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第一章

従弟達の来襲

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「え~っと……。これぐらいで足りるかなぁ?」

「ユキヤ様。十分だと思いますよ?一体どれだけ大人数で召し上がられるのですか?」

俺の呟きに、呆れ顔の乳母マリアがそう言ってくる。

彼女は俺の実父、セオドアの乳母だ。引退していたのを父に拝み倒され、俺を子供の頃から育ててくれている人。

見た目年齢は魔法使いの老婆並みに年を取っているが、どっこい足腰はまだまだ矍鑠している。この間など勉強をサボってお菓子を作っていた俺を、ホウキ片手に追いかけ回すぐらいに健脚だ。

話はそれたが、今俺の目の前には、ドワーフのジャンボロと開発した4段式ワゴンが鎮座している。これは何を置いて移動しても、運ぶ対象に揺れを起こさないよう改良された優れものなのだ。

また話がそれたが、現在そのワゴンには4段ビッシリと、あらゆるお菓子が鎮座している。……確かに、何人で食べるんだと言われると返答に詰まる量だ。

「だってさー!久し振りに師匠と会えるから、張り切ってつい…」

そう。ようは作り過ぎてしまったのだ。

しかもどれもこれも力作ぞろいで、出すものを選ぶ事が出来なかった。だから全部出す。大丈夫。父さんも師匠も甘党だし、俺も頑張って全種類食べるから。

余ったらお土産に持って行ってもらえばいいし、なんだったら義父に届けてもらってもいい。

「お坊ちゃま、宜しいですか?」

後方から声が掛かる。

振り返れば、これまた白い立派な髭を生やした見た目仙人な執事が立っている。

彼も父さんを育ててくれた執事で、マリア同様引退していたのを父に拝み倒され、俺専用の執事として育ててくれた人だ。

「何?ジョナサン。それと坊ちゃん呼び止めてくれよ!」

小さい頃からそう呼ばれているが、流石にこの年になって『坊ちゃん』は恥ずかしい。いや、貴族社会では普通の事なんだろうけど、中身が現代庶民の永遠高校生な俺としては、やはり恥ずかしい。

「失礼しました、ユキヤ様。只今、アドルファス様、エイトール様、キーラン様が本邸にお越しとの事です。いかがされますか?」

「え?何であいつらが?来るって連絡あったっけ?」

「いえ。ご本人様方いわく、緊急の御用件だそうです。公爵様もご不在ですし、セオドア様にご報告をしようと思っていたのですが…」

ちょっと困ったような様子のジョナサンの後ろから、誰かがヒョイッと顔を出した。

「おっす!ユキヤ!」

「あれ?エイトール!お前、何故ここに?!」

「いやー、セオドア様の許可が出たら、俺ら呼びに来るのに二度手間になってしまうだろ?だから、こっそり後からついて来たんだ!……ああ、それにしても相変わらず麗しい!俺の漆黒の女神様!!」

「………」

エイトールと呼ばれた青年は茶化すようにそう言うと、屈託ない笑顔を俺に向けて来た。

この燃えるような赤毛と緑色の目を持つ青年は、俺が親しくしている従弟達の内の一人で、公爵家に次いで力のある分家筋の御三家筆頭、北伯と呼ばれているグランス侯爵家の跡取りだ。

「済まないな、ユキヤ。俺は止めたんだが、エイトールが聞かなくてな」

そう言ってエイトールの後ろから溜息交じりに現れたのは、エイトールよりも大柄な亜麻色の髪と目の色をした青年、アドルファス。同じ御三家の南伯、ノウ侯爵家の長男だ。この二人は共に俺と同い年。

そして彼らの後ろに佇んでいる、見るからに知的で物静かそうなグレイの髪とアイスブルーの瞳を持つ少年、キーランは御三家最後のひとつ、東伯パーカー伯爵家の次男である。

彼だけは、弟のテオノアと同い年の15歳で、共に王立学院に通っているテオの同級生だ。

あ、ちなみにエイトールもアドルファスも、15歳から王立学院に通っている。

あれ?そう言えばここにいる全員、王立学院に通ってて、しかも明日から授業始まるんじゃなかったっけ?なのに3人とも、何でここに来てるんだ。弟のテオは朝には学院に戻ったってのに。

「ああ。だから俺らも一旦は学院に戻ったんだ。だが、先程ジョナサンが言った通り、緊急事態が起こってな。それでお前にその事を知らせに来たんだ」

ちなみに学院は、規律とセキュリティに厳しく、学院が指定する休日以外での外出は原則禁止されている。申請すれば外出できなくは無いが、外出理由を書面で提出し、それを学院長が精査してからの許可となるらしい。

だから親族が亡くなったとかいう緊急事態以外、いきなり外出なんて出来ない筈。

どうやって外出したのかと聞けば、「無論、賄賂だ!」と胸を張られた。……いや、そこ胸を張る所じゃない。俺のジト目に、エイトール以外の二人が目線を逸らした。

ともかく、お茶菓子もふんだんにある事だし。話があるならと、俺は三人をお茶に誘った。

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