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引退を決めた冒険者、少女と出会う。
第2話 お人好し青年
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同じ宿に泊まることになったとはいえ、まあ深く考えないようにしていたが。よくよく考えると、レイチェルは着の身着のままで、荷物も何も持っていない。
部屋に入ってから、なんだか気恥ずかしいような気まずい空気。どうにも居心地が悪いし、旅の途中さすがに同じ服ばかりというわけにもいかないだろう。
ロックは自分の剣や防具を外して部屋の隅に置くと、おもむろに口を開いた。
「なあ、レイチェル。ご飯までまだ時間があるし、ちょっと出かけようか」
「えっ? あ、はい」
ロックは女将に出かける旨を伝えると、レイチェルを連れて通りの先の商店街へと足を向けた。
「あの、何かあるんですか?」
「ん、まあね。ほら、ここだ」
ロックが彼女を連れてきたのは古着屋だった。
「あ、あのここは?」
「服屋だよ。失礼だけど、今着てる服しか、持ってないんだろ? 旅はもう少し続くから、せめて着替えを何着か持ってた方がいいでしょ」
「で、でも。助けてもらった上に、そこまでしてもらう理由なんてありませんよ」
確かにそうかもしれない。だが、着替えもままならないのではこの先の旅。ロックの故郷まで風呂にも入らないつもりだろうか。そんな状態では、何か仕事を探すのも大変だろう。
「施しってやつが嫌なら、貸しにしとく。仕事が見つかったら働いて返してくれればいい。それでどうだ?」
ロックの提案に、レイチェルは少し考えこんでいたが、それならば、とようやく首を縦に振った。
小一時間。
レイチェルが気に入った服を手にした時には、ロックはヘロヘロになっていた。最初は遠慮していたけれど、だんだんと楽しくなったのか、あれ、これと試着してみては、何度もロックに見せ、似合っているか問う。
結局お気に入りの服を三着。それから下着を数点(もちろん、何を買ったか、ロックは見ていないが)選んで宿に戻ってきた頃には、すっかりと夜の帳がおりていた。
食堂は大賑わいだった。座る席がなさそうだったので、二人は先にこの宿の大浴場へ向かうことにした。
ロックがこの宿を使うもう一つの理由である。そう、この大浴場は宿の建物の裏手にある半露天風呂だった。
大浴場は言うなれば社交場の一つ。当然であるが、こんな小さな村の風呂では男女が分かれているはずもなく、混浴なのだ。
ロックが湯につかっていると、その背後からそうっとやってきた女性がいた。レイチェルだった。
「えっ」
「こっち見ないでください」
バスタオルを体に巻き付け、恥ずかしそうにしながら、背中合わせに彼女は湯につかる。
「あの。今日はいろいろありましたけど、何から何までありがとうございました」
「えっ。ああ。大したことじゃないよ。困ったときはお互様だし」
「それでも、普通ここまで面倒見てくれるなんてこと、ないですよ」
「下心、あるかもね」
ロックはおどけて見せた。が、レイチェルは頭を振る。
「ロックさんがそんな人じゃないことくらい、わかりますよ」
「そ、そうかぁ?」
ロックはあさっての方を向きながら、人差し指で頬を掻く。照れ笑いを浮かべているのは一目瞭然だった。
風呂で汗を流したら、食堂もピークを過ぎたところだったようで、ようやく席が空いていた。
「女将さん。今日のおすすめは?」
「急なこの盛況でね。あんまり材料が残ってないんだけど……ボアのステーキとかどうだい? ポテトフライとかサラダも付けとくよ!」
「レイチェルはそれでいい?」
「はい」
「じゃあそれを二人前。あと、おすすめの葡萄酒ある?」
「赤でいいかい?」
「オッケー」
「じゃあ、そこのテーブルにどうぞ」
窓際の席に僕らは案内され、ほどなくして葡萄酒のボトルとグラスが二客、運ばれてきた。
「お待ちどうさま。メインディッシュが出てくるまで、これをアテにどうぞ。サービスよ」「ありがとう。だったら、白をグラスでもらえる?」
一皿に盛られたのはピクルスだった。ビネガーが程よく効いていて、素材の味もしっかり活きている一品だった。
さすがに赤でこれは重いので、白の葡萄酒を持ってきてもらった。二人はグラスを合わせ乾杯すると、メインディッシュが来るまでピクルスをつまみに、グラスを傾けた。
「ロックさんは故郷へって言ってましたけど、は里帰りなんですか?」
「うーん。まあ、なんというか。今まで冒険者、やってたんだけど。まあいろいろあってね。それなりにお金も稼いだし、生まれ育った家でのんびり過ごそうかなぁと。って、こんな感じでいい?」
「えっ? 冗談なんですか?」
「いや、ほんとだよ」
分かりづらい冗談だったけれど、レイチェルは素直に笑っていた。
「レイチェルは? 帰る家ないって言ってたけど……」
ほろ酔い気分でロックは何気なく聞いたのだが、レイチェルから笑みが消える。そして、小さなため息一つ。
「ここから北にある。ヴァータミンっていう街をご存じですか?」
「あー、王都からさらに北に一日歩いて行った先の町だよね? 僕も一、二度行ったことあるかな。鏡みたいなきれいな湖が近くにあるあの町だよね」
「そう、そこです……その町に、私は父と母と三人で暮らしてました」
悲壮感漂うレイチェルに。ロックは聞いちゃいけなかったかと思ったが、彼女は言葉をつづけた。
語りたくなければ、語らず濁すだろう。ロックは気持ちを切り替えて彼女の言葉に耳を傾けた。
「半月ほど前なんですけど。急に空が真っ暗になったことがありました。まあ、嵐でも来るのかな、って感じだったんですが……来たのは嵐ではなくて。モンスターの軍勢だったんです」
彼女の言葉を聞く限りこんな感じだった。
空一面を覆いつくすガーゴイル。地響きを立ててやってくるビッグボアを始めとしてオークやゴブリン。そしてオークたちを束ねる指揮官、オークキング。
魔物たちには何の目的があったのか、今となってはわからないのだが、とにかく、ヴァータミンの町は瓦礫の山となった。
魔物たちの反乱ともいえる出来事に、多くの人は逃げまどい。命を落としていった。
この日はたまたま王都に用事で出かけてて、レイチェルは助かったのだけれども、街にいた父と母はどうなったのか……。
けが人たちが収容された修道院など、レイチェルは探して回ったが、ついに両親の姿を見出すことはできなかった。
レイチェルは悲しみに打ちひしがれ。気力も無くしてしまっていたのだけれども、王都からボランティアで救助に来ていた人たちの説得もあり、南のオーランドの町に身寄りの無い人が集まって生活する施設があると紹介され、そこに向かっているところだった。おおよそ、そんな話である。
「ごめん。気軽に聞いていい話ではなかったね」
「ううん。いいんです。これまで誰にも話せなくて。ロックさんだから、話そうって思えたんですよ。聞いてもらえただけでも、少しは気持ちが晴れました。そりゃあ、もうお父さんとお母さんが帰ってくることはないけれど。でも、ずっとそれを抱え込んでも仕方ないですよね」
「そう、だね。気持ちを切り替えてかないと。でも、簡単にできることじゃない。レイチェルは得意なこととか、こんな仕事ならできるってあるの?」
「え、そうですね。私は家の手伝い以外で働いたことないんですよ」
「そうなの? っていうか、今いくつ?」
ロックは不意にレイチェルに問う。
「今年一六になりました」
ロックは吹き出し、むせ返った。道理で純粋すぎるわけだ。年も若い社会経験も乏しい。疑うことを知らない。
少し世間ずれしてるなとは思っていたけれど。まさかそこまで若いとは。
ロックはふと、先ほどのオーランドの件を思い出す。オーランドに身寄りの無い人を引き取る施設なんてあっただろうか……。いや、少なくとも、ロック自身は聞いたことはない。
ロックはオーランドにはもう一〇年も行っていないから確かなことは言えないけれども、そんな施設の存在を聞いた覚えが全くなかった。
孤児の子供を引き取る孤児院ならどの町にでも大なり小なりあるものだけれども、一六の少女を引き取る施設となると……レイチェルはもしかすると、モンスターに二度も襲われたのは不幸だったのかもしれないが、その二度目は実はとても幸運な出来事だったのかもしれない。
この事は彼女には言わないでおこう。ロックは言葉を飲み込んだ。
「ずいぶん苦労したんだね」
ロックは心底同情していた。彼女の境遇に。でも、今はレイチェルは悲観していない。前を向いて生きようとしているのは、十分にロックも感じ取っていた。
「あ、そうだ。得意なのは掃除、洗濯といった家事やお料理です。と言ってもレパートリーは多くないですが。パンを焼くのは得意ですよ!」
レイチェルは胸を張って言う。
「こう見えてもお父さんの手伝いで働いていたお母さんの代わりに、いつも掃除や洗濯。ご飯の用意してました!」
「そっか」
「ロックさんは奥さんとかいないんですか?」
不意のレイチェルの質問に。ロックはぶっきらぼうに「いないよ」と、答えた。
「そう、なんですね」
レイチェルはロックの答えに、どこか嬉しそうにつぶやいた。
二人の間に少しの沈黙。ちょうどその時にメインディッシュが運ばれてきた。
「お待ちどうさま。ボアのステーキだよ」
焼きたてのステーキは特別大判で、添えられたポテトやサラダも大盛りだ。それに、パンもバスケットに目いっぱい盛られている。
「今日の食堂はもう終わりだからさ、パンも好きなだけお食べ!」
「ありがとうございます」
レイチェルは素直に笑顔で言った。
ロックはグラスに抜栓しておいた葡萄酒の赤を注ぎ、テイスティング。香りも開きちょうど飲み頃だった。
「レイチェルは? どう?」
「あ、はい。少しだけ」
「お酒はあまり飲んだことない?」
「今年飲めるようになったばかりなので。あまり飲みすぎないようにしてます。初めて飲んだ時はお家で目が回ってました」
てへっ。っと悪戯っぽい笑みを浮かべて舌を出す。またそのしぐさがかわいらしかった。
「そうだね、無理に飲むことはないよ。飲みたくなったら遠慮なくどうぞ!」
ロックの言葉に、レイチェルはうれしそうに頷くのだった。
部屋に入ってから、なんだか気恥ずかしいような気まずい空気。どうにも居心地が悪いし、旅の途中さすがに同じ服ばかりというわけにもいかないだろう。
ロックは自分の剣や防具を外して部屋の隅に置くと、おもむろに口を開いた。
「なあ、レイチェル。ご飯までまだ時間があるし、ちょっと出かけようか」
「えっ? あ、はい」
ロックは女将に出かける旨を伝えると、レイチェルを連れて通りの先の商店街へと足を向けた。
「あの、何かあるんですか?」
「ん、まあね。ほら、ここだ」
ロックが彼女を連れてきたのは古着屋だった。
「あ、あのここは?」
「服屋だよ。失礼だけど、今着てる服しか、持ってないんだろ? 旅はもう少し続くから、せめて着替えを何着か持ってた方がいいでしょ」
「で、でも。助けてもらった上に、そこまでしてもらう理由なんてありませんよ」
確かにそうかもしれない。だが、着替えもままならないのではこの先の旅。ロックの故郷まで風呂にも入らないつもりだろうか。そんな状態では、何か仕事を探すのも大変だろう。
「施しってやつが嫌なら、貸しにしとく。仕事が見つかったら働いて返してくれればいい。それでどうだ?」
ロックの提案に、レイチェルは少し考えこんでいたが、それならば、とようやく首を縦に振った。
小一時間。
レイチェルが気に入った服を手にした時には、ロックはヘロヘロになっていた。最初は遠慮していたけれど、だんだんと楽しくなったのか、あれ、これと試着してみては、何度もロックに見せ、似合っているか問う。
結局お気に入りの服を三着。それから下着を数点(もちろん、何を買ったか、ロックは見ていないが)選んで宿に戻ってきた頃には、すっかりと夜の帳がおりていた。
食堂は大賑わいだった。座る席がなさそうだったので、二人は先にこの宿の大浴場へ向かうことにした。
ロックがこの宿を使うもう一つの理由である。そう、この大浴場は宿の建物の裏手にある半露天風呂だった。
大浴場は言うなれば社交場の一つ。当然であるが、こんな小さな村の風呂では男女が分かれているはずもなく、混浴なのだ。
ロックが湯につかっていると、その背後からそうっとやってきた女性がいた。レイチェルだった。
「えっ」
「こっち見ないでください」
バスタオルを体に巻き付け、恥ずかしそうにしながら、背中合わせに彼女は湯につかる。
「あの。今日はいろいろありましたけど、何から何までありがとうございました」
「えっ。ああ。大したことじゃないよ。困ったときはお互様だし」
「それでも、普通ここまで面倒見てくれるなんてこと、ないですよ」
「下心、あるかもね」
ロックはおどけて見せた。が、レイチェルは頭を振る。
「ロックさんがそんな人じゃないことくらい、わかりますよ」
「そ、そうかぁ?」
ロックはあさっての方を向きながら、人差し指で頬を掻く。照れ笑いを浮かべているのは一目瞭然だった。
風呂で汗を流したら、食堂もピークを過ぎたところだったようで、ようやく席が空いていた。
「女将さん。今日のおすすめは?」
「急なこの盛況でね。あんまり材料が残ってないんだけど……ボアのステーキとかどうだい? ポテトフライとかサラダも付けとくよ!」
「レイチェルはそれでいい?」
「はい」
「じゃあそれを二人前。あと、おすすめの葡萄酒ある?」
「赤でいいかい?」
「オッケー」
「じゃあ、そこのテーブルにどうぞ」
窓際の席に僕らは案内され、ほどなくして葡萄酒のボトルとグラスが二客、運ばれてきた。
「お待ちどうさま。メインディッシュが出てくるまで、これをアテにどうぞ。サービスよ」「ありがとう。だったら、白をグラスでもらえる?」
一皿に盛られたのはピクルスだった。ビネガーが程よく効いていて、素材の味もしっかり活きている一品だった。
さすがに赤でこれは重いので、白の葡萄酒を持ってきてもらった。二人はグラスを合わせ乾杯すると、メインディッシュが来るまでピクルスをつまみに、グラスを傾けた。
「ロックさんは故郷へって言ってましたけど、は里帰りなんですか?」
「うーん。まあ、なんというか。今まで冒険者、やってたんだけど。まあいろいろあってね。それなりにお金も稼いだし、生まれ育った家でのんびり過ごそうかなぁと。って、こんな感じでいい?」
「えっ? 冗談なんですか?」
「いや、ほんとだよ」
分かりづらい冗談だったけれど、レイチェルは素直に笑っていた。
「レイチェルは? 帰る家ないって言ってたけど……」
ほろ酔い気分でロックは何気なく聞いたのだが、レイチェルから笑みが消える。そして、小さなため息一つ。
「ここから北にある。ヴァータミンっていう街をご存じですか?」
「あー、王都からさらに北に一日歩いて行った先の町だよね? 僕も一、二度行ったことあるかな。鏡みたいなきれいな湖が近くにあるあの町だよね」
「そう、そこです……その町に、私は父と母と三人で暮らしてました」
悲壮感漂うレイチェルに。ロックは聞いちゃいけなかったかと思ったが、彼女は言葉をつづけた。
語りたくなければ、語らず濁すだろう。ロックは気持ちを切り替えて彼女の言葉に耳を傾けた。
「半月ほど前なんですけど。急に空が真っ暗になったことがありました。まあ、嵐でも来るのかな、って感じだったんですが……来たのは嵐ではなくて。モンスターの軍勢だったんです」
彼女の言葉を聞く限りこんな感じだった。
空一面を覆いつくすガーゴイル。地響きを立ててやってくるビッグボアを始めとしてオークやゴブリン。そしてオークたちを束ねる指揮官、オークキング。
魔物たちには何の目的があったのか、今となってはわからないのだが、とにかく、ヴァータミンの町は瓦礫の山となった。
魔物たちの反乱ともいえる出来事に、多くの人は逃げまどい。命を落としていった。
この日はたまたま王都に用事で出かけてて、レイチェルは助かったのだけれども、街にいた父と母はどうなったのか……。
けが人たちが収容された修道院など、レイチェルは探して回ったが、ついに両親の姿を見出すことはできなかった。
レイチェルは悲しみに打ちひしがれ。気力も無くしてしまっていたのだけれども、王都からボランティアで救助に来ていた人たちの説得もあり、南のオーランドの町に身寄りの無い人が集まって生活する施設があると紹介され、そこに向かっているところだった。おおよそ、そんな話である。
「ごめん。気軽に聞いていい話ではなかったね」
「ううん。いいんです。これまで誰にも話せなくて。ロックさんだから、話そうって思えたんですよ。聞いてもらえただけでも、少しは気持ちが晴れました。そりゃあ、もうお父さんとお母さんが帰ってくることはないけれど。でも、ずっとそれを抱え込んでも仕方ないですよね」
「そう、だね。気持ちを切り替えてかないと。でも、簡単にできることじゃない。レイチェルは得意なこととか、こんな仕事ならできるってあるの?」
「え、そうですね。私は家の手伝い以外で働いたことないんですよ」
「そうなの? っていうか、今いくつ?」
ロックは不意にレイチェルに問う。
「今年一六になりました」
ロックは吹き出し、むせ返った。道理で純粋すぎるわけだ。年も若い社会経験も乏しい。疑うことを知らない。
少し世間ずれしてるなとは思っていたけれど。まさかそこまで若いとは。
ロックはふと、先ほどのオーランドの件を思い出す。オーランドに身寄りの無い人を引き取る施設なんてあっただろうか……。いや、少なくとも、ロック自身は聞いたことはない。
ロックはオーランドにはもう一〇年も行っていないから確かなことは言えないけれども、そんな施設の存在を聞いた覚えが全くなかった。
孤児の子供を引き取る孤児院ならどの町にでも大なり小なりあるものだけれども、一六の少女を引き取る施設となると……レイチェルはもしかすると、モンスターに二度も襲われたのは不幸だったのかもしれないが、その二度目は実はとても幸運な出来事だったのかもしれない。
この事は彼女には言わないでおこう。ロックは言葉を飲み込んだ。
「ずいぶん苦労したんだね」
ロックは心底同情していた。彼女の境遇に。でも、今はレイチェルは悲観していない。前を向いて生きようとしているのは、十分にロックも感じ取っていた。
「あ、そうだ。得意なのは掃除、洗濯といった家事やお料理です。と言ってもレパートリーは多くないですが。パンを焼くのは得意ですよ!」
レイチェルは胸を張って言う。
「こう見えてもお父さんの手伝いで働いていたお母さんの代わりに、いつも掃除や洗濯。ご飯の用意してました!」
「そっか」
「ロックさんは奥さんとかいないんですか?」
不意のレイチェルの質問に。ロックはぶっきらぼうに「いないよ」と、答えた。
「そう、なんですね」
レイチェルはロックの答えに、どこか嬉しそうにつぶやいた。
二人の間に少しの沈黙。ちょうどその時にメインディッシュが運ばれてきた。
「お待ちどうさま。ボアのステーキだよ」
焼きたてのステーキは特別大判で、添えられたポテトやサラダも大盛りだ。それに、パンもバスケットに目いっぱい盛られている。
「今日の食堂はもう終わりだからさ、パンも好きなだけお食べ!」
「ありがとうございます」
レイチェルは素直に笑顔で言った。
ロックはグラスに抜栓しておいた葡萄酒の赤を注ぎ、テイスティング。香りも開きちょうど飲み頃だった。
「レイチェルは? どう?」
「あ、はい。少しだけ」
「お酒はあまり飲んだことない?」
「今年飲めるようになったばかりなので。あまり飲みすぎないようにしてます。初めて飲んだ時はお家で目が回ってました」
てへっ。っと悪戯っぽい笑みを浮かべて舌を出す。またそのしぐさがかわいらしかった。
「そうだね、無理に飲むことはないよ。飲みたくなったら遠慮なくどうぞ!」
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