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第六章
逆鱗
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以前、ベルに教えて貰った事がある。
悪魔は階級により、具現出来る焔が違うらしい。色も出せる強さもだが、同じ階級でも個体の質で特徴が微妙に変わるのだそうだ。
例えば、大貴族であるラウルの焔は黒く、触手のように敵に纏わりついたり、燃やしたり呪いを植え込む……性質に違わぬ嫌らしくも強力なモノだった。それに対して、もう一体の悪魔は……。
『凄い……!これが、ベルの焔!』
まさに圧巻。その一言に尽きた。
『王』である悪魔公ベリアルの焔は、彼の双眼の如く紅い。そして、どこまでも無慈悲に焼き尽くす苛烈さだった。
この焔は、絶対的な魔界の覇者という畏怖そのものだ。下位悪魔達はきっと、徹底的な恐怖を植え付けられ、平伏を余儀なくさせられたのだろう。
『ガァア!!ヤ、メッ……!!ヴァアアァアーーッ!!』
「魂まで焼かれていく気分はどうだ、ラウル。えもいわれぬ心地か?」
紅いオブジェと化した大鴉は、濁声と人語が入り混じる絶叫を上げ続けている。
しかし、ベルはそれを目を細めて心地良さそうに聴き、容赦なく焔を注ぎ入れていた。
それでも滅されまいと、ラウルは必死に再生しては焼き潰されを繰り返している。なんか…焔で大鴉が不死鳥に見えてきた。
『楽しそうだなベル……。それに、すっごい悪い顔してる……』
ベリアルは、絶大なる美貌と残虐非道を形にした悪魔だって、前世のウィキや今世の書物に記されてたよな。実際初めて邂逅した時は、その通りだって痛感したし。
『そう言えば…』
ラウルも「七大君主一無慈悲でえげつない」って喚いてたっけ。今だって、滅そうと思えば一息にやれるのに、あえてラウルに再生の機会を与えてる節があるよな…。
『ラウルに同情はしないけど、そんなベルに喧嘩を売るなんて……』
正に「蛮勇」と言う表現がぴったりくる行為だ。
小賢しくて計算高そうな悪魔だと思っていたのに、自信過剰なのか…それとも自暴自棄だったのか。にしたって、『ベリアル』に挑むのは無謀過ぎだろう。
他の七大君主は知らないけど、俺がもし下位悪魔だったら…絶対ベルとだけは対峙したくない!と断言出来るのに。
なんて悠長に考えていたこの時の俺は、ベルが苦笑気味に呟いていた言葉の意味を……。ラウルの暴挙が、一重に俺への執心からだったと思い至っていなかった。
そして後に、俺を巡って大規模な騒動が巻き起こる事を、現時点では知る由もなかったのである。
『ガ……ァァ…!!』
もはや逃れられない凄まじい力に蹂躙され、遂に再生する力も尽きたらしい。
身体のみでなく魂をも焼き尽くされているのが、波動で伝わってくる。
実際、炭化が始まってボロボロと崩れ落ちていく中、ヤツの魔力が急速に小さくなっていた。
『ガ、ァ……!!ドウ カ……オ、オタスケ ヲ……!』
「……ぁあ?」
ぴくり、とベルの柳眉が逆立ち、底を這うような低い声が漏れた。
『ナン、デモ、イタシ……!ドウ、ゾ……オジ…ヒ……』
「この後に及んで命乞いとは……。上位悪魔ともあろう者が、生き汚く矜持を棄てるか?恥知らずの痴れ者が……!」
なりふり構わないラウルの命乞いに、ベルの顔から笑みが消え…無情な程の冷たさが支配する。
「興が削がれた」
「……っ!」
凪いでいるのに、怒気そのものなベルの声に気圧され、息が詰まった。どうやらラウルの形振り構わずさは、悪魔公の逆鱗に触れてしまったらしい。
『オ……ユ シ……』
「これ以上無様を晒すな、胸糞悪いクズめ!俺にここまでさせた事を光栄に思いながら……魂の一欠片も残さず消滅しろ!!」
『ガァ アアアーー!!』
ギラリと光った双眼に呼応した紅焔は、瞬間火柱となって巻き上がり、大鴉に最期の叫びを上げさせ……突如消滅した。焔も、焔に包まれていた大鴉も跡形も無く。
『これが、ラウルの最期……』
二体の悪魔の戦いは、時間にしたら十分も経ってない。
けれど、目撃した者の大多数が恐ろしさに茫然としている。バティルに至っては、腰を抜かしたまま余りの恐怖で歯の根も合ってないようだ。
それはそうか。召喚した悪魔が倒されたのだから。次は自分の番だと考えて生きた心地もしないだろう。
『けど、お生憎様。お前の……いや、お前達に制裁を与えるのは俺達じゃないよ』
オンタリオの謀叛者達を見渡し、俺はふっと息を吐く。それからベルの元へ向かうべくm足を踏み出した。
その時だった。
「ん?」
ベルの足元から一メートル弱先に、ポトリと黒い何かが落ちてきたのだ。
『あれ?ラウルの燃えカス…かな?』
火柱が吹き抜けの天井から空に上がってたから、時差で灰か何かが落ちてきたのだろうかと最初思ったのだけど…。
「……んんっ!?」
目を凝らして良く見ると、その黒い物体はちっちゃくて丸い。それでもって蠢いてる……え?生き物!?
『キュァァ……!』
目を見開き唖然となる。
か細く鳴きヨロヨロと覚束なく立ち上がったソレは、黒いぽぁ毛を纏ったヒヨコ位の大きさの……鴉のヒナ……だったのだ。
悪魔は階級により、具現出来る焔が違うらしい。色も出せる強さもだが、同じ階級でも個体の質で特徴が微妙に変わるのだそうだ。
例えば、大貴族であるラウルの焔は黒く、触手のように敵に纏わりついたり、燃やしたり呪いを植え込む……性質に違わぬ嫌らしくも強力なモノだった。それに対して、もう一体の悪魔は……。
『凄い……!これが、ベルの焔!』
まさに圧巻。その一言に尽きた。
『王』である悪魔公ベリアルの焔は、彼の双眼の如く紅い。そして、どこまでも無慈悲に焼き尽くす苛烈さだった。
この焔は、絶対的な魔界の覇者という畏怖そのものだ。下位悪魔達はきっと、徹底的な恐怖を植え付けられ、平伏を余儀なくさせられたのだろう。
『ガァア!!ヤ、メッ……!!ヴァアアァアーーッ!!』
「魂まで焼かれていく気分はどうだ、ラウル。えもいわれぬ心地か?」
紅いオブジェと化した大鴉は、濁声と人語が入り混じる絶叫を上げ続けている。
しかし、ベルはそれを目を細めて心地良さそうに聴き、容赦なく焔を注ぎ入れていた。
それでも滅されまいと、ラウルは必死に再生しては焼き潰されを繰り返している。なんか…焔で大鴉が不死鳥に見えてきた。
『楽しそうだなベル……。それに、すっごい悪い顔してる……』
ベリアルは、絶大なる美貌と残虐非道を形にした悪魔だって、前世のウィキや今世の書物に記されてたよな。実際初めて邂逅した時は、その通りだって痛感したし。
『そう言えば…』
ラウルも「七大君主一無慈悲でえげつない」って喚いてたっけ。今だって、滅そうと思えば一息にやれるのに、あえてラウルに再生の機会を与えてる節があるよな…。
『ラウルに同情はしないけど、そんなベルに喧嘩を売るなんて……』
正に「蛮勇」と言う表現がぴったりくる行為だ。
小賢しくて計算高そうな悪魔だと思っていたのに、自信過剰なのか…それとも自暴自棄だったのか。にしたって、『ベリアル』に挑むのは無謀過ぎだろう。
他の七大君主は知らないけど、俺がもし下位悪魔だったら…絶対ベルとだけは対峙したくない!と断言出来るのに。
なんて悠長に考えていたこの時の俺は、ベルが苦笑気味に呟いていた言葉の意味を……。ラウルの暴挙が、一重に俺への執心からだったと思い至っていなかった。
そして後に、俺を巡って大規模な騒動が巻き起こる事を、現時点では知る由もなかったのである。
『ガ……ァァ…!!』
もはや逃れられない凄まじい力に蹂躙され、遂に再生する力も尽きたらしい。
身体のみでなく魂をも焼き尽くされているのが、波動で伝わってくる。
実際、炭化が始まってボロボロと崩れ落ちていく中、ヤツの魔力が急速に小さくなっていた。
『ガ、ァ……!!ドウ カ……オ、オタスケ ヲ……!』
「……ぁあ?」
ぴくり、とベルの柳眉が逆立ち、底を這うような低い声が漏れた。
『ナン、デモ、イタシ……!ドウ、ゾ……オジ…ヒ……』
「この後に及んで命乞いとは……。上位悪魔ともあろう者が、生き汚く矜持を棄てるか?恥知らずの痴れ者が……!」
なりふり構わないラウルの命乞いに、ベルの顔から笑みが消え…無情な程の冷たさが支配する。
「興が削がれた」
「……っ!」
凪いでいるのに、怒気そのものなベルの声に気圧され、息が詰まった。どうやらラウルの形振り構わずさは、悪魔公の逆鱗に触れてしまったらしい。
『オ……ユ シ……』
「これ以上無様を晒すな、胸糞悪いクズめ!俺にここまでさせた事を光栄に思いながら……魂の一欠片も残さず消滅しろ!!」
『ガァ アアアーー!!』
ギラリと光った双眼に呼応した紅焔は、瞬間火柱となって巻き上がり、大鴉に最期の叫びを上げさせ……突如消滅した。焔も、焔に包まれていた大鴉も跡形も無く。
『これが、ラウルの最期……』
二体の悪魔の戦いは、時間にしたら十分も経ってない。
けれど、目撃した者の大多数が恐ろしさに茫然としている。バティルに至っては、腰を抜かしたまま余りの恐怖で歯の根も合ってないようだ。
それはそうか。召喚した悪魔が倒されたのだから。次は自分の番だと考えて生きた心地もしないだろう。
『けど、お生憎様。お前の……いや、お前達に制裁を与えるのは俺達じゃないよ』
オンタリオの謀叛者達を見渡し、俺はふっと息を吐く。それからベルの元へ向かうべくm足を踏み出した。
その時だった。
「ん?」
ベルの足元から一メートル弱先に、ポトリと黒い何かが落ちてきたのだ。
『あれ?ラウルの燃えカス…かな?』
火柱が吹き抜けの天井から空に上がってたから、時差で灰か何かが落ちてきたのだろうかと最初思ったのだけど…。
「……んんっ!?」
目を凝らして良く見ると、その黒い物体はちっちゃくて丸い。それでもって蠢いてる……え?生き物!?
『キュァァ……!』
目を見開き唖然となる。
か細く鳴きヨロヨロと覚束なく立ち上がったソレは、黒いぽぁ毛を纏ったヒヨコ位の大きさの……鴉のヒナ……だったのだ。
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