやく見つけたくらいだ。

「虫ね。虫ならこうやって、こうっ……みたいに倒せないの」

 シアが例の黒い虫を倒す時のように紙を丸めて素振りをした。

「そんなゴ○ブリじゃあるまいし。小さすぎて物理的に倒すのも難しいよ」

 虫が小さすぎてつぶすことなんてできない。
 うんうん唸っているとレアが声を上げた。

「魔力はどうなの?」
「魔力?」
「うん、魔力でプチッとなの」
「……」

 ん、もしかしてその方法は……アリじゃないか?
 やり方は考える必要はあるが魔力で押しつぶすことはできるんじゃないか?

 俺は早速、容器に入った液体に向かって高圧度の魔力をぶつける。
 握りつぶすように俺の魔力と魔力で液体を挟み込む。できる限り隙間は作らないように圧力を掛ける。

「『スキャンバグズ』『マナスペクター』」
「どう?」
「……や、やったぞ! 二人ともありがとう」

 見事、虫を倒すことに成功した。
 二人も安心したのかホッと胸をなでおろした。

 しかし、今みたいに魔力を押し付けても倒せるのは少しだけ、すべてを倒しきるにはポーションで身体の中全体で今回と同じようなことを起こさなければ……。

 あ、ひらめいた。

 素材たちの中からいくつか選ぶ。
 グリーンハーブとスライムの粘液は必須。その他に魔力を安定させるためにD級聖水、紫水晶の魔石。魔法式を発現するために大鷲鳥の羽とヘルハウンドの毛を使う。

 まずは回復のポーションの下地を作っておく。
 魔力で虫を倒す時に身体の中を傷つけてしまう恐れがあるのでベースは回復のポーションだ。

 いつも通りの手順に少しアレンジ。最近はオオコウモリの羽を使うところでヘルハウンドの毛を使う。
 ヘルハウンドの毛には特殊な効果はほとんどないが高い魔力が含まれている。
 それにヘルハウンドの精霊との相性が悪いのはおそらく防御のためだろう。そこから推察するにヘルハウンドの毛には精霊等の要素を弾く能力を持っているはず。それを応用すれば俺の考える魔法式に有効だろう。

 いつもの手順で回復のポーションを作成する。
 ここまでが下準備だ。
 今回は回復のポーションをさらに素材として利用する。

 紫水晶の魔石を粉末状に砕き聖水とスライムの粘液と混ぜ合わせる。そして、聖魔法『エンチャントホーリーチャペル』で聖精霊の属性を付与する。
 
 聖精霊には呪いや悪い物を防いだり、恩寵を与えたりする加護を持っているが今回は不要だ。
 ほしいのは聖精霊ではなく聖精霊によって浄化された原料なのだ。

 魔石と聖水とスライムを混ぜ合わせたものは一旦置き今度は大鷲鳥の羽を取り出す。
 大鷲鳥の羽はオオコウモリと同じく風の精霊と相性が良く、オオコウモリよりも強い。
 値段はオオコウモリも高く入手しづらいこともあって普段は使っていないが、今回は精密な魔法式の制御が必要なので利用する。
 
「『メルト』」
 無属性魔法の一種『メルト』で羽を液体化する。
 液体化はポーション作りの基礎技術の一つだ。素材をまるまる液体化することで素材の効果を余すことなく使うことができる。

 液体をさらに風魔法『シャープウインド』でかき混ぜる。いつもは魔法を使わずにかき混ぜるが今回は液体に風の精霊を付与したいので魔法を使う。

 かき混ぜたものはさきほどの液体と一緒にすれば一旦終わり。
 おっとハチミツなどの味やにおい、色を整える素材もいれなくちゃな。
 飲むのは子供だから味は甘めに色もきれいな水色にする。

 よし、これであとは魔法式でこれらの原料をポーションに変化させるだけだ。

 回復のポーションと一緒にすべての原料を一つの容器に収め、魔法式を構築する。
 もう既に存在する回復のポーションの魔法式を上書きオーバライドするように新たな魔法式を追記。
 俺の計算通りならこれで目的のポーションは完成するはずだ。

「できた……」

 空のようにきれいな水色のポーションが出来上がった。

 試しに使ってみると予想以上の効果。容器にいた虫は全て死に絶え、探知魔法でも反応しなくなったのだ。

 あと、人に使っても安全なのかチェックするために俺も試飲してみる。

 味は良き、香りも良き、飲み始めると口の中がシュワシュワとして泡のような感触が広がった。
 一気には飲みにくいけど、不思議な爽快感がある。

 これならいける。
 ポーションを作り終えた俺は孤児院へと向かうと早速ポーションを投与した。

「エルロットさん、そのう……子供たちは?」

 シスターがおずおずと尋ねてきたのでにっこりと笑みを返した。

「もう大丈夫です。病気の原因は取り除きました。ですが、あと数日間くらいは様子を見てあげてください。その間、念のためこのポーションを飲むようにお願いします」
「ああ、主よ……」

 その言葉に安心したのかシスターはフラッとその場に膝をついた。
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