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グリムの思惑
しおりを挟むアンザリア帝国。
建国から数百年で大陸の覇者とまで呼ばれるようになった超大国である。
軍事力もさることながら科学、文化その全てが大陸の国家たちの模範であり、帝国の首都である帝都の動向は各国より注目を浴びていた。
「ふふーん。素晴らしい。素晴らしいよ。ボクの子たちは」
エルロットの代わりに宮廷魔法使いとなったグリム・オーガスはワイングラスを呷りながら自身の工房を見降ろしていた。
皇帝からの全面支援によって拡張された彼の工房では大量の魔道具が生産されていた。
魔力さえ込めれば回復魔法が何度でも使えるペンダントについこの間、開発が終わったばかりの再生魔法の指輪。
帝都での魔道具人気により作れば売れる状況になっていた。そんなグリムはまさに左団扇だった。
「楽しそうですね。グリム様」
「もちろんだよ、クリームヘイル。あいつがいなくなったおかげでようやくボクの時代がやってきたんだ。裏切ったお前ならわかるよな」
クリームヘイル・イーストンハイド。
エルロットが宮廷魔法使いだったころに彼の助手を務めていた少女である。
クリームヘイルはグリムの言葉に否定も肯定もしなかった。
無言で水色の液体が詰まった瓶をグリムの隣に置いた。
「ん、なんだ。これは?」
「ここ最近、帝都で流行しているポーションです」
「ポーションだと!?」
ポーションという言葉を聞いて机に拳を叩きつける。
グリムにとってポーションというワードは禁句であった。
「こちらは流行り病に効くとのことで帝都中で話題になっております」
エルロットが新たに作ったポーションはあっという間に広がった。
回復ポーションどころか回復魔法でさえ効かないとされていた流行り病を完治させることができるため、帝都中で話題にあがっていた。
「流行り病に効くだと? そんなことできるのは神聖級の魔法くらいだろ。ポーションごときにできるわけが――」
そう言ってポーションを口に含んだ。
シュワシュワとした口当たりに少し違和感を感じたものの飲みやすい。いや、むしろどんどん飲みたくなるような味だ。
「なんだこれは。それにこの味」
「気づかれましたか。この味はまさしくエルロット様のポーションです」
「あいつめ……まだポーションを作ってやがったのか」
宮廷から追放してから1か月と少し。
エルロットがどこかに就職したという話は聞かなかったため、ポーション作りを諦めて冒険者にでもなったのかと思っていた。
「どうされますか?」
「決まってるだろ。あいつにポーションを作ってもらうわかけにはいかない……つぶすぞ」
「かしこまりました」
そう恭しく頭を下げるクリームヘイル。
その態度にふんっとグリムは鼻を鳴らした。
クリームヘイルは一緒にエルロットを追放した仲間だ。
しかし、グリムにも彼女の真意は読み取れない。
今はグリムの指示に従っているがいつ裏切るかわかったもんじゃない。
「ふんっポーションもあいつも……嫌いだ」
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