黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第六章

本当の姿

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周囲の響めきが大きくなっているが、そんな事どうだって良い。

俺はふらつく足を叱咤してなんとか立ち上がると、真っ先に玉座を見上げる。

するとラウルは片手を国王の顔を翳し、もう片方をバティルが傾けた杖の魔石に触れている所だった。……そう、まさに今から彼らを戦争兵器にする為に。

燻る怒りが燃え上がり、俺はきつく歯を噛み締めた。

「あ、貴方…!?」

周りの反応で仮面を取った俺に気づき、ラウルが視線を俺に向けた途端、余裕そのものだったヤツの顔が大きく動揺した。そしてそれはバティルも同様で、俺の顔を見るなりヒッと声を裏返らせ震え出す。

『呪い』の抑制力に絶対の自信があったのに、まさか俺がしぶとく立ち上がるとは思わなかったのだろう。実際、喉を炙る激痛が今も俺を苛んでいて辛い。だけど、ここで諦めて堪るものかと気力を総動員させた。

『お前らの好きにはさせない。絶対…許さない!』

周囲の色も音も何もかも消え失せる。ただ一点を除いて。

悪魔公ベリアルと対峙した時と同じだ。

激しい感情が血潮を沸騰させて、『目』に奔流する感覚。そして、明確な意志を持ってただ一点、玉座の悪魔とバティルを射抜く。

「 ぎっ…!!」

「ひ、ヒィッ!?」

明確な意思は力となる。

俺が心の底から願い、意思を固定させる事によって潜在能力…『魅了』がより強く引き出せる。

ベルが教えてくれた通り、俺は心の中で思いっ切りラウルへ怒鳴った。

『国王から 離れろ!!』

「ヒィィッ!!」

その途端、ラウルは国王から手を離したばかりでなく、悲鳴をあげて飛び退いた。

煽りで側にいたバティルが突き飛ばされたが、そのままへたり込みガクガク震えながら俺を見ている。無意識なのか、奴の双眼は薄らと茜色になっていた。

「み…魅了師どの」

「魅了師さま…」

気づくと、ザビア将軍とシェンナ姫が絨毯に膝付いて俺を見上げている。そうか、蹲った俺に駆け寄って…。心配と焦りで目を潤ませ、顔を赤らめる二人に俺は「大丈夫だから」と小さく頷き笑いかける。

すると何故か、もっと真っ赤になって固まってしまった。あれ?

『マスター、やっぱりキレー!』

『スゴい!つよいしキレーすぎー!!』

フゥとコノハが興奮しキラキラ瞳を輝かせている。

ベルは…ん?ものっすごく物言いたげに双眼細めて尻尾を絨毯に叩きつけてるけど、無言のままだ。

周囲はやけに静かになってるが、流石にこれ以上気を取られている暇はない。
俺は改めて絨毯の先へ視線を戻した。

『オンタリオ国王とコリン王太子…』

バティルに魅了をかけられた玉座の二人が目に留まる。

虚無の人形となっている彼等を助けたくて、「胸糞悪い魅了なんて、壊してやる!」と思ったその後、キンッと細い鎖が切れたような音を鼓膜が微かに拾った。

『…?気の所為だろうか。澱んでいた広間の空気が色を変え弛んだ…?』

そう感じたとほぼ同時に変化が起こった。

先ず国王の瞳に光が灯り、幾度瞬きを繰り返す度に、顔に表情がゆっくりと浮かび上がってきたのだ。

「……?これ、は…?」

精神に強度の鎖をかけて、完璧に支配していた筈の者が自我を取り戻したのだ。国王の口から掠れ声が漏れ、バティルは信じられないと目を見張る。

「わ…わたしの、『魅了』が…?!」

次いで、生命を吹き込まれたコリン王太子の双眼が揺れ動き、国王と同じく数度瞬きをする。

それから、戸惑っていたそれらが俺のすぐ傍で座り込んでいるシェンナ姫を映した途端、大きく見開かれた。

「……シェン…ナ…!」

しっかりと姫を見つめ、溢れた声。そして、コリン王太子の双眼から一筋の涙が流れ落ちた。

「コ、コリン…さまッ!!」

ハッとなったシェンナ姫は、王太子と同じく大粒の涙を零し破顔一笑した。コノハも涙を浮かべて『コリーン!!!』と飛び跳ねている。

『良かった、二人とも正気を取り戻して』

姫と王太子が果たした本当の再会だった。

まだ状況は完全に好転していないけれど、俺は少しだけ胸を撫で下ろす。早く国王と王太子をラウルとバティルから離さなければ。いや、その前に…。

『俺にかけた 呪いを 解けっ !!』

このおぞましい汚物を、一秒でも早く取り除け!と、俺はラウルを今までで一番強く睨みつけ『命令』を下した。

「あ、あぁあ……!」

俺の声無き『命令』に抗っているのだろうか。怯えて青白さまでなくしていた顔が、どんどんと赤くなっていく。
嘲りに満ちていた表情も呆けたそれに変わり、毒々しい真紅も潤んで充血して…かなり気持ちが悪い。

さっさとしろ!とダメ押しでラウルを睨み続けると、更にヤツの気色悪さが増した。

興奮すら滲ませ、でも心ここに在らずな様子に軽く怖気が走る。萎えそうな気持ちを懸命に奮い立たせていたら、ヤツが徐に指を鳴らした。すると、喉にへばりついていた感触が瞬時に消え失せたのだった。

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