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第一幕
番外 兄弟神とネリピムの神宝
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「ほお…綺麗だな。これほどの出来とはおもわなんだ……」
暗闇に浮かぶ人影を見て“誰か”が言った。
「我等とは違う美だな」
楽しげに見ながらもう一人がクスリと笑う。
「コレは我等四人の血肉を等しく与えた結果なのですか?嫉妬を覚えるくらいに……」
宙に浮かぶ人影を半ば感心しながら見つめ、吐息をついた。
「……それでこそ、わたし達の“娘”に相応しい。そうは思いませんか?」
微笑みながら、一緒に見ている他の三人の反応を見る。宙に浮く人影は、胎児の様に身体を丸めていたが、小さく身動いだ。
「彼女は、我等四人の“力”を、全て兼ね揃えています。×××兄上の無から創造する力も、××××姉上の破壊し無に帰す力も、××兄上の調和を呼び込む力や、わたしの時を支配する力も」
それを聞いて目を丸くする。
「……凄いな。この姿にそんな力まで与えてしまったのか?我等以上の存在になるかもしれんな」
「わたし達の四種の血肉を媒体にこの身体を創造したのですよ。この姿にこの力を持つのは、極当然の結果です」
すまして答える。
「…………」
「血の繋がった娘が欲しいといったのは、兄上達でしょうに」
「お前達だって賛成したじゃないか……」
ふうっとため息をついて、額に手をやり首を振る。
「××××と×××と××××が知ったら文句を言うでしょうねぇ……考えなしだって」
「……もしかしたら、仲間外れにしたって言うかもしれなくてよ?」
その時の事を想像し、口許を綻ばせた。
「勝手にコチラを留守にしたのが悪いんだよ。怒りたいヤツには怒らせておけばいい」
声を上げて笑った。つられて他の三人も三様に笑う。
「……しかし、困ったな」
「なにがです?×××兄上」
少し首を傾げて視線を宙に彷徨わせていたが、ふいっと妹の方へ振り返る。
「これだけ完璧だと、手放すのが凄く惜しい気がする……」
他の三人は驚いた様に顔を見合せ、目を瞬いた。
「……わたし達の手元に置かないのですか?折角どんな服を着せようか楽しみにしておりましたのに……」
ひどく残念そうな様子を見せる。
「……わたしも色々な事を教えようと考えていましたのよ?」
「兄上、わたしも彼女と生活を共にする日々を楽しみにしておりました」
三人の恨みがましい視線を受けて、一瞬たじろぐが、一つ咳払いして三人を見渡した。
「……一時だけだ、一時だけ。役目を終えたら我等のもとに帰って来る。それまではこの娘をあの“器”に入れて下へ送る」
左手で示した方向に、一人の幼い人間の少女の姿が浮いていた。
「あれは封印。わたしの手、自ら丹精に“普通”に創った者だ。これならば、あれらからこの存在を隠す事が出来る。力だけの封印では、異形のモノとして捉えるかもしれん。この姿は人と呼ぶには余りにも、かけ離れ過ぎているからな。それにだ、人だという理由で、感情にまかせて下手な手出しをしないとも限らないだろう?あれらの性格を考えると」
「!」
「これから旅をするにあたって、送りだす娘を心配する親の一人としては、余計な事で危険に身を晒して欲しくないのだ。
なら、今の身体を見破られない物で覆い隠してしまえばよい。どうせ隠すなら、同じような姿の者達の中に紛れ込ませた方がより安全だ」
苦笑を浮かべて上を仰ぐ。
「本当は、こんなモノの中に入れたくはないのだがな……他にどうしようもない」
「何故、そこまでして?」
「……どうして!」
兄の提案に、食いつく様に抗議する。
「どうして下へ降ろさなければ成らない?こんなに綺麗なのに…こんなにわたし達に近い者なのに!やっと手に入れる事の出来た、新しい同族なのに。……歪んでしまう……壊れてしまうかもしれない」
三人に問い詰められ、目を伏せた。
「……わたしも、出来る事ならば避けたかった。だが、あれらが“血石”を造った」
伏せた目を開けると、三人を見渡した。
「……自分達の創造した民にそれを与えた。
他の民がどう思うか……お前達ならば、想像つくだろう?」
「…………」
「……その結果、愛想を尽かし、弟達は我等のもとへ必ず帰って来る。でも、我等が創造した生き物達だ。見捨てる事は出来まい?」
「…………」
「どんな愚を冒そうとも、可愛い子供達なのだ。見放してはいけないのだよ」
じっと見つめる三人の肩に順番に手を置き、諭す様に語りかける。
「力を与える訳ではない。側で導く訳でもない。……でも、見届けなければならない。我等は側に行けない。あの三人の弟達の様に。
我等の中の一人でも、あの空間に足を踏み入れてみろ、時空が歪み、あの星自体を壊す事に成りかねない。だから、我等の代わりに行かせるのだ」
寂しい笑顔で、二人の妹と一人の弟を見る。
「判りましたわ。……弟達がどんなに疎ましく彼らを思っても……ですわね。でも、この娘が泣くのを見るのは辛いわ……心に傷を負うのを見るのはとても辛い」
「とても純粋で無垢な心に創りましたもの」
哀しそうに微笑んで宙に浮く、彼らの娘を見上げる。
「……兄上、彼女をいつ、下へ送りだすのですか?」
一つ諦めた様に吐息をつくと、改めて質問をした。
「……そうだね……」
彼は、思案するかの様に視線を足元に固定し、口を噤む。
「そうだね、アレが当然の結果として起きるだろうから、その後に送り出そうか」
それだけ言うと、宙に浮かんだまま、未だにまどろみ続ける彼らの娘に優しく囁く。
「それまで優しい夢を見ているといい」
気が遠くなるほど昔、四人の兄弟神がいた。
彼らは今まで無の中から星を作りだし、また創りだした星を無に帰すなど、色々な創造を楽しんでいたが、末に三つ子の弟神が生まれた時、十の星を作り、その中の一つを、彼らが司る星として与えた。
気性の激しい陽光神には、燃える太陽を。 気性の冷めた幻影神には、凍る輝きの月を。気性の優しい蒼星神には、青星を与えた。青星を与えられた蒼星神は三つ子の中でも一番末だった。三つ子の神々は、それぞれの星を眺めながら上の四人と共に暮らしていたが、一番末の神が青星に降りると言いだしたので、おっとりしている彼を心配し、彼が星に降臨する際、共にその星に降り立つ事に決めた。
彼ら三人は、上の兄弟達が微笑ましく思うほど気性こそ違えど、仲のよい兄弟だった。
四人の兄と姉神は、彼らが降臨する前に、生活しやすい様に少々青星に手を加える事にした。
長男「創造神」と長女「虚空神」は“世界”を創造し、一つの海と、一つの陸と一つの空を創りだした。次男「調和神」と次女「時間神」は生命を創り出した。そうして、まず最初に植物に命を与え環境を整えた後、動物達を創造し、命を与えた。
動物達は環境に応じて、それぞれ独自の変化をとげ、水中を泳ぐ魚や空中を飛ぶ鳥となった。陸上に留まった多種の動物のうち、一種類は人間となった。
人間達は他の動物達の様に身を守る毛皮や甲羅などを持っていないひ弱な存在だったが、頭を使う事を知っていた。寒さや暑さを覚えるほどの気温の変化は無かったが、身に服をまとう事を覚えた。葉などを身体に巻き付ける事から発展し、植物の繊維を使用して織って布を作る事を考えだした。他の事にしたってそうだ。初めのうちは簡単な道具を作った。それが段々複雑な物を作りだせる様になった。粘土を使い、器など作りだす事さえ出来る様になった。ただ、その頃はまだ狩猟をしなくても生活が出来る環境だったので、殺し合う事も無く、他の動物達と上手く付き合っていけたのだ。他の面では目覚ましいほど進化していく。そのうち、大陸の一部に人間達は一つの国を作った。喜んだ三人は、それを見守るために、自分達が創りだした民を引き連れて、それぞれの都に神殿を置き、それらの更なる発展を見守る事にした。
太陽を司る「陽光神」は、重力から開放され、宙に浮かんだ島を作り出し、その上に都を築いた。人々はこの都を、空中都市「ラピュータス」といった。その都に住む人々は、大空を自由に駆ける事の出来る、両腕の代わりに身長の三倍はあろうかと思われる一対の翼を持っていた。彼らは都の名を取って「ラピュータス人」と呼ばれ、陽光神が自分の血の一雫で作りだした「太陽石」を神殿に祭り、静かに守っていた。太陽石とは、地上に恵みを与える太陽光を放つ石で、空に輝く太陽の光の化身とも言われている。
月を司る「幻影神」は、地上の果てに存在する砂漠の中に都を築いた。人々はこの都を、砂漠都市「セライ・ラヤ」といった。この都に住む人々は、姿は人と殆どかわらないが、額に小指ほどの大きさの星の模様を持っていた。これは痣ではなく、三番目の目である。普段は閉じているが、開くと力を発揮するのだ。彼らは「ラヤ人」と呼ばれ、幻影神が自分の血で作った「白月石」を神殿に祭り、守護していた。白月石とは、眠りと再生の力を持つ月魔光を放つ石で、黄泉の世界に落ちた者でさえも連れ戻す事が出来ると言われている。
青星を司る「蒼星神」は、海中に都を築いた。人々はこの都を、水中都市「ゴンドーラ」といった。この都に住む人々は、足の指と指の間に水掻きを持ち、人と同じ肺を持ちながら、首の辺りに綺麗な紺色の鰓を持っているので、水中でも地上でも生活出来た。彼らは「ゴンドーラ人」と呼ばれ、蒼星神が自分の血で作った「蒼星石」を神殿に祭り、守護した。蒼星石とは、この星のありとあらゆる物を瞬時に知る事が出来、また、思い思いの場所へ移動する事が出来た。他にも、この石が放つ清浄光は、照らしだされる全ての物に潤いを与えると言われている。
三つの石はその力と神秘から神宝と言われ、普段はそれぞれの神殿の奥深くに安置され、それぞれの神と共に祭られているが、一年に一回、それぞれの都で行われる感謝祭の三日間だけ、三つ揃って見る事が出来た。
三つの神宝は、一か所に奉納されるのではなく、それぞれの神殿…一日目は太陽神殿、二日目は幻影神殿、そして最後の日である三日目は蒼星神殿に祭られ、それぞれの民が祈りを捧げるのである。
永久の平和を祈るものだった。豊穣を讃え、神々に感謝の言葉をのべるものだった。
暖かで敬虔な祈りが神宝を包む限り、そして、その言葉を述べる民が居る限り、この平和が永久に続くはずだったのに……。
その日、彼らはその平和を失う事になる。
そして、楽園を失った者たちは、方々へ散り、神宝を守る者の末裔が、失われた神宝を求めて、長い時を彷徨う事となる。
後の人々は、彼らを“時の放浪者”とも、“ネリピム(天使)”とも呼んだ。
遠い遠い昔の話。……人類は一度目の滅びを迎えたという……。
暗闇に浮かぶ人影を見て“誰か”が言った。
「我等とは違う美だな」
楽しげに見ながらもう一人がクスリと笑う。
「コレは我等四人の血肉を等しく与えた結果なのですか?嫉妬を覚えるくらいに……」
宙に浮かぶ人影を半ば感心しながら見つめ、吐息をついた。
「……それでこそ、わたし達の“娘”に相応しい。そうは思いませんか?」
微笑みながら、一緒に見ている他の三人の反応を見る。宙に浮く人影は、胎児の様に身体を丸めていたが、小さく身動いだ。
「彼女は、我等四人の“力”を、全て兼ね揃えています。×××兄上の無から創造する力も、××××姉上の破壊し無に帰す力も、××兄上の調和を呼び込む力や、わたしの時を支配する力も」
それを聞いて目を丸くする。
「……凄いな。この姿にそんな力まで与えてしまったのか?我等以上の存在になるかもしれんな」
「わたし達の四種の血肉を媒体にこの身体を創造したのですよ。この姿にこの力を持つのは、極当然の結果です」
すまして答える。
「…………」
「血の繋がった娘が欲しいといったのは、兄上達でしょうに」
「お前達だって賛成したじゃないか……」
ふうっとため息をついて、額に手をやり首を振る。
「××××と×××と××××が知ったら文句を言うでしょうねぇ……考えなしだって」
「……もしかしたら、仲間外れにしたって言うかもしれなくてよ?」
その時の事を想像し、口許を綻ばせた。
「勝手にコチラを留守にしたのが悪いんだよ。怒りたいヤツには怒らせておけばいい」
声を上げて笑った。つられて他の三人も三様に笑う。
「……しかし、困ったな」
「なにがです?×××兄上」
少し首を傾げて視線を宙に彷徨わせていたが、ふいっと妹の方へ振り返る。
「これだけ完璧だと、手放すのが凄く惜しい気がする……」
他の三人は驚いた様に顔を見合せ、目を瞬いた。
「……わたし達の手元に置かないのですか?折角どんな服を着せようか楽しみにしておりましたのに……」
ひどく残念そうな様子を見せる。
「……わたしも色々な事を教えようと考えていましたのよ?」
「兄上、わたしも彼女と生活を共にする日々を楽しみにしておりました」
三人の恨みがましい視線を受けて、一瞬たじろぐが、一つ咳払いして三人を見渡した。
「……一時だけだ、一時だけ。役目を終えたら我等のもとに帰って来る。それまではこの娘をあの“器”に入れて下へ送る」
左手で示した方向に、一人の幼い人間の少女の姿が浮いていた。
「あれは封印。わたしの手、自ら丹精に“普通”に創った者だ。これならば、あれらからこの存在を隠す事が出来る。力だけの封印では、異形のモノとして捉えるかもしれん。この姿は人と呼ぶには余りにも、かけ離れ過ぎているからな。それにだ、人だという理由で、感情にまかせて下手な手出しをしないとも限らないだろう?あれらの性格を考えると」
「!」
「これから旅をするにあたって、送りだす娘を心配する親の一人としては、余計な事で危険に身を晒して欲しくないのだ。
なら、今の身体を見破られない物で覆い隠してしまえばよい。どうせ隠すなら、同じような姿の者達の中に紛れ込ませた方がより安全だ」
苦笑を浮かべて上を仰ぐ。
「本当は、こんなモノの中に入れたくはないのだがな……他にどうしようもない」
「何故、そこまでして?」
「……どうして!」
兄の提案に、食いつく様に抗議する。
「どうして下へ降ろさなければ成らない?こんなに綺麗なのに…こんなにわたし達に近い者なのに!やっと手に入れる事の出来た、新しい同族なのに。……歪んでしまう……壊れてしまうかもしれない」
三人に問い詰められ、目を伏せた。
「……わたしも、出来る事ならば避けたかった。だが、あれらが“血石”を造った」
伏せた目を開けると、三人を見渡した。
「……自分達の創造した民にそれを与えた。
他の民がどう思うか……お前達ならば、想像つくだろう?」
「…………」
「……その結果、愛想を尽かし、弟達は我等のもとへ必ず帰って来る。でも、我等が創造した生き物達だ。見捨てる事は出来まい?」
「…………」
「どんな愚を冒そうとも、可愛い子供達なのだ。見放してはいけないのだよ」
じっと見つめる三人の肩に順番に手を置き、諭す様に語りかける。
「力を与える訳ではない。側で導く訳でもない。……でも、見届けなければならない。我等は側に行けない。あの三人の弟達の様に。
我等の中の一人でも、あの空間に足を踏み入れてみろ、時空が歪み、あの星自体を壊す事に成りかねない。だから、我等の代わりに行かせるのだ」
寂しい笑顔で、二人の妹と一人の弟を見る。
「判りましたわ。……弟達がどんなに疎ましく彼らを思っても……ですわね。でも、この娘が泣くのを見るのは辛いわ……心に傷を負うのを見るのはとても辛い」
「とても純粋で無垢な心に創りましたもの」
哀しそうに微笑んで宙に浮く、彼らの娘を見上げる。
「……兄上、彼女をいつ、下へ送りだすのですか?」
一つ諦めた様に吐息をつくと、改めて質問をした。
「……そうだね……」
彼は、思案するかの様に視線を足元に固定し、口を噤む。
「そうだね、アレが当然の結果として起きるだろうから、その後に送り出そうか」
それだけ言うと、宙に浮かんだまま、未だにまどろみ続ける彼らの娘に優しく囁く。
「それまで優しい夢を見ているといい」
気が遠くなるほど昔、四人の兄弟神がいた。
彼らは今まで無の中から星を作りだし、また創りだした星を無に帰すなど、色々な創造を楽しんでいたが、末に三つ子の弟神が生まれた時、十の星を作り、その中の一つを、彼らが司る星として与えた。
気性の激しい陽光神には、燃える太陽を。 気性の冷めた幻影神には、凍る輝きの月を。気性の優しい蒼星神には、青星を与えた。青星を与えられた蒼星神は三つ子の中でも一番末だった。三つ子の神々は、それぞれの星を眺めながら上の四人と共に暮らしていたが、一番末の神が青星に降りると言いだしたので、おっとりしている彼を心配し、彼が星に降臨する際、共にその星に降り立つ事に決めた。
彼ら三人は、上の兄弟達が微笑ましく思うほど気性こそ違えど、仲のよい兄弟だった。
四人の兄と姉神は、彼らが降臨する前に、生活しやすい様に少々青星に手を加える事にした。
長男「創造神」と長女「虚空神」は“世界”を創造し、一つの海と、一つの陸と一つの空を創りだした。次男「調和神」と次女「時間神」は生命を創り出した。そうして、まず最初に植物に命を与え環境を整えた後、動物達を創造し、命を与えた。
動物達は環境に応じて、それぞれ独自の変化をとげ、水中を泳ぐ魚や空中を飛ぶ鳥となった。陸上に留まった多種の動物のうち、一種類は人間となった。
人間達は他の動物達の様に身を守る毛皮や甲羅などを持っていないひ弱な存在だったが、頭を使う事を知っていた。寒さや暑さを覚えるほどの気温の変化は無かったが、身に服をまとう事を覚えた。葉などを身体に巻き付ける事から発展し、植物の繊維を使用して織って布を作る事を考えだした。他の事にしたってそうだ。初めのうちは簡単な道具を作った。それが段々複雑な物を作りだせる様になった。粘土を使い、器など作りだす事さえ出来る様になった。ただ、その頃はまだ狩猟をしなくても生活が出来る環境だったので、殺し合う事も無く、他の動物達と上手く付き合っていけたのだ。他の面では目覚ましいほど進化していく。そのうち、大陸の一部に人間達は一つの国を作った。喜んだ三人は、それを見守るために、自分達が創りだした民を引き連れて、それぞれの都に神殿を置き、それらの更なる発展を見守る事にした。
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青星を司る「蒼星神」は、海中に都を築いた。人々はこの都を、水中都市「ゴンドーラ」といった。この都に住む人々は、足の指と指の間に水掻きを持ち、人と同じ肺を持ちながら、首の辺りに綺麗な紺色の鰓を持っているので、水中でも地上でも生活出来た。彼らは「ゴンドーラ人」と呼ばれ、蒼星神が自分の血で作った「蒼星石」を神殿に祭り、守護した。蒼星石とは、この星のありとあらゆる物を瞬時に知る事が出来、また、思い思いの場所へ移動する事が出来た。他にも、この石が放つ清浄光は、照らしだされる全ての物に潤いを与えると言われている。
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暖かで敬虔な祈りが神宝を包む限り、そして、その言葉を述べる民が居る限り、この平和が永久に続くはずだったのに……。
その日、彼らはその平和を失う事になる。
そして、楽園を失った者たちは、方々へ散り、神宝を守る者の末裔が、失われた神宝を求めて、長い時を彷徨う事となる。
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