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1限目 東条夏樹という生徒
#001 東条夏樹はいつも寝ている
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春ーーーそれは勉学に最も最適な季節。
暑くも寒くもない人間に適した春の気温は一切勉強の妨げにならず、学年も一つ上がり、科目や難しい問題も増え、新しい知識を吸収する楽しみばかりの素晴らしい季節だ。二年生になり受験を意識し出した生徒達の顔も幾分これからする俺の授業を楽しみにしているようにも見える。「読書の秋」のように二つ名をつけるとすれば、春はつまるところ「勉学の春」だと言えよう。
ーーーが、しかしだ。
なんだあいつー...。
窓際後方で一際目立つ栗色の髪を枕替わり組んだ両腕に乗せ、いやはや、授業開始5分も経たずに春の陽気にあてられてぐぅぐぅと寝てるあいつー。
他の生徒の邪魔にもならないし、授業の妨げにもならないから普段なら放っておくのだが...。
...。
...。
気になってしょうがない...ッ。
辛うじて平静を装い黒板に文字を羅列する手を止めないでいられているが、白昼堂々1限目から爆睡をかますあいつが気になってしょうがねぇーッ。
え、逆に皆さん気になんないの?なんであんな茶髪の不良が今年度第一回目の授業の開始5分で寝ているのにそんなキラキラした目を黒板に向けていられるの?
...いや、待て待て。忘れることなかれ教師甘野。俺はエリートじゃないか。そうか!皆、俺の授業が面白くてしょうがないからあの角っこのやつなんかに視線がいかないんだな!
ーーーいや、でも俺はいくんだよなぁ~ッ。
いやいやいや、ダメだぞ甘野。ここエリート進学校の教師として授業の進行を滞らせては。ひいては真面目に授業を受けているこの生徒達の未来を担っているんだ。授業中に寝るような不良にかまけている時間なんてーーー。
「ーーー俺の授業はそんなにつまらんか?東条夏樹」
気がついたら俺はやつの机の前に移動し、指示棒片手に話しかけていた。ほんの数秒して、眠い目を擦りつつそいつは気持ちよさそうに伸びをして俺の方を見る。
「ふぁーあ、むにゃむにゃ...。あれ?もう学校終わった~?」
まだ10分しか経っとらんわ...。
「いーや、まだ始まったばかりだ。...で、どういうつもりで俺の授業中に寝ているのか言い分はあるんだろうな?」
俺が腕を組み睨みつけながらそう言うも、東条はきざったらしく長い襟足を手で払い、その上教師に向かったウインク一つとばしつつ、
「いやいや、先生。俺、いつも寝てるから」
理由になってねぇよ...。
「というか、俺がこーんなぽかぽかした暖かい席で、寝ないわけなくね?」
知らねぇよ...ッ。
「...ともかくだ、授業は寝ないで真面目に受けろ。教科書を持ってきてないのなら貸してやる。いいな?」
クソッ、こいつにかまけて3分も時間をロスしてしまった。全30回の授業で進む範囲を組んだカリキュラムが初日から3分ズレちまったじゃないか。
俺は素早く教壇へと戻ると、再びチョークを握ったーーーのだが、
「ーーーなるほどな、いや、分かった。この席か。この席が悪いんだな?そうだな?」
東条は俺が黒板に数式を羅列するするやいなや再びうつ伏せ、夢の中へと旅立っていた。
「そうだー!窓際後方の睡眠にうってつけのこの場所が悪いっ!」
「よーし分かった」
「何が分かったのさ~。今更席替えするなんて、野暮なこと言わないよね~?平等なくじ引きで決めたんだから、さっ?」
「あー、もちろんだとも。だから俺はーーー」
連絡掲示用の教室の後ろの黒板で授業をしてやることにした。そしたらお前は必然的に一番前の席となるッ!どーだ参ったか!
「...えー、ふつうそこまでする~?」
「あんまり大人を舐めない方がいいぞ」
「というかさーーー」
そこまで言って、東条はさっきまでの飄々とした態度とは違いどこか憂いを帯びた視線で、
「別にどうでも良くない?俺の事くらい。放っとけばいいじゃん。実際、授業の邪魔してたわけじゃないし、将来どうなろうと俺の勝手ーーー」
「ーーーいーや、違うな。お前は髪も染めてるし、ピアスもあけてる。ネクタイもしてこないし授業中に寝るような不良だが...」
俺は真面目でエリートで、だからこそ学生時代はこいつみたいなそういうやつらとは極力絡まないようにしてきた。他の先生方もそうだ。東条の事を腫れ物のように避けている節がある。「不良」だと。
「ーーーだがな、お前は不良だがこの場にいる全員、俺の生徒だ。放っておく?そんなわけないだろ。俺は生徒達に真面目に授業を受けさせ成績を伸ばすためにここに立ってる。お前にも真面目に勉強させる。成績も伸ばす。それが俺の役目ってもんだ」
最後に俺はキョトンとした顔をした東条に言った。
「ーーーエリート教師、ナメんなよ?」
暑くも寒くもない人間に適した春の気温は一切勉強の妨げにならず、学年も一つ上がり、科目や難しい問題も増え、新しい知識を吸収する楽しみばかりの素晴らしい季節だ。二年生になり受験を意識し出した生徒達の顔も幾分これからする俺の授業を楽しみにしているようにも見える。「読書の秋」のように二つ名をつけるとすれば、春はつまるところ「勉学の春」だと言えよう。
ーーーが、しかしだ。
なんだあいつー...。
窓際後方で一際目立つ栗色の髪を枕替わり組んだ両腕に乗せ、いやはや、授業開始5分も経たずに春の陽気にあてられてぐぅぐぅと寝てるあいつー。
他の生徒の邪魔にもならないし、授業の妨げにもならないから普段なら放っておくのだが...。
...。
...。
気になってしょうがない...ッ。
辛うじて平静を装い黒板に文字を羅列する手を止めないでいられているが、白昼堂々1限目から爆睡をかますあいつが気になってしょうがねぇーッ。
え、逆に皆さん気になんないの?なんであんな茶髪の不良が今年度第一回目の授業の開始5分で寝ているのにそんなキラキラした目を黒板に向けていられるの?
...いや、待て待て。忘れることなかれ教師甘野。俺はエリートじゃないか。そうか!皆、俺の授業が面白くてしょうがないからあの角っこのやつなんかに視線がいかないんだな!
ーーーいや、でも俺はいくんだよなぁ~ッ。
いやいやいや、ダメだぞ甘野。ここエリート進学校の教師として授業の進行を滞らせては。ひいては真面目に授業を受けているこの生徒達の未来を担っているんだ。授業中に寝るような不良にかまけている時間なんてーーー。
「ーーー俺の授業はそんなにつまらんか?東条夏樹」
気がついたら俺はやつの机の前に移動し、指示棒片手に話しかけていた。ほんの数秒して、眠い目を擦りつつそいつは気持ちよさそうに伸びをして俺の方を見る。
「ふぁーあ、むにゃむにゃ...。あれ?もう学校終わった~?」
まだ10分しか経っとらんわ...。
「いーや、まだ始まったばかりだ。...で、どういうつもりで俺の授業中に寝ているのか言い分はあるんだろうな?」
俺が腕を組み睨みつけながらそう言うも、東条はきざったらしく長い襟足を手で払い、その上教師に向かったウインク一つとばしつつ、
「いやいや、先生。俺、いつも寝てるから」
理由になってねぇよ...。
「というか、俺がこーんなぽかぽかした暖かい席で、寝ないわけなくね?」
知らねぇよ...ッ。
「...ともかくだ、授業は寝ないで真面目に受けろ。教科書を持ってきてないのなら貸してやる。いいな?」
クソッ、こいつにかまけて3分も時間をロスしてしまった。全30回の授業で進む範囲を組んだカリキュラムが初日から3分ズレちまったじゃないか。
俺は素早く教壇へと戻ると、再びチョークを握ったーーーのだが、
「ーーーなるほどな、いや、分かった。この席か。この席が悪いんだな?そうだな?」
東条は俺が黒板に数式を羅列するするやいなや再びうつ伏せ、夢の中へと旅立っていた。
「そうだー!窓際後方の睡眠にうってつけのこの場所が悪いっ!」
「よーし分かった」
「何が分かったのさ~。今更席替えするなんて、野暮なこと言わないよね~?平等なくじ引きで決めたんだから、さっ?」
「あー、もちろんだとも。だから俺はーーー」
連絡掲示用の教室の後ろの黒板で授業をしてやることにした。そしたらお前は必然的に一番前の席となるッ!どーだ参ったか!
「...えー、ふつうそこまでする~?」
「あんまり大人を舐めない方がいいぞ」
「というかさーーー」
そこまで言って、東条はさっきまでの飄々とした態度とは違いどこか憂いを帯びた視線で、
「別にどうでも良くない?俺の事くらい。放っとけばいいじゃん。実際、授業の邪魔してたわけじゃないし、将来どうなろうと俺の勝手ーーー」
「ーーーいーや、違うな。お前は髪も染めてるし、ピアスもあけてる。ネクタイもしてこないし授業中に寝るような不良だが...」
俺は真面目でエリートで、だからこそ学生時代はこいつみたいなそういうやつらとは極力絡まないようにしてきた。他の先生方もそうだ。東条の事を腫れ物のように避けている節がある。「不良」だと。
「ーーーだがな、お前は不良だがこの場にいる全員、俺の生徒だ。放っておく?そんなわけないだろ。俺は生徒達に真面目に授業を受けさせ成績を伸ばすためにここに立ってる。お前にも真面目に勉強させる。成績も伸ばす。それが俺の役目ってもんだ」
最後に俺はキョトンとした顔をした東条に言った。
「ーーーエリート教師、ナメんなよ?」
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