黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第六章

72柱の悪魔

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「巫山戯るのも大概にしろ!さっき五月蠅く喚いていた太鼓腹と同じで、理解する頭が無いのか?」

「…くっ!」

ムカつくままに言い捨てる俺に、バティルは僅かに体勢を崩しよろめいた。砂漠での対面時だったら、多分卒倒していた強さだろう。

が、奴の持つ杖の魔石が鈍く光っている。どうやらこの間に充満している魔力と同様、持ち主を守ってるようだ。顔を歪めて多少苦しそうだが、耐えられているのに俺はまた心で舌打ちする。

「き、貴様っ…!?」

俺の『目』の被爆を免れてる王弟が、ぶるぶる震えているのがほんの端っこに映る。ついでに罵ったのがよっぽ屈辱だったか、怒りで顔が赤黒くなって今にも血管ブチ切れそうになっている。が、知らん!

物理攻撃はタブーだが、精神攻撃なら問題ないだろ。ベルの静止もない為、俺はバティルを睨み続けていたが…。

ガァアー!!

『!!』

謁見の間に鴉の鳴き声が響く。と、バチッ!と静電気がスパークしたみたいに、バティルと俺の間にあった圧迫が四散した。つまり、俺の『目』が弾かれたのだ。

『あの鴉…!』

大人しく停まっていた杖の上で、大鴉は畳んでいた羽を広げ数度羽ばたく。それから、肩を小さく上下させるバティルに顔を向けて念話?してるのだろうか。周囲が騒つく中、油断なく姫達を庇いながら俺は奴らの出方を待った。

「…確かに、今のは私の落ち度。我が無礼を謝罪する」

ややして、絶対そう思ってない態度と顔で失礼を詫び、バティルは未だ憤懣やるかたない王弟を目で制した。そして、微動だにせず座っている国王達を見て口端を歪める。

「特使殿のお望み通り場を設えたというのに、不粋であった。寛大にも国王陛下や王太子は、其方の不敬は全て不問とすると了承された故、遠慮なく質問すれば良い」

「……….」

「どうされた『特使』殿?寛大な陛下達は、貴殿の質問になんでも答えてくださるそうだ」

俺が要求していた質疑応答ってやつか。コノハに事の次第を聞いてなくても、彼らが精神支配されてるのは一目瞭然だ。茶番もここまでくると胸糞を通り越す。王弟も余裕を取り戻したか、嫌らしい笑みを浮かべて俺たちを見下していた。

『もう彼奴らのお遊びに付き合う必要は無いな。ベルを召喚して、早々に呪いを砕いて決着を…』

『ドグサレカスゴミが!黙ってりゃ…!!砂漠の時もだが、誰に断って俺のモンに色目使ってやがる!!』

「..........」

例の大鴉が俺をガン見しているのに、ベルはめっちゃ激おこしてたらしい。脳内でガルガル唸ってる内容にツッコミどころが多すぎて、真剣だった俺の思考が一瞬スン、となってしまう。

『おいベル、見当違いな事言ってんなよ!』

『うるせぇ!俺の怒りは的を得てんだよ激鈍ユキヤ!』

『誰が激鈍だ!脳内で怒鳴んなよ煩いなっ!!』

おい、召喚するまで正体隠すんだよな?幾ら下級の使い魔に擬態してても、余り興奮していると気づかれるぞ!ってか、出鼻挫くな!!

『それにしても…。バティルの使い魔だって思ってた大鴉。本当はあの男バティルが召喚した上位悪魔グレーターデーモンだったとは....』

ベルが油断するなと警告した後、追加で告げてきた情報には驚いた。まさか、あの鴉こそが『油断出来ない力を持つ爵位持ちの上位悪魔グレーターデーモン』の仮初の姿で、しかも72柱の一つ…なんて。

能ある鷹は爪を隠すの鴉バージョンだな。兎も角。俺は引きこもり時代、色んな本を読み漁ってたから、白精霊は勿論の事、黒精霊…所謂『悪魔』に関する本だって読破していた。

「大鴉」「爵位持ち」「72柱の一つ」という数々のヒントで、確信はまだ持てないけど、何となく上位悪魔こいつの見当は付けていた。
成る程、グリフォンが容易く呪いに掛かるわけだと納得出来る。

何よりも、この広間に充満する澱んだ魔力が真面目にヤバい。謁見の間にいる俺達以外の人間には害ではないのだろうか?

防御結界を張っているけど、フゥとコノハの怯え方が強くなっているのを鑑みるに、遅かれ早かれ俺達…特に姫達に悪影響を及ぼすのは間違いない。何より、いつ何時グリフォンの魔力が枯渇するか定かではないのだ。

『ベル。今から召喚するけど、いいか?』

『そうだな、俺の我慢も限界だ。さっさと召喚しろユキヤ、彼奴を完膚無きまで滅してやる!』

『いや、それよりも先にグリフォンの呪いを壊してくれよな!』

全く!と脳内でベルとの掛け合いを強制的に終わらせ、俺は大きく息を吸った。

「混沌と闇の世界を統べ…」

そして悪魔公ベリアル召喚の詠唱を口ずさみ始めた、その時だった。

「っ!?」

俺を睨め付けていた大鴉の双眼が強く光り、体がぶわっと膨んだと同時に黒い突風が俺めがけて放たれる。
そして驚く事に、それは細い針金の形態となって俺が張った結界に突き刺さったのだ。
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