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第四章
希望の灯火
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「ベル!!」
『フン。鼻の下伸ばしてるお前が悪い』
こ…この狭量悪魔野郎は…!人が折角美少女の笑顔で心癒されていたというのに。
俺は首元に手をやると、巻きついているベルをビリッと剥がし、床にペッと放り投げた。
「料理作るのにお前は邪魔!そこで待ってろ!!」
「あ、では魅了師殿。私が厨房までご案内致します」
「はい、お願いします。ベル、絶対について来るなよ!?」
ジト目でこちらを睨み付けているベルにそう言い放つと、俺は美形兄妹と共に厨房へと向かった。
『フフフ…。悪名高き黒の精霊も形無しよな。だがさもありなん。あれ程の稀有なる魂の輝き。我すらも魅了されそうだ。今は仮面に隠れて見えぬ素顔も、さぞ美しいのであろうな』
『言っておくが、もし万が一でもあいつに色目を使ってみろ。その時は呪いに喰い尽くされる前に、俺が貴様に引導を渡してやる』
高御座から見下ろすグリフォンに対し、殺気を放ちながら睨み付けるベルを、グリフォンは面白そうに見つめた。
『あの者も大概にして規格外だが、貴様も変わっているな。まさか黒の精霊が、不穏分子と定めた相手を即刻排除せず警告で済ませるとは。まして我は今弱っているのだぞ?』
『思い違いをするな。貴様ごとき、弱っていようがなかろうが、いつでも瞬殺出来る。だがあいつが関わっている以上、多少は譲歩してやっているだけだ。…あいつを本気で怒らせると厄介だからな」
今度こそ本気でグリフォンは目を見開いた。
あの魅了師はこの黒の精霊を『従魔だ』と言っていたが、見たところこの黒の精霊には従魔としての主従の『縛り』は感じられない。なんらかの『契約』はしているようだが、立場はほぼ対等に見える。
高位精霊はその力に比例し、矜持が高い。まして自分の欲望をなによりも優先するとされている黒の精霊が、主従の契りを結んでいない召喚士に配慮するなど有り得ない話だ。
ましてや目の前にいるこの黒の精霊。力を抑えられているようだが、少なくとも上級悪魔、いや…己の勘が外れていなければ悪魔公の一柱…?
「ベルー!お前、俺の調理器具出せるか?!」
微妙な緊張感を含んだ空気。それを弛ませるような緊張感のない声が聞こえ、続いて慌てた様子で黒の魅了師が戻ってきた。
途端、先程まで自分に向けられていた黒い殺気が嘘のようにかき消える。
「フン、出せるに決まってるだろうが」
「あー良かった!じゃあここで泡だて器とお玉とフライパン返しを…いや、言っても分からないか。それに出されても持って行くのも面倒だし、やっぱ一緒に来てくれ!」
「おい!粗雑に扱うんじゃねぇ!」
黒の魅了師は黒の精霊をガッシリと鷲し掴むと、そのまま部屋から出て行ってしまった。驚いた事に、黒の精霊はそんな扱いを受けても逆上する事もなく、それどころかむしろ嬉しそうな様子で連れて行かれた。
『…成程。自分の我を通して嫌われるのが恐いのだな』
つまり、それ程深く魅了されている…という事か。黒の上位精霊をそこまで惚れさせるとは、大したものだ。最も魅了した当の本人は、その事実をあまりよく分かっていないようだが。
だが、もしその事を知ったら、あの魅了師はどうするだろう。黒の精霊の自分に対する想いを手玉に取り、自分に都合良く使役するのだろうか。
『…いや、有り得んな』
魅了師のくせに「人の心は自由であるべき」と言い切る変わり者のうえに、何も自分の利益にならない面倒事に自ら首を突っ込んでくる。いっそこっちが心配になってしまう程のお人好しなのだ。そんな人物が、自分に向けられる好意を利用しようとする筈がない。
『だからこそ我は、自らを使役する権利をあの者に与えたのだからな』
遠い、遠い遥か昔。この国を守り続ける事を最愛の妻と交わした。
生涯ただ一人と定めた契約者の、たった一つの願い。なのに無様にも呪いを受け、その願いが目の前で枯れ果てていく様を、絶望と共に成す術もなく見ている事しか出来なかった。
だがその昏い絶望に、僅かな希望の光が灯った。
その希望の光を灯したのは誰あろう、自分を捕らえる為にやって来た、敵とも言える存在だった。
『…そういえば…』
さほど昔ではない、1ヶ月弱前だったか。突然『全能召喚』が発生した事を、ふと思い出す。
たまに発生する雑魚のものではなく、並外れて見事な魔法陣だった。もし自分が契約者持ちでなければ、召喚に応じていたかもしれない程に。
『案外、ああいった者がアレを創り出すのかもしれんな』
そうひとりごちると、グリフォンは静かに目を瞑った。
『フン。鼻の下伸ばしてるお前が悪い』
こ…この狭量悪魔野郎は…!人が折角美少女の笑顔で心癒されていたというのに。
俺は首元に手をやると、巻きついているベルをビリッと剥がし、床にペッと放り投げた。
「料理作るのにお前は邪魔!そこで待ってろ!!」
「あ、では魅了師殿。私が厨房までご案内致します」
「はい、お願いします。ベル、絶対について来るなよ!?」
ジト目でこちらを睨み付けているベルにそう言い放つと、俺は美形兄妹と共に厨房へと向かった。
『フフフ…。悪名高き黒の精霊も形無しよな。だがさもありなん。あれ程の稀有なる魂の輝き。我すらも魅了されそうだ。今は仮面に隠れて見えぬ素顔も、さぞ美しいのであろうな』
『言っておくが、もし万が一でもあいつに色目を使ってみろ。その時は呪いに喰い尽くされる前に、俺が貴様に引導を渡してやる』
高御座から見下ろすグリフォンに対し、殺気を放ちながら睨み付けるベルを、グリフォンは面白そうに見つめた。
『あの者も大概にして規格外だが、貴様も変わっているな。まさか黒の精霊が、不穏分子と定めた相手を即刻排除せず警告で済ませるとは。まして我は今弱っているのだぞ?』
『思い違いをするな。貴様ごとき、弱っていようがなかろうが、いつでも瞬殺出来る。だがあいつが関わっている以上、多少は譲歩してやっているだけだ。…あいつを本気で怒らせると厄介だからな」
今度こそ本気でグリフォンは目を見開いた。
あの魅了師はこの黒の精霊を『従魔だ』と言っていたが、見たところこの黒の精霊には従魔としての主従の『縛り』は感じられない。なんらかの『契約』はしているようだが、立場はほぼ対等に見える。
高位精霊はその力に比例し、矜持が高い。まして自分の欲望をなによりも優先するとされている黒の精霊が、主従の契りを結んでいない召喚士に配慮するなど有り得ない話だ。
ましてや目の前にいるこの黒の精霊。力を抑えられているようだが、少なくとも上級悪魔、いや…己の勘が外れていなければ悪魔公の一柱…?
「ベルー!お前、俺の調理器具出せるか?!」
微妙な緊張感を含んだ空気。それを弛ませるような緊張感のない声が聞こえ、続いて慌てた様子で黒の魅了師が戻ってきた。
途端、先程まで自分に向けられていた黒い殺気が嘘のようにかき消える。
「フン、出せるに決まってるだろうが」
「あー良かった!じゃあここで泡だて器とお玉とフライパン返しを…いや、言っても分からないか。それに出されても持って行くのも面倒だし、やっぱ一緒に来てくれ!」
「おい!粗雑に扱うんじゃねぇ!」
黒の魅了師は黒の精霊をガッシリと鷲し掴むと、そのまま部屋から出て行ってしまった。驚いた事に、黒の精霊はそんな扱いを受けても逆上する事もなく、それどころかむしろ嬉しそうな様子で連れて行かれた。
『…成程。自分の我を通して嫌われるのが恐いのだな』
つまり、それ程深く魅了されている…という事か。黒の上位精霊をそこまで惚れさせるとは、大したものだ。最も魅了した当の本人は、その事実をあまりよく分かっていないようだが。
だが、もしその事を知ったら、あの魅了師はどうするだろう。黒の精霊の自分に対する想いを手玉に取り、自分に都合良く使役するのだろうか。
『…いや、有り得んな』
魅了師のくせに「人の心は自由であるべき」と言い切る変わり者のうえに、何も自分の利益にならない面倒事に自ら首を突っ込んでくる。いっそこっちが心配になってしまう程のお人好しなのだ。そんな人物が、自分に向けられる好意を利用しようとする筈がない。
『だからこそ我は、自らを使役する権利をあの者に与えたのだからな』
遠い、遠い遥か昔。この国を守り続ける事を最愛の妻と交わした。
生涯ただ一人と定めた契約者の、たった一つの願い。なのに無様にも呪いを受け、その願いが目の前で枯れ果てていく様を、絶望と共に成す術もなく見ている事しか出来なかった。
だがその昏い絶望に、僅かな希望の光が灯った。
その希望の光を灯したのは誰あろう、自分を捕らえる為にやって来た、敵とも言える存在だった。
『…そういえば…』
さほど昔ではない、1ヶ月弱前だったか。突然『全能召喚』が発生した事を、ふと思い出す。
たまに発生する雑魚のものではなく、並外れて見事な魔法陣だった。もし自分が契約者持ちでなければ、召喚に応じていたかもしれない程に。
『案外、ああいった者がアレを創り出すのかもしれんな』
そうひとりごちると、グリフォンは静かに目を瞑った。
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