ダンジョン脱税物語 ~ダンジョンで経験値を脱税します!~

中谷キョウ

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ダンジョン『タマ・ガブリエルの洞窟』

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 『タックスヘルン』にはたくさんのダンジョンが存在している。

 ダンジョンには手強いモンスターがいて、その道のプロでも手こずるような即死トラップや数日も迷い続けてしまうような巨大な迷路、賢者でも悩む知恵の扉などがあり、とても危険である。

 人族を始めとしたたくさんの夢見る者たちが挑み、そして、夢半ばに死んでいく。

 そうしたダンジョンに挑戦する者たちを種族関係なく”冒険者”と呼び、『タックスヘルン』では子供達の憧れ的な存在であるらしい。

 アリスの見送りを終えた後、ガブリエルよりダンジョンについて軽く教わり、さっそくダンジョンへと向かうことになった。

 どうやら、アリスの言っていた夜の支度とはダンジョンに行く準備をしろということらしい。

 ガブリエルからは詳しく教えてもらえていないが、アリスは毎晩、セバスチャンとお付きのメイドと一緒に屋敷の地下にあるダンジョンへ潜っているようだ。

 すなわち、アリスは貴族のお嬢様にして、危険なダンジョンへと挑む冒険者でもあるのだ。

「さ、ついたよ。ここがダンジョンだ」

 ガブリエルについていくこと早数分。
 俺たちはあっというまにダンジョンへとたどり着いた。

 屋敷の地下にある鍵付きの少し豪華な扉、その先には洞窟があってそこにダンジョンへとつながる石の扉があった。

 石の扉の左右には松明が置かれており、まさにダンジョンといった雰囲気である。

「ここがダンジョンか……ごくり」

 唾を飲み込む。
 昔やったRPGのダンジョンよりもリアルで……ほんのちょっとだけ怖い。

「緊張しなくても大丈夫だよ。ほら、開けてみてよ」

「いやいや、これからダンジョンだよな? 武器とか装備を何も持ってないのに進むのか」

「じれったいな! もう!」

 武器は装備しないと意味がない……それどころか持ってすらいないのにガブリエルに押されるがままダンジョンへと入ってしまった。

 広くて明るい。
 気の利いたBGMもなく、風が吹き込む音と何かが動く気配しかしない。

 まさにリアルなダンジョンって感じだ。

「これがダンジョン?」

 呆気に取られているといつの間にかガブリエルが宙に浮かんで背中の翼を広げていた。

『ようこそ、ボク《、、》のダンジョンへ。歓迎するよ』

「ボクのダンジョン?」

「うん、ここはタマちゃん様からボクが管理を任されている初心者用ダンジョンの一つ『タマ・ガブリエルの洞窟』だよ」

 『タマ・ガブリエルの洞窟』

 初心者用というからには俺でもとっつきやすいダンジョンなのだろう。
 いや、それよりも気になるのが、ガブリエルが管理しているという点だ。

「天使ってのはダンジョンを管理しているのか?」

「んーと、キミの世界でも天使って神様の使者って意味だよね」

「ああ、そうだったはずだけど」

「それと同じでダンジョンを経営しているのはタマちゃん様でボクはただの管理者」

「つまり、神様……タマちゃん様がダンジョンを経営してるってことか?」

「うん。まだ言ってなかったと思うけど『タックスヘルン』ではレベルが神様とか生物の価値を決めているんだ」

 生物の価値?
 レベルが高ければ偉いってことか?

 そういえば、タマちゃん様はレベル1載って言ってたな。
 たしか、億→兆→京→垓ってな感じで単位が増えていく感じだったけど載ってどれくらいなんだろう。

「だから神様も人もレベル上げたい。でも、レベルを上げるためには経験値が必要。そこで神様たちはダンジョンで経験値を稼ぐすることにしたんだよ」

「ダンジョンで経験値を稼ぐ?」

「経験値ってのは生物が何らかの行動をしたときに発生するエネルギーみたいなもので、例えば木の棒で素振りをしたとしても獲得することができるんだ」

「素振りをするだけで経験値が入るのか? ってことはレベル上げるのって案外簡単なのか」

「とんでもない。そんなことで手に入る経験値なんて雀の涙以下だよ。それ以上に稼ぎやすいのは経験値を持っている生物を倒して奪い取ることなんだよ」

「奪い取る……なるほど、モンスターを倒すとモンスターが持っている経験値が手に入るってことか」

「そうだよ。神様は効率よく経験値を得るためにモンスターが発生するところにダンジョンを作って経験値を稼ぐんだ」

「で、なんでこの屋敷の地下にダンジョンなんてあるんだよ」

「理由は簡単だよ……ニワトリが先かタマゴが先かではないけれど、わざわざダンジョンの上にこの屋敷を建てたんだ」

「は? それはつまり、先にこのダンジョンがあってそのあとに屋敷が建ったってことか?」

「そうだよ」

 ダンジョンの上に屋敷を建てた?
 どんな酔狂もんだよ。貴族でいながら冒険者でもやってたのか?

「キミの考えてるとおり、昔いた公爵フローゲンハイト家のとある当主は冒険者でね。いつも冒険がしたいからダンジョンの上の土地を購入して独占しちゃったんだ……まったく迷惑きわまりないよね」

「ん? 迷惑? 独占されるなら経験値も大量に手に入るんじゃないか?」

「モンスターで手に入る経験値も大したことないよ。それに経験値を奪うには自分の手で倒す必要があるんだ」

「え? じゃあ、なんでダンジョンを……そうか、冒険者か」

「ふふっ……察しがいいみたいで助かるよ。冒険者がモンスターを倒して経験値を貯めて、ボクらダンジョン経営者が設置したトラップとかで死ぬ。そうすれば冒険者が持っている経験値はボクらのものさ」

「あ、あくどい! 入ってきた冒険者を……」

 怖っ。
 つまり、ガブリエルたちは冒険者を殺して経験値を得ているわけだ。

「といってもボクらは基本的にトラップとか以外は何もしないよ。ボクらが直接なにかやるのもめんどくさいし、冒険者の生存率が低かったりお宝が少なかったりすると冒険者が来なくなるからね。これは持ちつ持たれつってやつさ」

「な、なるほど……」

 どうやら皆殺しにしたり、冒険者を殺しまくったりはしないようだ。

「もっとも、めちゃくちゃ凄いお宝をおいて、わざと皆殺しにするようなダンジョンもあるけどね」

「でも、ガブリエルたちはやらないんだよな」

「まぁね、そういった行為は禁止されてるし、それに……」

「それに?」

「あ、いや。なんでもないよ。とにかく、ボクらは冒険者が来ないと商売が成り立たないから不用意に殺したりしないよ」

 なんだか、腑に落ちないがいいか。
 ガブリエルが嘘を言っている風には見えない。

 何かを隠しているフシはあるけど、虐殺とか非人道的なことはやってなさそうだ。
 俺が納得した姿をみてガブリエルがニヤリと笑った気がした。たぶん気のせい……だよな?

「じゃ、セバス君はまず、ダンジョンに慣れてもらわないとね。ボクが管理者権限で超イージーモードのフロアを作るからそこで訓練しよう!」

 ガブリエルに言われるがまま、ダンジョンの奥へと進む。
 超イージーモードとか言ってるから危険はないと思うけど、本当に大丈夫だよね?
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