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第六章

真の力を見せて

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「そうですねぇ。最初はシェンナ姫からと思いましたが…。先ずは手元にある二つの『器』に手をつけましょうか。国王は一つ、王太子は二つの元素でしたねぇ?」

『器と元素だって?コイツ何を…!?』

不穏な単語に嫌な胸騒ぎがする。

ラウルは空な国王の顔を覗き込み、顎をしゃくってにんまりと笑うとバティルを手招き、杖に…正確には杖の魔石に手を伸ばした。

「貴様!国王と王太子に何をするつもりだっ!?」

ザビア将軍が俺の疑問をそのまま代弁してくれた。それに対し、ラウルは優雅に微笑を浮かべて小首を傾げる。

「知りたいですか?フフフッ、良いでしょう。特別に教えて差し上げましょうねぇ~。事の発端は、バティルが偶発的に私の召喚を成功させ、南大陸の制覇の為の戦力を望んだ事です。私への対価は、蹂躙で死ぬ大量の人間達。まあ、それならば分不相応な召喚も許せると言うもの…」

「なっ!!」

こともなしに告げる悪魔に、ザビア将軍は信じられないと驚愕の表情となった。勿論俺も同じくだ。

あの男バティルは、この大陸を支配する為に悪魔召喚を行い、尚且つ虐殺予定の、なんの罪もない人達を対価として提示しただと…!

俺にとっても、耳を疑うレベルで人非人の戯言だ。無言のバティルには、後ろめたさも罪悪感も見られない。そして更に最悪なのは、謁見の間に居る貴族達や騎士達の態度だった。

顔色を悪くして動揺を見せた者達は少数で、そうで無い者達の方が圧倒的に多い。此奴らはバティルのしでかす『計画』を知って尚賛同し、ここに居るのだ。…いや、もしかすると奴の魅了に掛かっているのかも知れないが。

「戦争の道具を設てやればいいのですから、簡単な仕事ですよ。そして、『器』に相応しい者として挙がったのが国王と王太子。彼らの魂を抜き、代わりに私の力を核にして『火』『水』『土』、3大元素の力を移植するのです」

『だから、コノハや他の精霊の力を奪ったのか…!!』

それが、奴等が国王と王太子を生かしていた最悪最低の理由。あのメタボはお話にならないが、兄である国王は十分ラウルのお眼鏡に叶う力があり、更にコリン王太子は三元素の精霊と意思疎通でき、彼らの力を扱えていたから。

『ダメッ!そんな事したらコリンは…っ!』

コノハは泣きそうな顔で絶叫する。フゥも同様だった。

得意げにペラペラと語る糞悪魔に俺は吐き気を覚え、硬く握る拳を震わせる。

俺達の憤りを、そして恐ろしい計画を聞き、兄に身を寄せガタガタと震えるシェンナ姫を王座のラウルは楽しげに見つめた。

「そしてシェンナ姫には、最後の元素である『風』を…。私の『呪い』で吸い取ったグリフォンの力を移植します」

「せ…聖獣様の力を、私に?」

「そうですよ。聖獣グリフォンの血を色濃く継いで生まれた貴方ならば、『器』として充分利用可能でしょう。そして意のままに操れる、四大元素の力を持った人形兵器が誕生するのです!」

幾らシェンナ姫が先祖返りであったとしても、成人もしていない未熟な身体で膨大なグリフォンの力を受け入れられる訳が無い。よしんば成功したとしても、待っているのは『器』である身体の崩壊だ。

『人間の身体に精霊の力を移植だと?無理に決まってんだろバカが!』

ベルがようやく発した言葉に、ラウルは「はて、何を可笑しな事を」と言う風に首を傾げる。

「同胞らしからぬ発言ですねぇ??精巧で長持ちの人形なら無理でしょうが、半年…いえ、数ヶ月でも保たせるのは可能でしょう?ならば、充分南大陸程度の制覇は成せますよ」

『………』

確かに不可能ではないだろう。

魔力が高くて強靭な肉体。そして資質と霊獣の血を受け継ぐ者ならば、『使い捨ての道具』という前提なら可能なのだ。

権力や覇王を求める者。相応の対価をもって応える悪魔。

いつの世にもある、権力欲に取り憑かれた者達が侵す、なんら珍しくもない構図だ。殊更、やり方が反吐を吐きそうな程下劣、かつ外道そのものと言うだけで。

「フフフ、後はバティル、貴方があそこの肉塊をお飾りの王にでもして、上手く使いなさいねぇ?」

ラウムの言動は、さも自分の所業が素晴らしいとでも言わんばかりだった。喉の痛みを凌駕する怒りがマグマとなって、腹の底から心の臓に迫り上がる。

『下衆が…!!』

俺は無意識に黒大蛇ベルを見遣った。

アレと同胞であり、黒の精霊の頂にいる存在。だけど、俺には確信がある。短い期間しか共に過ごしてないけど、この悪魔は歪んだ享楽主義者であるアレとは違うんだと。

「と、いう訳なので。暫し私の邪魔をしないで頂きましょうか、黒蛇の同胞よ。でないと、貴方の使役主が大変な事になりますよぉ?」

『…!ぐぅっ!!』

突如、今までと比較にならない激痛が喉に襲いかかる。炎で炙られるような痛みに、堪らず片膝をついてしまった。

『ユキヤ!!』

鉄臭い味が口一杯に広がる。思わずえずけば、床に付いた手の甲に赤い液体がぼたぼたと落ちてきた。

鼓膜…じゃない。思念での対話が阻害されて、フゥ達の声が聞こえづらい。視界の片隅には駆け寄るシェンナ姫とザビア将軍、それと這い寄ってくる黒大蛇ベルが映った。

「フフフッ、愛しい貴方にも大人しくして頂きますねぇ~?集中力が要りますから、『目』を使われて邪魔されると少しだけ厄介なんですよ」

ああ、死にはしませんから安心なさって下さい?と付け加え、ラウルは咳き込む俺を真紅の双眼で見つめてから踵を返した。霞む目を凝らすと、バティルを伴い国王達に再び近寄っているヤツが見える。

『ユ…ヤ……! かめ…を……せ!!』

ベルの怒鳴り声が途切れ途切れに響いてくるが、うまく聞き取れない。コン!コン!と顔を鎌首で何度も突き、何かを伝えようとしているみたいだけど、焦るだけ思考が散漫になっていく。

『くそぉ!!どうすればいい!?どうすれば…』

『全く君って子は。強いのに抜けてるトコロ、ベハティそっくりだなぁ』

パニックに陥っていた俺の頭の中に、突如鈴の様な声が鳴り響いた。静かで深く染み込むような、そして呆れを含んだ…これ、この声って…!?

『ウォレン、さん ?』

『でもね、君が選んだここまでの道は、危なっかしかったけど及第点をあげられる。君の黒蛇くんが喚いてる通り、早く仮面を取りなさい』

『 あ!! 』

あんまりにも肌に馴染みすぎててすっかり忘れていた。俺の『目』が抑制されるマジックアイテムを着けているって事を。正しく「眼鏡は顔の一部」の仮面バージョンだ。

ベルが懸命に顔を突いて喚いてたのって、励ましでも心配でもなく、俺にその事を伝えようとしてたからか。

……どうしよう、俺、真面目にバカ過ぎる…!!

別の意味でパニックになりかけたら、『時間が無いんだから、猿でも出来る反省は後でやりなさい』とバッサリ斬られてしまった。

『さぁ、君の『』を僕に見せておくれ?』

自分の間抜けさに恥いってる暇はない。

ウォレンさんの声に促されるがまま、俺は仮面に手を掛ける。そして、他の者には取れない魔法具仮面を外すと床へ投げ捨て、蹌踉めきながら立ち上がったのだった。
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