黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第四章

使役する権利

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ベルは最後の傷を癒し終えると、グリフォンの身体に置かれた俺の腕にスルスルと移動し、呪いの鎖をジッと見つめた。あ、またこいつの首元の輪っか、細くなってる。

『…ふん。これは寄生型の呪いだな。対象生物の身体を侵食し、呪いを施した術者に吸い取った魔力を送り続ける。いわばパイプのようなものだ。幸か不幸か、こいつの魔力抵抗が強いので、一息に搾り取る事が出来てねぇようだがな』

でもその代わり、ジワジワと魔力を吸い取られているって訳か。それはさぞかし辛いだろう。

「なあ、お前の力で何とかこの呪い、解けないか?」

『解いてもいいが、今の状態の俺では無理だな』

「何だよー!人の血散々吸っといて!」

『それとこれとは別。あくまで血は対価だし、そんな事して俺に何の益がある?それと俺の事を吸血鬼ふぜいのように言うのは止めろ。不愉快だ』

「こ、この冷血漢!悪魔!!」

『はっ!今更な事だし俺は悪魔だ。何かを頼みたくば対価を払え』

くっ…!この男、あー言えばこう言うで、取り付く島がない!

『…お前は変わってるな。攻略対象である我を縛るでもなく、その黒の精霊の言う通り、益も無いのに助けようとする。なんと甘い事よ』

俺達のやり取りをジッと見ていたグリフォンが皮肉る…というより、思わずといった感じに呟いた。はい、また『変わり者』のお言葉を頂きました。

「別に利益なんてどうでもいいし」

なんたって今俺は、お仕事している訳では無い。弟子になれるかどうかの採用試験をしているのであって、利益なんて求めてないんですよ。

それになによりも…。

「理不尽を強要される辛さは…よく分かるから」

この年になるまでまともに外も歩けず、狭い世界で暮らしてきた事。今では暴走する魅了のスキルのせいだと分かるけど。

でも本当はずっと...ずっと外の世界に出たいと思っていた。そしてそれは皮肉にも、他人の思惑で強制的に叶う事となった。

そう。俺にとって、とても大切な家族達との決別と引き換えに。

自由になりたいと思ってはいたが、それは俺が望んだ形では無かった。でも、それを受け入れるしか無かったのだ。俺に…力が無かったから。

だからかな。俺が手助けして事態が好転するのであれば、出来る限りの協力をしたいと思ってしまうのだ。自己満足だと言われればそれまでだけど。

『それにしても…』

このままいったら、依頼を果たすどころじゃなくなって、契約不履行でウォレンさんの寿命縮めた挙句に採用試験不合格…になりそうだな。でももう、後戻りは出来ない。


『…そうか…』

そう一言呟くと、グリフォンはおもむろに自分の羽を嘴で数本引き抜き、俺に差し出した。

『これをやろう』

「え?あ、うん?」

訳も分からず羽を受け取る。するとその羽はまるで本当の黄金で作られたようにズッシリと重く、キラキラと輝いていた。

『…もし、我が命を繋ぐ事が出来た暁にはその謝礼として、その羽の数だけ我を使役する権利をお前に与えよう』

「――あ、ども…って、はぁ!?」

魔獣が自分の契約者以外の者に、自分を使役する権利を認める。しかも魅了の力無しでって、一体全体、どんな冗談だ?!

「い、いやいやいや!!こんなの貰えないって!あんた、仮にもこの国の守護者だろ?!自分で言うのもなんだけど、こんな素性の怪しい奴にそんな権限、軽々と渡すなよ!!」

『その通り。貴様ごとき幻獣の施しなど必要ない。こいつには俺だけで充分だ』

「ベル!お前は黙ってろ!」

『素性の怪しい…か。貴様、どうやら己を良く分かっておらんようだな。それに軽々しいとは我に対する不敬であろう』

ベルに怒鳴りつける俺を見下ろし、グリフォンはふっと目を細めて鼻で笑うような息を吐いた。

『我がその権利を与えた者は、我が妻たる始まりの巫女姫と、歴代の巫女姫達の中でもほぼ数人しかおらん。貴様はそれに足ると我が認めたのだ。それを侮辱する権利は貴様には無い』
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