荒廃したこの世界で ~『私』と、『性別』と『自分』を考える物語~

新帯 繭

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1章

始まり

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昨日の少し痛い文章の日記を書いたことを、翌朝となる今日に強く恥じ、後悔していた。
だからこそ、あの中に出てきた言葉は本音だ。
それ故に、記述しているものが、世の中に漏洩すれば大問題となり得る。
謂わば、軽犯罪を犯したようなものだ。
法律上は、個人的にそういったものを表沙汰にさえ出さなければ、お咎めは無い。
流石の政府も、憲法による言論の自由が、未だに確保されている中で、取り締まるのは難しいのだろう。
だが今現在は、中国などの社会主義国が、日本への内政に侵食し始めていて、言論の自由を求めてヨーロッパ各国やアメリカ、同社会主義国であるロシアと、その他の社会主義国が日本を板挟みにして争っている状況だ。
それでも、世界政府による平和宣言によって、言い争いや明ら様な抗議は出来なくなり、実に陰湿で狡猾な実力行使へと、主義を通す際の政治的戦略が目立っている。
そういった点では、中国は有利だろう。
今まで、やってきたことを、更に実行しやすくなったのだから。
しかし、内政には中国と韓国は侵略して欲しくはない。
儒教の考え方では、『私たち』の存在は御法度なので、きっと差別を正当化するような、巧妙な圧力を掛けられるに違いないからだ。
私はニュースを見ながら、そんなことを考えて朝食を摂っていた。

「あんた……遅刻は無いからと言って、のんびりしてたら抗議始まっちゃうわよ?」
母親が、自分のコーヒーを運びながら話しかけた。
「うん……え…もう、そんな時間?」
「ほら…もう9時よ!」
「ヤバッ……部屋に戻りまーす!」
『遅刻は無い』というのは、今2087年現在では、令和でのパンデミックを機に、講義のリモート化が進んで、通学とリモートを選択できたりして、場所を自由に講義が受けられるようになった。
お陰で、インフルエンザなどの通学停止の状態でも、関係なく講義が受けられるようになって、多くの生徒が単位や知識を取得できるようになった。
中には、平成までとは逆に、通学は無くリモートのみの学校も過半数近く存在している。
「仕事の方は?」
「一応、明日が〆切だから、今日は昼ご飯食べたら、その後はお風呂以外では、リビングにはいないよ。」
「晩御飯は?」
「あー……一応、今日は夕方に打ち合わせもあるから、晩御飯はそっちで済ますよ。」
「わかった……あんたも大学生なのに忙しいわね?」
「……だって、上手くいけば、今のフリーランスから専属になって、事務所構えられる手筈が揃いかけてるんだもん。」
因みに、学校のリモート化が進み、高校生以上でフリーランスの仕事に就く学生が増えていて、現在はトレンドとなっている。
東大生などの高学歴な学生でなくても、現在では中学生でも起業しているのは当たり前になってきていて、特に学生の企業に対する支援が、国家ぐるみで推し勧められて充実している。
「本当に大事な時期なのね……頑張れ!」
「ん……じゃ、時間なんで‼」
「はーい。」

意気揚々と部屋へ戻り、日記を机の引き出しの奥にしまって、私はいつもと同じく講義を受ける。

「えー…次の問題は誰がレポートを提出してくれるかな?」
「はーい……。」
レポート課題は面倒臭い質である。
私は、目を付けられない様に早々と課題を貰って、さっさと提出してしまうのが、自分のスタイルだ。
特に、この教授は早期であればあるほど、課題が易しい傾向にある。
「えーと……お、大栄さんは今日もカワイイね!」
「え……何がですか…急に?」

何を思っているのか、毎回似たようなおべんちゃらを言うのだ。
生徒全員も、「あー、またか」と思ってはいるが、相手は若そうに見えて、まあまあな御歳を召したオジサンである。
一応、対応して会話を成り立たせる。

「いや、服装がね……いいなー、と思っただけ。」
「揶揄わないでください!」
「はいはい……じゃあ、今回の課題を板書しまーす。」

普段は言わないであろう、変な台詞を吐いたものだから、顔を少し赤らめて、急に会話を自ら断った。
そんな答え方をされたら、周りから在らぬ誤解を受けてしまう。
いやだ……こんなジジィと、空想上でもくっ付くのは真っ平御免だ。
頼むから、毎度の様にジョークでお道化てほしい。
しかし、無情にも板書の音だけが虚しく響き渡り、変な空気が講堂とモニターに漂ってしまった。

「……スゥ…はい、今回の課題はこれです。」
「……⁉」
「先生……これはかなりセンシティブだと思います!」
「ちょっと……下手したら、先生のクビが飛びますよ⁉」

私が驚いて声を失って、他の生徒が阿鼻叫喚に近い悲鳴を上げた。
そんな中でも、先生は平然としている。
今の時代で、このタブー極まりない課題を、先生は飄々と出して除けた。

「先生のクビはどうなっても構わない……だが、この課題に当事者が答えを見出すことこそ、これからの君たちの未来に大きな影響が、必ずいい形で出ると期待している。」
そう言うと、板書を堂々と、手甲でコツコツと叩いて示した。

そこに書いている課題……それは、

『性別の定義と存在意義の必要性と重要性、または差別意識やハラスメントの意義と捉え方を見直す、これからの時代の方向性』

私は、これを見て、改めてこの世界は『平和』という仮面を被った悪意に、世界は壊されてしまったんだと確信した。
こんな、在り来たりで当たり前なことを、改めて見つめ直さなければならない世の中になってしまったのだ。
私は今日も、この荒廃した世界で生きていく。
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