黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第六章

動物虐待…?

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「かっ……!!」

衝撃と激情が声となってほとばしりそうになり、慌てて口を覆った。

あ……あっぶねぇ!!後方の姫達に奇異の目で見られるところだったよ。

『ってかナニあれ!?どう見てもヒナだよね?しかもカラスの!?』

毛が生えてるから、生後1週間くらい?鴉って成長するのがめっちゃ早いから、ヒナの姿を見られるのって僅かな時間だって聞いた事ある。

ってか、おっきな目を潤ませて……プルプルと震えながら、懸命に踏ん張り立ちしてる姿なんか、もう……。

『あぁああ!やっぱ駄目だ!かっわいいーーっ!!』

前世でも今世でも、俺って無類の動物爬虫類全般大好き人間なんだよね。しかも、ちんまい鳥の雛とかドストライク過ぎて理性が飛びそう!!

……と、心中身悶えてしまった俺だけど、実の所分かってはいる。

目の前にいる『コレ』。

見かけはまごう事なく雛だが、この状況下ではどう考えても『普通の雛』ではない。…けど!暴力的に可愛過ぎてどうしたらいいの!?状態だよっ!

「…ちっ!焼き潰したと思ったのに、一欠片だけ残りやがっただと……?」

だけど、大悪魔様ベリアルの反応は、俺とは真逆だった。

眼下でプルプル震えている雛を睨み、不愉快そうに舌打ちをする。そしてスタスタ近づくと、何の躊躇もなくダンッ!!とそれを踏みつけたのだった。

『ギュアーッ!!』

「ああっ!?」

「しかも、俺の焔を喰らっておいて……欠片とはいえ破損してねぇ魂の核だぁ!?」

『キュァァ~!!』

「しぶといゴミが!テメェ如きクソが、一体どういった姑息な手を使いやがった!?おら、吐けこのゴミ!!」

ベルの口調から確定した。『鴉の雛』の形をしたソレは、ついさっき焼き尽くされたラウルの魂?の一欠片、しかも核らしい。

確かに鴉だし、目も見覚えある深紅だ。低位精霊のコノハと違って、上位精霊って魂の欠片は実体になれるんだなぁ…。それとも、黒の精霊悪魔に限った事なのか?

『だ、だけど……これは……!』

ぐりぐりと、情け容赦無くラウルを踏みにじるベル。

キュア~!キュアァ~!と足の下でぱたぱたと手羽を動かす鳥のヒナラウル……。

『むごい!むご過ぎるっ!!』

それは俺にとって、目を覆いたくなるような動物虐待地獄絵図そのものだった。

「キュアキュア五月蝿ぇ!!言葉を使ってさっさと……」

「ベ、ベルッ!!」

踏み続けながらラウルを詰ってるベルに、俺は思わず駆け寄り肩にかかった垂布を掴んでしまう。

「あぁん?何だよ?」

だけど、胡乱げに一瞥するベルに言うべき言葉が見つからず口籠ってしまう。

つい衝動的に動いてしまったが、目の前の可愛い「コレ」は危険な悪魔で、カルカンヌにもオンタリオにも酷い事した、滅しなければならない敵であって……。

『キュアァ~……』

「うぅっ!?」

ウルウルと涙の溜まったつぶらな瞳で俺を見上げ、弱々しく鳴いて助けを求めるか弱い毛雛……。これでもか!とあざと可愛さを演出する黒ぽぁ(ただし正体はラウル)に、俺は思わず頬を赤らめ胸を押さえてしまう。

くっ…、なんて攻撃力だ…!!人型だった時の記憶が、塗り替えられてしまいそうだ。こ…これが大悪魔の、真の実力なのか……!?

「………えっと、な。ヒナを踏みつけてるの…絵面的に無理っていうか……その……。せ、せめて、もうちょっと穏便なやり方とか……」

「……は?お前、何言ってんだ」

布を引っ張りしどろもどろで呟くと、ベルが絶対零度な呟きを返してきた。本気で何言ってるのか分からんって顔をされて、然もありなんと俺も思うんだけどさ。

「……おい。まさかだが、コレの姿に絆された……なんて言わねぇよな?」

「…………」

何も言えずにいる俺をベルが半目で睨み、おもむろに足下をグリッと踏み躙る。途端、「キュアア!」と苦しそうに鳴く鴉の雛もといラウルに、俺は「あっ!」とあからさまに動揺してしまった。

「「…………」」

暫し俺達は無言になったが、やがてベルが「はぁ~…」と心底呆れたとばかりにため息をついた。

「お前は阿呆か?それとも、真面目に頭沸いてんのか?バカユキヤ!」

うっ!そ、そりゃ自分でもバカな事言ってる自覚はあるけど!見下ろす真紅に蔑みの色がくっきり浮かんでいて、思わずムッとしてしまう。

「わ、わいてないっ!!だいたい、俺の元いた処前世の地球では、こういう場面を平然と見れる奴らが頭沸いてるって言われたんだ!!」

「…………」

目を微妙に逸らしながら精一杯キリッと口ごたえする俺に、ベルはビキビキと青筋を立てた。そして、「こっち向け」とばかりに問答無用で俺の顎をガシッと掴んだ。

「黙れ!!真正の大バカが!!」

「い、いたたた!!」

「まんまとこのゴミに誑し込まれてんじゃねぇ!バカも過ぎれば可愛さ皆無だ!!……おいユキヤ。曇った目を醒ます意味でも、公衆の面前でブチ犯してやろうか……!?」

容赦無くギリギリと顎を掴まれ、涙目で悲鳴を上げる俺に激おこなベルの声が降り注ぐ。最後は物騒な脅し文句を囁かれたけど、双眼に宿る色は半ば本気だった。

「ご、ごめんって!だから離せ、よっ!」

「ったく、お前という奴は……!?」

ベルは怒りと呆れを含んだ声で更に文句を口にしようとした。が、ふと足元の……踏みつけている鴉の雛ラウルを睥睨した瞬間、表情が一変した。


『私の可愛い部下を、虐めないでおくれよ』


「えっ!?」

聞き覚えのない、人ならざる『声』が突如頭の中に響いた、僅か数秒後の出来事だった。

俺はベルに掻き抱かれ、力強く羽撃かせた翼によって後方に大きく飛び退る。

風圧と衝撃音に驚き、見開いた俺の目に飛び込んできたのは……。

『な、なに…!?』

俺達が立っていた場所に鋭い爪を立てていたのは、黒くて透き通った大きな「左手」だった。

しかも人型であった時、ラウルが出していた触手の様に、ソレはぐったりした雛の身体から出現していたのだ。これは、ラウルが力を隠し持っていたという事なのか?でも、たった今聞こえてきたあの『声』は一体……。

「……成る程。そういう事か」

困惑している俺を他所に、ベルはばさりと翼を広げて俺を覆い隠す。そして前方を睨みつけながら、何処か納得した様に嘯いた。

『ふっふふふ……』

透明だった黒い手は徐々に現実化していく。それから床に食い込んだ爪を抜くと、ゆっくりとこちらに掌を向けた。

「!!」

俺は、更なる驚きに声を無くす。なんと掌には、ギロリと動く巨大な『一つ眼』が在ったのだ。紫がかった紅い色に、ベルと同じ縦割れの瞳孔がある人外のそれ。

「下僕である其奴ラウルの核に種を植え、繋がっていたか。相変わらず用意周到なことだ」

『大事な配下の救済措置だよ。お前と違って、私は慈愛に溢れているからねぇ』

「抜かせ!大方テメェへのおイタ・・・防止だろうが、『三つ頭』」

『え!?』

低く紡がれたベルの言葉に、キュッと笑うように『眼』が細まる。そして、不可思議な旋律にも似た深い音が謁見の間に響いた。……これは、笑い声?

『ふふふ……それにしても。まさかこんな巡り合わせが起こるとは、いやはや僥倖僥倖!』

何処かラウルに似た口調だった。巨大な目に俺を映さない様、俺を抱きしめ翼で遮っているベル。唯我独尊で自信家なこいつには珍しく、明確な警戒が全身から滲み出ている。

ベルは『三つ頭』と言った。それはラウルの仕える『王』の渾名。

つまり、突如出現した黒い手と目の持ち主は、ベリアルと同じ七大君主の一柱……!

『少しぶりだな。殺したい程会いたかったぞ……『無価値』よ』
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