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第六章

誠意の証明

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俺の、樹齢ウン百年の老木から作り出したような杖とは違う、漆の呂色のような光沢を放つ技物のそれ。
トップには子供の拳大もある黒石が埋まっている。

「ベル、あの男が持ってる杖が気になるのか?」

『気になるなんてもんじゃねぇ。分かんねえのか鈍感が!...と言いたい所だが、発動してねぇから分かり辛いか』

ディスられて「?」となったのも束の間、不意に耳元へラシャド達の会話が聞こえてきた。魅了の掛け直し?確認?の最中から、フゥの風魔法で奴らの声を届けてもらっているのだ。

『申し訳ありません、バティル様。あの厄災を排除出来なかったばかりか、随行を許してしまうという失態を…!』

『良い。火竜サラマンダー共を掌握された時点で選択肢など無かろう。…してラシャド。仮面の男は『黒の魅了師』だと…?』

『…はっ。ゲイルガに言われた時は、滑稽無形な与太だと疑っておりませんでした。しかしながら….』

『”黒の…”は兎も角、相当の技量を持つ魅了師で間違いない、か...』

多分、俺が盗聴しているのは気づいてるだろう。一旦会話を打ち切ったバティルは、真っ直ぐ俺へ顔を向ける。そして冷たい美貌にこれまた冷たい笑みを浮かべた。

「オンタリオ国へようこそおいで下さいました、シェンナ殿下。そしてザビア殿下。招かざる者を伴って…ですが、歓迎致しますぞ」

しっかり嫌味を入れた、心のこもっていない慇懃無礼な口上を述べたバティルは恭しく頭を下げる。だけどザビア将軍もシェンナ姫も、無言で奴を睨んでいた。

此奴が王太子を使ってグリフォンを害し、カルカンヌ王国を境地に陥れたのは、紛れもない事実だと分かっている。このまま俺達を招き入れるのか、それとも俺を排除しようと動くのか…。

「そう警戒されるな。私が共もつけず門外に赴き、火竜サラマンダーを奪った貴殿の前に立つ意味を汲み取って頂きたい」

俺の穿った視線を受け、バティルは自分に敵意が無いと言外に含ませ、にこりと氷の笑みを深める。
つまり、攻撃されるかもな危険を犯す事で、俺達に誠意を見せたと言いたいのか。

『ふん、よく言う。要はお前に兵共を根こそぎ『魅了』されるのを防ぐ為だろうに』

ベルの小馬鹿にした言葉に、砦の上や門前に兵士達がいなかった理由も正にそれが理由かと納得する。どうやら俺は、『魅了師』として相当警戒されているらしい。

そんな思惑を他所に、バティルは笑みを貼り付けながら俺へと手を差し出した。

「さて、魅了師殿…とお呼びしよう。私自ら誠意を示したのだから、貴殿にも返して貰いたいのだが?」

「返すとは、何をだ」

バティルの言葉に、ベルではなく俺自身の声で問いかける。すると奴は、差し出していた手指をくいっと自分の方へ曲げた。

「姫達を、貴殿を含めて我が国に入国させるに辺り、貴殿と軽い『打ち合わせ』をしたい。火竜サラマンダーから降りて、此方に来て頂けるか」

「…俺一人でか?それとも姫達を連れて?」

「私はどちらでも構わぬ。もうじき日も完全に落ちるのに、このまま睨み合いを続けていても意味はなかろう?」

「………」

ラシャドの言う通り、辺りはどんどんと暗くなっている。ここでラシャドを攻撃して無理に国に入っても、ベルが言っていた「諸悪の権化」が居るのなら悪手も悪手だ。どっちみち入国しなくては状況は動かない。

「よっと」

「あ!魅了師殿!?」

俺は風魔法を使い、ボス火竜サラマンダーから危なげなく飛び降りた。急な行動に驚きの声を上げたザビア将軍に、大丈夫だよと手を軽く振る。それから少し後ろの方にいた侍女達を手招きした。

「姫達は火竜こいつに乗ったままでいてくれ。それと将軍、彼女らを火竜こいつの上に乗せておいて」

『フゥ。お前は魔鳥スラッシュと此処に残っていろ。結界も強化しておいてくれ』

『えーっ!ハ虫類は連れてくのにーっ?』

『テメェ如き羽虫、此奴らを守る位が関の山だろうが。精々励め』

完璧見下し発言にムキーっ!と怒り狂うフゥとせせら笑うベル両方を諌めつつ、じっと俺を見下ろすボス火竜サラマンダーを見上げる。

「よしよし、姫達を頼むな。それと、大人しく俺が戻ってくるのを待っていてくれ」

ボス火竜サラマンダーの頬あたりを軽く撫で頼むと、「畏まりました」とでも言うように目を細め短く鳴いた。それから俺は、眉根を寄せているザビア将軍を見上げる。

「ちょっと行ってくるよ」

「...お気を付けて、魅了師殿」

懸念を抑えたザビア将軍の声に頷き、踵を返す。そして砂を踏み締めながら、俺はバティル達が待つ門前へと歩いて行った。
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