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第二章
回顧①【ベリアル視点】
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身体にかかる重みで、ユキヤが眠りに落ちた事が分かった。
そっと身体をずらし、少しやつれた感がある美しい寝顔を堪能する。
安心した様子で無防備に眠るユキヤに悪戯心が湧き上がり、薄く開いた唇に己のそれを合わせてみた。
「――ッチ!」
バチリと唇に鋭い衝撃波が伝わり、思わず顔を歪めた。そして、先程スープを食べた分程度の魔力がごっそり無くなった感覚に小さく舌打ちをする。
ユキヤの方はと言えば、先程の衝撃に起きるでもなく、安らかに眠ったままだ。
思わずホッとしてしまった自分にイラつき、再び舌打ちをする。
「……ったく、この俺が……。なんてザマだ!」
苦々し気に言葉を吐き出しながら、俺はこの腕の中で眠る厄介な(仮)契約者と初めて出逢った時の事を思い返した。
◇◇◇
「そろそろ、次の聖魔大戦についての攻略案を出さねばならんな」
「ルシファー…それ、協議する必要無いって!いつも通り物理でぶっ飛ばすってのでよくねぇ?」
「レヴィ…この脳筋馬鹿が!それではスマートさに欠ける。知略謀略を駆使してこそ、美しい勝利を得られるのだ」
「アスタロト。お前、まさにその美しさに拘ったゴリゴリの案を逆手にとって、ラファエルに足元掬われたんじゃねーの?忘れたとは言わせねーぞ!?」
「うううう…煩い!あ奴が妾の策を密偵に調べさせて嵌めたのだ!策自体は完璧だった!」
「それより、もし誑し込むんなら、俺は女天使限定にしてくれよな。男とかオカマとか、マジで勘弁!そっちはベルフェやベリアルに任せるわ!」
「…おい、アスモデウス。私は女性不信なだけで、男性好きという訳では決して無い。ましてやオカマなど心から興味ない!」
「俺は男だろうが女だろうが、オカマだろうが、好みなら何でもいーわ!あ、でもレリエルの奴だけは勘弁してくれ」
「なんでだ?」
「あの野郎…。言葉巧みに言質取って、俺の宝物庫の半分カラにしやがったんだよ!しかもそれ、俺の軍隊の連中にバラまいて裏切らせやがって!あのカマ野郎……。あいつだけは、この手で直接〆る!!」
「マモン、それ相手が悪いわ。あいつってさぁ、何で闇堕ちしねぇのかってぐらい腹黒いけど、天魔大戦ではそれが有利に働くんだわ。知略謀略やりまくりの欠かせない人材だってんで、切るに切れないってのが本音だろうな。正直、あいつと対等にやり合えるのってベリアルぐらいだよ」
「……好きでやり合ってんじゃねぇ。そういや最近、奴の姿を見ねぇな?」
「ああ、そういえば『どこでサボってんだあいつは!見かけたら私に連絡してくれ!』って、ミカエルの奴が怒り狂っていたぞ。あいつ、下手すりゃ今度こそ闇堕ち決定じゃないのか?」
「…正直、闇堕ちしても仲間に入れたくない……。天使のままでいてくれた方が、精神衛生上良い」
「「「同感!」」」
――退屈だな。
仲間達の作戦会議……という名の雑談に適当に話しを合わせつつ、俺は胸の中で呟いた。
百年に一度行われる、天使と悪魔の戦い『聖魔大戦』
今俺達七大君主はきたるべき次の聖魔大戦に備え、作戦会議と言う名の宴を開いている。
…まあ会議と言っても、それぞれが思い思いに寛ぎつつ、ほぼ裸身のインキュバスやサキュバス達に給仕をさせながら……という、だらけ切ったものであったが。
だいたい『聖魔大戦』などと仰々しい名前が付けられているが、別に天界と魔界が世界の覇権を巡って戦う…などという類のものはない。
ヒマと力を持て余した精霊系によるストレス解消が主な目的の、人間でいう所の体育祭のようなものだ。
天使も悪魔も互いに魔力体力知力を駆使し、どちらがどれだけ相手の魂…『核』を集められるのかを競うのである。
勿論、核を失えば肉体を失ってしまうが、聖魔大戦が終了すれば、集められた核はきちんと相手側に返される。(たまに数が合わなかったりもするが)精霊系は核さえあればいくらでも復活可能なので、数年後にはしっかり復活する。
なぜ、こんな争いを定期的に行う事になったのか。
天使も悪魔も人間の魂の管理が主な仕事なのだが、ぶっちゃけルーティンワークな為、飽きるしストレスが溜まる。
特に黒の精霊系は血の気が多いので、末端に行けば行くほど力を持て余した者どもが暇つぶしに人間界に干渉したり、悪事を働いたりするのだ。
天使と悪魔の小競り合いや派閥争いも激化していて、真面目に世界を巻き込んだ戦争が起こりそうになった時期があり、焦った神霊系がとある提案を俺達にしてきたのだ。
――いわく、『本当に戦争するのは駄目だけど、定期的に疑似戦争をしたらどうだ?』…と。
それにより、百年周期で行われているのが『聖魔大戦』という訳なのだ。
天使も悪魔もどちらも負けず嫌いなので、暇さえあればどのようにして相手に勝つかを議論したり、協力して作戦を立てたりする為、確かに余計な諍いや下界への干渉は激減した。
……だが、やはり何度も戦っていればマンネリ化してくる。
ただ力技で戦うってのも芸が無いと、最近は財宝をバラまいたり、色仕掛けしたりして相手をスパイにしたりと、割とえげつない事を互いにするようになった。
俺も先の大戦では、かなりの数の天使達をタラシ込んで戦闘不能にしてやったが、今回は何も行動を起こしていない。
元々俺は、七大君主の中でも特に飽きっぽく、気まぐれだと言われている。実際それは本当の事なので否定はしない。
そんな俺が、二千回以上も律儀に疑似戦争に付き合っていたのだ。そりゃあ飽きるというものだろう。むしろよく保った方だ。
……もういい加減潮時だな。
そういう訳で、俺は退屈し切っていた。
何かもっとこう……ワクワクする何かが起こらないものだろうか……。
――その時だった。室内にリン……!と澄んだ音が響き渡った。
そっと身体をずらし、少しやつれた感がある美しい寝顔を堪能する。
安心した様子で無防備に眠るユキヤに悪戯心が湧き上がり、薄く開いた唇に己のそれを合わせてみた。
「――ッチ!」
バチリと唇に鋭い衝撃波が伝わり、思わず顔を歪めた。そして、先程スープを食べた分程度の魔力がごっそり無くなった感覚に小さく舌打ちをする。
ユキヤの方はと言えば、先程の衝撃に起きるでもなく、安らかに眠ったままだ。
思わずホッとしてしまった自分にイラつき、再び舌打ちをする。
「……ったく、この俺が……。なんてザマだ!」
苦々し気に言葉を吐き出しながら、俺はこの腕の中で眠る厄介な(仮)契約者と初めて出逢った時の事を思い返した。
◇◇◇
「そろそろ、次の聖魔大戦についての攻略案を出さねばならんな」
「ルシファー…それ、協議する必要無いって!いつも通り物理でぶっ飛ばすってのでよくねぇ?」
「レヴィ…この脳筋馬鹿が!それではスマートさに欠ける。知略謀略を駆使してこそ、美しい勝利を得られるのだ」
「アスタロト。お前、まさにその美しさに拘ったゴリゴリの案を逆手にとって、ラファエルに足元掬われたんじゃねーの?忘れたとは言わせねーぞ!?」
「うううう…煩い!あ奴が妾の策を密偵に調べさせて嵌めたのだ!策自体は完璧だった!」
「それより、もし誑し込むんなら、俺は女天使限定にしてくれよな。男とかオカマとか、マジで勘弁!そっちはベルフェやベリアルに任せるわ!」
「…おい、アスモデウス。私は女性不信なだけで、男性好きという訳では決して無い。ましてやオカマなど心から興味ない!」
「俺は男だろうが女だろうが、オカマだろうが、好みなら何でもいーわ!あ、でもレリエルの奴だけは勘弁してくれ」
「なんでだ?」
「あの野郎…。言葉巧みに言質取って、俺の宝物庫の半分カラにしやがったんだよ!しかもそれ、俺の軍隊の連中にバラまいて裏切らせやがって!あのカマ野郎……。あいつだけは、この手で直接〆る!!」
「マモン、それ相手が悪いわ。あいつってさぁ、何で闇堕ちしねぇのかってぐらい腹黒いけど、天魔大戦ではそれが有利に働くんだわ。知略謀略やりまくりの欠かせない人材だってんで、切るに切れないってのが本音だろうな。正直、あいつと対等にやり合えるのってベリアルぐらいだよ」
「……好きでやり合ってんじゃねぇ。そういや最近、奴の姿を見ねぇな?」
「ああ、そういえば『どこでサボってんだあいつは!見かけたら私に連絡してくれ!』って、ミカエルの奴が怒り狂っていたぞ。あいつ、下手すりゃ今度こそ闇堕ち決定じゃないのか?」
「…正直、闇堕ちしても仲間に入れたくない……。天使のままでいてくれた方が、精神衛生上良い」
「「「同感!」」」
――退屈だな。
仲間達の作戦会議……という名の雑談に適当に話しを合わせつつ、俺は胸の中で呟いた。
百年に一度行われる、天使と悪魔の戦い『聖魔大戦』
今俺達七大君主はきたるべき次の聖魔大戦に備え、作戦会議と言う名の宴を開いている。
…まあ会議と言っても、それぞれが思い思いに寛ぎつつ、ほぼ裸身のインキュバスやサキュバス達に給仕をさせながら……という、だらけ切ったものであったが。
だいたい『聖魔大戦』などと仰々しい名前が付けられているが、別に天界と魔界が世界の覇権を巡って戦う…などという類のものはない。
ヒマと力を持て余した精霊系によるストレス解消が主な目的の、人間でいう所の体育祭のようなものだ。
天使も悪魔も互いに魔力体力知力を駆使し、どちらがどれだけ相手の魂…『核』を集められるのかを競うのである。
勿論、核を失えば肉体を失ってしまうが、聖魔大戦が終了すれば、集められた核はきちんと相手側に返される。(たまに数が合わなかったりもするが)精霊系は核さえあればいくらでも復活可能なので、数年後にはしっかり復活する。
なぜ、こんな争いを定期的に行う事になったのか。
天使も悪魔も人間の魂の管理が主な仕事なのだが、ぶっちゃけルーティンワークな為、飽きるしストレスが溜まる。
特に黒の精霊系は血の気が多いので、末端に行けば行くほど力を持て余した者どもが暇つぶしに人間界に干渉したり、悪事を働いたりするのだ。
天使と悪魔の小競り合いや派閥争いも激化していて、真面目に世界を巻き込んだ戦争が起こりそうになった時期があり、焦った神霊系がとある提案を俺達にしてきたのだ。
――いわく、『本当に戦争するのは駄目だけど、定期的に疑似戦争をしたらどうだ?』…と。
それにより、百年周期で行われているのが『聖魔大戦』という訳なのだ。
天使も悪魔もどちらも負けず嫌いなので、暇さえあればどのようにして相手に勝つかを議論したり、協力して作戦を立てたりする為、確かに余計な諍いや下界への干渉は激減した。
……だが、やはり何度も戦っていればマンネリ化してくる。
ただ力技で戦うってのも芸が無いと、最近は財宝をバラまいたり、色仕掛けしたりして相手をスパイにしたりと、割とえげつない事を互いにするようになった。
俺も先の大戦では、かなりの数の天使達をタラシ込んで戦闘不能にしてやったが、今回は何も行動を起こしていない。
元々俺は、七大君主の中でも特に飽きっぽく、気まぐれだと言われている。実際それは本当の事なので否定はしない。
そんな俺が、二千回以上も律儀に疑似戦争に付き合っていたのだ。そりゃあ飽きるというものだろう。むしろよく保った方だ。
……もういい加減潮時だな。
そういう訳で、俺は退屈し切っていた。
何かもっとこう……ワクワクする何かが起こらないものだろうか……。
――その時だった。室内にリン……!と澄んだ音が響き渡った。
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