黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第五章

騙る者

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「ほぅ…貴様が、かの『黒の魅了師』だと?」

騎乗していたサラマンダーから降り立ち、ラシャドは次々と降り立った部下達と共に俺達の方へ足を進め、数メートル先で止まった。

不遜さを隠そうともせず、鼻先で笑うかのような口調が実に癇に障る。「アレ」から今度は「貴様」呼ばわりだし、とことん無礼な奴だな!しかも本物かどうか疑ってるっぽい。…ま、実際偽者なんだけど。

「ゲイルガ」

冷えた声で名を呼ばれた小男は、一層震えを強くさせながら喘ぐように言葉を紡いだ。

「お…恐れながら、事実に、ございます…。聖獣を診るという名目でっ、カルカンヌの、王が招いたそうで…」

「…………」

「そ、そして、かの聖獣に、姫の輿入れを見届けろと…ギャッ!!」

必死に説明していたゲイルガの体が、悲鳴と共に後方へ飛ばされ砂地に転がる。咄嗟の出来事に唖然とする俺の目に、いつの間にか鞭を手にしたラシャドが映った。

「で?言われるがままに、我らが招いてもいない者の同行を認めたなど、聞いて呆れる。この似非・・に魅了にでもかけられたか?」

「お…っ、お許しを…!!お許しくださいっ、ラシャドさま!どうか…」

強かに打たれた肩を押さえ、痛みと恐怖でガタガタと震えるゲイルガにかけられたのは、どこまでも非情な眼差しだった。

「黙れ。貴様のような木偶の戯言など、聞く価値すらないわ。今ここで斬られなかっただけ有り難く思え」

温度のない言葉を投げつけ、ラシャドは放るように鞭から手を離した。するとソレは生き物のように彼の腰に巻きつき、ベルトへと形を変えた。どうやら魔道具だったらしい。

「さて、そこの『黒の魅了師』と騙る者よ。此奴を誑かし、二国間の厳正なる儀式に紛れ込もうとしたようだが、ここまでとさせてもらおう。本来ならば只では済まさぬ所だが、カルカンヌ国王の顔を立てて罪は問わぬ。命惜しくば…さっさと去ね!」

『うわぁ…!こいつ、とことんだな』

いきなりのゲイルガへの制裁もそうだけど、この男…全く聞く耳を持ってない。
しかもどうやら「黒の魅了師」の名を語る偽者だと断定したらしい。

カルカンヌ王国から同行していた兵達は、唯一口をきけたゲイルガへのラシャドの態度に恐縮してるっぽいし…。

ラシャドの親衛隊も剣呑な空気を醸し出してきた。このままだと剣を向けられそうだ。う~ん…どうしようかな。

「無礼な!!この御方はれっきとした我が国の賓客で、我が妹シェンナの輿入れにわざわざ同行願ったのだ!貴様らこそ、何をもってこの御方が『黒の魅了師』ではないと断言する?!」

ちょっとだけ逡巡してた俺の代わりに、彼らに激昂したのが隣にいたザビア将軍だった。
けれど怒りに肩を怒らせる将軍に対し、ラシャドは不遜な態度を隠そうともせず口の片端を釣り上げた。

「これはザビア将軍。貴殿の国の客…というが、生憎こちらの国の客ではない。貴殿と召使いだけ妹君の随行を許したが、許可もしていない者など…」

「勘違いするな。指示など受ける謂れはないし、貴様らの許可など俺には不要」

『ベル?!』

ラシャドの不敬な言葉をぶった斬るように、俺ではなくベルの『声』が遮った。所謂別人格の俺様バージョン降臨だよ!息巻いていた将軍が「ぉお…!」って嬉しそうなのはなんでだろう。

だけど、言われた方はそうはいかない。ラシャドはピクリと眉を顰め、不愉快そうに俺を睨みつける。

「何だと貴様。許可が不要などと、戯言を…!」

「そこに無様に転がっているネズミにも言ったが、俺の依頼主はここにいるザビア将軍だ。貴様らの意向など知った事か」

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