黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第四章

腹が減っては戦が出来ぬ

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何とも言えない複雑な思いを胸に、黙って王様達一行を見送っていると、グリフォン声が静かに降りて来た。

『あ奴は我に恨まれたくて、敢えてあのような態度を取っておるのだ。昔から愚直で融通の利かない奴であったからな。だが悪ぶり方がお粗末で、児戯にしか見えん。仮にも王を名乗る者が情けない事よ』

あれ?これって俺に『だから気にするな』って言いたかったのかな?仮面かぶって顔見えないのに。俺ってそんなに分かり易いんだろうか。

横にいるザビア将軍を見てみると、グリフォンの言葉に同意するように頷いてくれた。…そっか。

状況は何一つ好転していないけど、胸が少しだけ温かくなった。




◇◇◇




「さて…と、じゃあ皆、オンタリア王国について分かる事だけでいいから俺に説明してくれないかな?」

王様一行が退出した後、俺はグリフォン達にそう切り出した。

なんせ俺、温室育ちなんてレベルを飛び越え、もはや引きこもりに近い生活をしていたから。このカルカンヌ王国がどこら辺にある国なのかも分からないのだ。当然オンタリア王国も以下同文。

『うむ。我々で分かる事は全てお前に話そう。…だがその前に、少し休め』

「えぇっ!?」

『お前の魔力量、もはや枯渇寸前と見た。よもや貴様、そのような有様で我らを守れると本気で思うておるのか?』

流石は弱っていても聖獣。威嚇するでもなく静かに発せられている言葉にも、思わず怯んでしまう様な威圧感が…。うう…ッ。それにしても俺のHPがゼロだったのがバレていたとは。

確かに、この国に来る前に色々あったから。そもそも体調万全じゃなかったし、治癒魔法大盤振る舞いしちまったからなー。…ついでに腹減った。

「聖獣様の仰る通りです。黒の魅了師殿、どうかお休み下さい。シェンナの輿入れも、まだ先方に通達しておりませんし、勅使が来るのも早くて数日はかかりましょう」

ザビア将軍も気づかわし気にそう進言してくれた。
うん、確かにいざって時に力を発揮出来なかったら不味いしな。腹が減っては戦は出来ぬって言うし。

「じゃあそうさせてもらおうかな。あ、ちなみに、ここって台所ある?」

「は?台所ですか?…ええ、一応は。王宮程広くはありませんが」

「じゃあ、ちょっと使わせてもらっていいかな?出来れば食材も。食事作りたいから」

戸惑うザビア将軍だったが、俺が料理をすると言ったら目を丸くし、次いで大慌てになる。

「そ、そのような事、貴方にさせる訳には…!こちらでさせて頂きます!」

「いやいや。俺が自分で作りたいだけだから。実はこう見えて俺、料理作るの趣味なんだよ」

「は…はあ…」

おお、すっごい困惑してる。そりゃそうか。ただでさえ希少とされる『魅了師』の頂点『黒の魅了師』の趣味が料理だもんな。う~ん、増々俺の評価が『変人』になっていく。あ、ウォレンさんの評価がか。帰ったら怒られそうだな。

「承知しました。それでは控えさせている召使に案内をさせましょう。誰か!」

「お待ちくださいませ、お兄様!私がご案内致します」

人を呼ぼうとしたザビア将軍の言葉を、鈴の音が鳴るような可愛らしい声が押しとどめる。

「シェンナ?」

「…差し出がましいようですが、出来れば私もお手伝いさせて頂きたいのです…」

ええっ!?一国のお姫様にお手伝いさせるって、いいのかそれ?!思いっきり狼狽えている俺に、モジモジしながら姫が再び口を開いた。

「黒の魅了師様の作られるお料理でしたら、さぞかし薬効に優れたものでございましょう。ですから私、その…。黒の魅了師様に倣って、聖獣様とお兄様にお食事をお作りしようと…」

ああ、成程。大切な人の為に自分も何かしたかったのか。うん、可愛い。そして健気だ。

「シェンナ…そんな事言ってお前、料理なんてしたことないだろう?黒の魅了師殿の邪魔になったらどうするんだ?それに万が一にも傷を負ったら…」

「…そうですね…」

「まあまあ、ザビア将軍。折角やる気になっているんですから、可哀想ですよ。薬効はともかく…そうだな。それじゃあ、病人にも優しくて手軽に出来るものを作ろうか?」

「――!はいっ!宜しくお願い致します!」

シュンとしょげてしまったシェンナ姫の顔がパアッと明るくなった。
可愛いなぁ…。ああ、癒される…。

まるで大輪の花が咲き綻んだような笑顔に思わず相好を崩した瞬間、首元が締まった。ぐえっ!
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