荒廃したこの世界で ~『私』と、『性別』と『自分』を考える物語~

新帯 繭

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1章

気付き始める違和感

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賑やかな時間が過ぎ、私は机に突っ伏して悩んでいる
理由は、課題が原因である。
今朝、私にDMで『課題に自分のことを書いていいよ』と、眞緒とみっちゃんから連絡がきたのだ。
正直な話、二人のことは付き合いが長い代わりに、何も知らないのだ。
書こうにも、こと課題に関しては、一筆も書けないのである。

「あ~……言うんじゃなかった。」

思わず独り言で愚痴をこぼす。
すると、モニカさんからメールが入った。

【今日、直接お話しできませんか?】

何の事だろうと思い、返信で訊き返した。

【どうかしましたか?】
………………………。
【叔父の課題について、私でよければ協力させてほしいのです(‘◇’)ゞ】
【嬉しいです。どこで待ち合わせますか?】
………………………。
【高校横のスタバでどうですか?】
【いいですね~( *´艸`)何時にします?】
…………。
【11時にランチタイムでどうです?】
【待ってました(*^^)v】
…………。
【じゃあ、後ほど!】
【はい、また('ω')ノ】

二人でランチが決定した。
時間に向けて、課題の資料をリュックにまとめて、オキニのセットアップに着替えて身支度を始めた。


「こんにちは~!」
「こんにちはー……実際に会うのは初めてですね。」
「仕事のリモートで会ってるから、顔もお互いに知ってるんですけどね~?」
こうして会うと、モニカさんの全身からは、ふんわりとした雰囲気が溢れていた。
実物を前にすれば、毎日でも一緒にいたいと思うほどに癒される。
「じゃあ、お腹も減ってることですし、中に入りましょう?」
「そうですね!」
「そういえば、どうやって来たんです?」
「あー……家がすぐ近くなんですよ。」
「モニカさんって、この辺のひとなんですか?」
「ええ、引っ越してきたんですけど、この地域っていいですよね。」
「あー、確かにショッピングモールも近くにあって、おまけに高島屋がど真ん中ですもんね。」
「通っている病院も近いですし、本当に住みやすいです。」
「へ~……アイデンティティ科ですか?」
「ええ……ここはセントラル病院にしか、設置されてないでしょう?」
「そうですね……最近は心療内科でも同じこと診察できますけど、きちんとはしてないですよね。」
「そう…それ!」

会話が弾んでいく毎に、自分が癒されていく。
その感覚は、今まで味わってきた部類のものの中で、一線を画するものだ。
話していて、ここまでフィーリングが合う人も、本当に珍しいと感じた。
ここ数日では感じることができなかった、『私にとってのモニカさん』を初めて知ることができた。

談笑が進んで、在互いにフラペチーノを頼んだところで、偶然にも眞緒とみっちゃんが現れた。

「あーっ!」
「あら、眞緒さんと充希さんじゃないですか。」
「こんにちはー……何々、デート?」
「ふふふ……そんな感じですかねー?」
「ちょっと、モニカさん……‼」
「へー、ウチらも誘ってよー……。」
「みっちゃん……アンタもふざけ過ぎ!」
「……んで、実際はどうしたの?」
みっちゃんの悪ふざけがオーバーしそうなので、眞緒が話題を切り替えた。
「大学の課題を手伝ってもらってるんだよ。」
「そうです、叔父からも頼まれてまして……。」
「そうなんだ~……ねえ、美乃?」
「何?」
「私たちも混ぜてよ。」
眞緒とみっちゃんが顔を寄せる。
「どうして?」
「いつもアンタを見ていると、今の日本に対して思うところが沢山あるんだよね。」
「みっちゃん、それ分かるわ~!」
「どういう意味?」
「いやね……アンタに対してじゃなくてさ、今の日本って『個性』というものを殺してない?」「それ……だってさ~、美乃って『個性』の塊みたいじゃんか?」
「そうかな……。」
「でも、それってみんな求めてる割には、この社会が法律で殺してるよね?」
「……そうか。」
「うん……それこそ、私たちなんかはさ……病院でも、眞緒は婦人科、私は紳士科で一択だし、それ故に個性をそれ以外に求めるけれど、アンタは大事な個性が一個大きな穴として抜けている気がするんだよね。」
「それって、何だろう?」
私が、眞緒とみっちゃんの話に首を傾げていると、モニカさんが助け舟をくれた。
「それが『性別』っていうものじゃないかしら?」

言われて、私は目の前の色彩が歪んだ気がした。
それは世界がひっくり返ったように、感覚を知覚から入れ替えられるような気分だった。
そうか……『性別』って『個性』の一部であって、十分に人権として認められるべきものなんだと、このとき初めて気が付いた。
私の中での違和感は、『性別』がないことでも、『性自認』が人と違うことでもない。
そういったものが認められるのではなく、認められないなら基板から無くしてしまった社会と、それに染まった自分という矛盾だったのだ。
私にとって、友人たちが救世主に見えた。
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