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第五章

躾直し

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「なっ?!」

「ぶ、無礼な!ラシャド様に向かって!!」

わぁー。あー言えばこー言う、典型的な「喧嘩買います」な煽りだよ。

ラシャドって男も周りの取巻き達も、どんどん殺気が大きくなってってる。まぁ、正直ちょっとムカついてたからストップかけてないけど、やり過ぎて将軍や姫に迷惑掛けるのは避けなきゃなー。

「そして、俺がシェンナ姫の輿入れに同行するにも理由がある。…貴様らにとって必要不可欠な…な」

「繰り返し、戯れ言を…!!」

俺の(本当はベルの)思わせぶりな台詞に、剣の柄に手をかけたラシャド達の顔が益々険しくなっていく。流石に隣の将軍も顔を険しくさせて、気遣わしげに俺と後方に控えているシェンナ姫を見遣っていた。

『お、おい、ベル?』

『ユキヤ。てめぇは王宮の時みたく、しっかり奴らを睨んでろ』

かく言う俺も、いきなり始まったベルの寸劇に驚いたけど、脳内指示された通り黙って彼らをまっすぐ見つめていた。



◇◇◇



怪しさしかない、白磁に金と黒の模様が入った仮面を着けた黒ずくめの男。ご丁寧に黒蛇まで首に巻きつけ、これ見よがしな杖を持っている。大方その格好で『黒の魅了師』を気取り、法螺をふいた魅了師崩れ…と言う所か。

一体どんな思惑で、カルカンヌの王はこのような輩を潜り込ませようとした?捉えて尋問するにしても、そんな時間は無い。

まんまと騙され、「あの御方」の命を受けたにも関わらず愚かにも随行を許したゲイルガ。此奴は国に帰ったら重い罰を与えると決め、まずは姫の回収と男の排除を速やかに済ませなければ。

姫の兄である将軍が五月蠅いが、我が国と彼の国の差は歴然であり、対等ではない故に軽くあしらって…と思った矢先の無礼な台詞の数々。やはり始末するべきだと思い、仮面の男を睨みつけたのだが。

「……?!」

『な、なんだ…!この、圧は?!』

男のたたずまいには緊張も感じず、凪いでいると言うのに…。

神経がぞわりと粟立つような感触、そして別種の圧迫感がじわじわと押し寄せて、背中に嫌な汗が滲んで伝い落ちるのがわかった。それは私の部下達も同様らしく、訳の分からぬ恐怖を感じて顔を引き攣らせている。

まさか、この圧迫感…威圧を放っているのは、目の前にいる魅了師崩れなのか?!

「き…貴様…!」

「まぁ、俺が『本物』だと信じられないのも分からんでもない。筋も一応通してやるべき…か。ならば、口よりも『目』で物を言わせてみようか?」

口調こそ尊大だが、声音は少年寄りの青年に近く静かとも言えた。が、聞く者に畏怖を感じさせる『何か』を孕んでいるような…。

「例えば…お前達が乗ってきた火竜サラマンダー。アレらを躾直してやろう」

「は?!」

不意に圧迫感が緩む。男が視線をずらしたからか?

次いで男が杖で指し示した先には、地面に腹をつけ待機している火竜サラマンダー達がいた。一瞬何を言われたかと呆けてしまったが、これには嘲笑が抑えられなかった。

「ふっ、ははは…!馬鹿が、何を言い出すかと思えば…。貴様如きが私の..我らの火竜サラマンダーを躾直すだと?!身の程知らずとは、貴様の様な者を言うのだ!」

そう、私の火竜サラマンダーはここに集う火竜サラマンダー共の長、『あの御方』が直々に使役されたモノだ。そして、長に及ぼされた使役の鎖は、統べる全てに精神共振を及ぼし強固な鉄壁となる。

過去、敵味方関係なくヒビ一つ付けることも叶わなかった使役の鎖を、この男が壊すだと?笑わせるにも程があると部下と共に嘲笑えば、仮面の男はほんの僅か首を傾げた。

「ほぅ…随分な自信だ。ならば俺がこいつらを使役すれば、貴様らは俺の随行を快く受け入れるのだな?」

未だに戯言をほざく似非に、私は鼻先で笑って鷹揚に頷いてみせる。

「いいだろう、やれるものならばやってみるがいい。但し、こいつらの目の前に立って…な。言っておくが、私の火竜サラマンダーは気性が荒い。命の保証は難しいぞ」
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