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第一章

魅了のスキル

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「しかしアレだな。あの子…ユキヤは特殊だ。いや、異質だと言ってもいい」

「それは…。ユキヤの魂の核がこの世界のものではない...からですか?」

眉を寄せたセオドアの言葉に、ベハティが頷く。

「ああ。界を渡った魂は、特殊な力を得るものが多い。はるか昔に召喚された異世界人。私の仲間だった召喚勇者もそうだったからな」

自分がセオドアの子を宿した直後、この世界とは明らかに異なる『何か』がこの身に宿るのを感じた。慌ててその力に問い掛けてみれば、『何か』は自分の名らしきものを呟き、消滅したのだ。

いや、融合したと言うべきか…我が子の中に。

「多分だが、『彼』は何らかの原因で命を落としたのだろう。そして命を散らす瞬間に『何らかの因子』が働いて、彼は自分のいた世界からこちらに弾かれ…いや、導かれ来てしまった…」

だから、自分の息子が異質なのは当然なのだ。
自分はその事を誰にも言わずに子を産み、『ユキヤ』と名付けた。

『彼』が呟いた、おそらくは彼の真名を。

「ユキヤが幼い頃おかしくなった時、貴女にそれを聞かされ、信じられない思いでした。正直、今も信じきれないのですが…」

「ま、私にしたって憶測の域を出てないからね。ただ、そう考えたら全てに合点がいくってだけさ」

「確かに…そうですが」

苦渋の表情を浮かべたセオドアに、ベハティは苦笑を浮かべる。確かに我が子の魂が異世界人のものだなどと、親としては信じたくないだろう。

だが、生まれついての貴族なのに、妙に庶民くさく大人びた考え方と行動。お抱え鍛冶師のドワーフと摩訶不思議な発明品を作り上げ、それを使って教えてもいない料理を次々と作りあげるその知識。どう考えても普通ではない。

ハッキリ言って、あの年齢の子供としても貴族としても、ユキヤは規格外だ。
だからセオドアも、なんだかんだ言って彼女の憶測を信じているのだろう。


「でも一番問題なのは、あの子自身に自覚が無いってことだね」

「…そうですね。最初は私譲りの容姿のせいで苦労させてると思っていましたが…。まさかあのとんでもないスキルのせいだったとは」

いや、半分はお前譲りの美貌のせいだろ…と、ベハティは心の中で呟いた。

そう。ユキヤはセオドアを上回る程、誰彼構わずといった感じで無自覚に相手をタラシこみ、自分に夢中にさせてしまうのだ。

たとえそれが、同性にまるで興味の無い男や異性に興味のない女であってもだ。ここら辺が父親とは決定的に違う所である。

しかも、タラシこむ相手は人間に限らない。たとえば、どんなに気性の洗い馬や警戒心の強い小動物であっても、ユキヤにかかればあっさり手なづけられてしまうのだ。

ユキヤに仕えさせる召し使いも例に漏れずで、どんなに厳選しても結果は同じ。

メイドも以下同文で、同性にしか興味の無い女を雇っても、いつの間にかユキヤに惹かれていってしまう。

ユキヤは単純に、自分の見た目で女性から敬遠されていると思っている。だがそうではなく、セオドアとウェズレイが殊更厳しくユキヤの傍に近付けないようにしているだけなのだ。それとユキヤ狙いの従兄弟連中が揃ってガードしているのも大きい。

この事実を知れば、ユキヤは「えー!なんて勿体無いことしてくれんだよ!」と怒るだろうが、相手を落とそうとする女性のえげつなさは男の比ではない。しかも女は妊娠という最終奥義がある。実際、幼いユキヤとそういう事をしようとしたメイドは一人や二人どころではないのだ。

このように、相手を自分に夢中にさせてしまう能力は『魅了』と呼ばれている。魔法とは異なる、呪縛系スキルの一つだ。

他者を自分の『魅了』で縛りつけ、意のままに使役させる力。それは主に、魔族と呼ばれる少数種族が多く有するスキルだ。

それゆえこの力は人族には滅多に顕れる事がなく、故にその力を強く持つ者は王宮お抱えの召喚師になる場合が殆どだ。

なにせ、人だけでなく強大な力を持つ魔獣などを使役させる事が出来れば、その国の軍事力が飛躍的に上がる。それだけでなく、他国への牽制や政治的駆け引きにも利用できるからだ。

「ユキヤの貞操も守らなきゃだけど、お偉方にユキヤの力を知られ、利用される事も防がないといけないね」

「それでは、やはり…」

「ああ。手遅れになる前に、護り手となりうるモノを召喚させる」

真剣な顔で告げられた言葉に、セオドアはほんの少しの逡巡の後、頷いた。
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