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そして……
エピローグ 永遠の宝物
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朝はギャグのような目玉焼きの大群を見て仰天してしまい、折角の機会をフイにしてしまった。食べきれなかった分は勿体ないので、未空宅と寿哉宅の冷蔵庫に半分ずつ保管されてある。
未空は騒動などどこ吹く風であり、マイペースを保っている。
「天気がいいから、外に走りにでも行かない?」
しかしながら、一度高まった気持ちはそう簡単に抑えることが出来ない。燃え上がった炎は、バケツの水一杯で衰勢にならないのだ。
……もう、ここしかない。
時間が経てば、未空ワールドに飲み込まれて確固たる意志を揺さぶられる。それに想いは気付いてすぐが一番勢いが強く、後になるにつれ体が慣れて弱くなる。
昨日の夜に思いとどまった原因である、未空への好意。その心配要素が消え去った今なら、がっちりと受け止められる自信がある。
覚悟は、決まっていた。片側からOKが出ている状況での告白に緊張があるものかとやじられそうだが、時というものは人の心を変える。どこかで失望されていたら……。そんな不安が残っているあたり、自信の持てなさがよく分かる。
朝に洗顔したばかりだが、念には念を入れて冷水で思考を洗練させた。水道は山の湧き水を殺菌したものを通しているので、春は雪解け水が混じり非常に冷たい。この水で水風呂などを作ろうものなら、ショック死してしまうことだろう。目を覚ますには持ってこいだ。
洗面所を出ると、薄ピンクのワンピースを着た親愛なる幼馴染の姿が見えた。自分に自信を持てたおかげなのか、いつもより背中が小さく見えた。
玄関付近で入念に準備体操をしている未空を、呼び止める。
「……未空、ちょっと時間くれないか」
「どうしたの、走るのが嫌って言っても無理やり走らせるよー」
何というスパルタ教育なのだろう。持久走のタイムが一緒である仲間が欲しいからなのだろうが、これは拒否したら力づくで連れていかれるやつである。
……ランニングデート……。
変な考えが頭に一秒浮かんだが、慌てて駆けつけた理性によって排除された。
全力疾走する短距離に比べて、長距離の方がペースは落ちる。だがそれは話せる余裕があるという意味ではなく、体力を限界まで使い切るために下げると言った方が正しい。
一たび走ってしまえば、人の言っていることなど聞こえなくなる。慣れないことにチャレンジするのは避けるのが賢明だ。
いつもは腕を掴まれて引っ張られていくだけの寿哉は、未空の手を掴んだ。
「……昨日の返事がしたいんだ」
夜まで待ちきれなかった、というのは本音だ。好きになってしまった人を横にしてこれから半日過ごせというのは、悶々として仕方がない。
緩慢な動きで、未空が振り返った。新鮮なスポーツ少女の空気は消え、恋する少女の姿が現れた。
「……ずっと、待ってたよ。寿哉がどんな決断をしても、大丈夫だから」
強固に意地を張っているが、内心は台風が何度も通過したことだろう。『返事をくれなかったらどうしよう』『縁が切れたらどうしよう』と、ネガティブな気持ちが切れ目なく浮かんでいたのかもしれない。
告白をしたままで過ごす日々というのは、かけている眼鏡の色が変わってしまっているに違いない。寿哉も、未空を幼馴染という気楽に接せる一括りではなく、恋愛感情を持った一人の女の子として見えるようになった。決定権を手元に持っている自身がそうなのだから、彼女はもっとどう話しかけていいのか分からなかっただろう。
繋いでいる手のひらが、じんわりと温かい。どちらかが冷たいということはなく、血管同士が結合されているようだ。血流が行き届きにくいのが手や足などの末梢部であるが、心臓が元気よくポンプの役目を果たしてくれているということだ。
「……未空は、俺のことが好きだって言ってくれてたよな。あれから今まで、ずっと未空のことが頭から離れなかった」
好感度パラメータが可視化されていたとすれば、きっと二人の頭の上には『100』という数字が浮かび上がっていることだろう。単位はパーセントだ。
エプロンをして試行錯誤を繰り返し、我流の切り方を編み出す。マッチ箱を反対に使って、入っていたマッチ棒を全て折ってしまう。完成された目玉焼きの裏で、とても食べきれない失敗作を量産する。全て、未空がしでかしたことだ。
その後始末をしていたのは、寿哉。トンチンカンな考え方で物事を進めようとするクラス委員長を補佐するのは中々に骨が折れる仕事だったが、後悔はしていない。共同で何かしている、という感覚が嬉しかったのだ。
頭から追い出そうとしても、消すことが出来ない。そこまでに、未空のことで満たされていた。四六時中彼女が隣に立っているようで、気が抜けなかった。
モデルになってもらってデッサンをしたことは無かったので、じっくりと隅々まで顔を見つめるということ自体が初めてのことだった。無理矢理意識しようとしていなかっただけかもしれないが、理由などどうでもいい。面と合わせて見た未空の満面の笑みは、忘れられなくなるほどの大人っぽさが含まれていた。
新高校生は、広義でいうと子供に入る。公共料金や施設使用料は大人に準ずる場所が多くなるものの、法律上は未成年。まだ精神が成熟し切っていないという判断だ。
それならば、未空も子供なのか。一般に言われる中高生の特徴と、合致しているのか。
休み時間に雑談をしたり山をくまなく歩き通すわんぱく度合いは、間違いなく子供。現状を変える意見を次々と出し、物事を創造していく柔軟な思考は、大人になって生き抜くために必要な力。半分ずつ、混ざっている。
……しっかりしているお姉ちゃんで、でも遊んでる時は親友で。未空の姿を知ってるのが自分しかいないことに、特別を感じてた。
学校で接している友達には、あくまでクラスのまとめ役という役割を反映させたあり方で話していた。純粋な友達として遊んでいるのは寿哉の時だけなんだと、小さな誇りを胸に抱いて生きてきたのだ。
かけがえのない、特別な存在。大金を払っても、幼少期から付き合って来た記憶を買うことは出来ない。未空は、唯一無二の幼馴染であった。
「正直、幼馴染を好きになっていいのか不安になった」
もったいぶりたいのではなく、伝えておきたいことが流れる水のようにすらすら出てくるのだ。水門が開放されて、行き場の無かった未空への感情が流れ出して止まらない。
……昔からの友達だと、愛してるなんて言いづらい。
よく知っている仲だからこそ、恋人の関係には発展しづらい。友情が心の半分以上を占めていて、簡単に恋愛感情が芽生えない。
ましてや、姉弟のような間柄の二人である。好きだと気づいても、告白するのにはどれだけの勇気が必要だったのだろうか。量りでは計測し切れない程膨大だったのかもしれない。
「……でも、もう分かったよ」
他人の目を気にしては、気持ちに正直に生きることができない。相手に何を言われるかを怖がっている時間があるのなら、当たって砕けろでぶつかってみる方が早いのだ。
未空を幸せにしてあげよう、などと上から目線で考えていたのが間違いだった。幸せに『してやる』のではなく、幸せに『なる』。一人では手の届かないところにも、肩車をすれば届く。二人で力を合わせることは、単純な一足す一の計算よりも大きなエネルギーになる。
……好きになるのに、理由なんかいらないんだ。
真理に一日気付くのが遅ければ、自分に自信が持てないと断ったかもしれない。向こう側から渡そうとしてくれた赤い糸を、ハサミでちょん切ってしまうところだった。
声に出したいものは定まっているのに、喉より先に出てこない。途轍もない緊張感で、吐き気もする。首を真綿で締められているように、息が苦しくなる。
人を好きになるだけで、これだけの感情が渦巻くのか。漫画ではサラリとしか表現されていないものも、現実では長い葛藤があったのかと、今更ながらに思う。
引き返すための道は、塞がれていた。落石や土砂崩れなどの自然災害ではなく、未空が門のカギを閉じてしまっていた。
最初から、元通りにするという選択肢は無かったのだ。未空の告白を受けた時点で、均衡のとれた関係性を保つことは不可能になっていたということだ。
……未空は、相手がどう思ってるかも分からないまま想いを伝えたんだよな……。
寿哉のこの状況と、昨晩の状況は天と地ほど違う。
未空には、寿哉が引いて却下されてしまうという未来を否定する材料が無かった。このまま穏便に事を収めれば、高校生活も一定の交流が望める。ことなかれ主義を吹き込もうとする心が吹き荒れていたことだろう。
だが、彼女は想いを伝えた。引いていては何も始まらないと、震えながら未開拓地域へ一歩踏み出したのだ。
……俺は、未空が……。
面倒見がよく、困っている人を放っておけないお姉さんタイプ。かと思えば、戦友としてお互いに突っ込んだ話が出来る幼馴染。腐れ縁でもなんでもいい、寿哉と未空は長年の友なのである。
未空に、ついていきたい。そう思った時から、もしかすると秘められた恋心を持っていたのかもしれない。
「俺も、未空のことが好きだ。これからも、よろしくな」
顔から火が噴き出そうだった。心臓が破裂するのではないかと思った。そしてなにより、やっと自分が探し求めていた答えが見つかり、安堵していた。
ほほを赤らめて照れ隠しをしている未空は、この世で一番守りたい宝物になった。
----------
『未来へと続くスタートラインに立って』
小さい頃から付き合っていた、同級生の幼馴染がいた。
その子は活発な子で、よく野山にも連れていかれたものだった。
ケガをしたときは、泣きじゃくる自分を慰めながら絆創膏を貼ってくれた。
あの子が姉で、自分が弟。そんな関係だった。
秘境と言われるようなところに住んでいて、子供は二人だけ。
毎日疲れ果てるまで遊んで、どんどん仲良くなっていった。
月日は流れて、もう今は高校生。
相変わらず、すっかり親友になった幼馴染とじゃれ合っていた。
一生このままの関係でいたいと思ったけれど、無理な願いだということは分かっていた。
高校に入ってしまえば、繋がりが希薄になってしまうかもしれない。
それが、怖かった。
集落から出ていく二日前、その長い付き合いの子の家に泊まることになった。
思い出作りをしようと言われて、少し嬉しかった。
その子は料理下手で、カレーは一緒に作ってあげた。
初めて上手く料理を作れたことに、その子は感激していた。
外で花火をしたときには、浴衣姿に変身していたのについ目が行ってしまった。
そして、布団の中で発せられたあの一言。
『好きだよ』
どうしていいか、分からなかった。
自分が幸せにしてあげられるのかが心配だった。
幼馴染を好きになっていいのか、判断できなかった。
でも、その子をじっと見ている内に、心にあったわだかまりは解けた。
パートナーとしてついていく自信が生まれた。
幸せは、一緒に作っていくものだと気づいた。
想いを受け取った時のあの子の照れ笑いは、二度と忘れることは無い。
いよいよ今日は、出立の日だ。
古くからの幼馴染は、親友から恋人に変わった。
未来に何が起こるかは、誰も予知できない。
だから、今日を精一杯生きていこう。
あの子と、精一杯楽しんでいこう。
道は、努力する者の前に拓かれる。
輝かしい未来に向かって、全力前進。
幸福溢れる将来が、開けていますように。
野間 寿哉
――――――Fin.
未空は騒動などどこ吹く風であり、マイペースを保っている。
「天気がいいから、外に走りにでも行かない?」
しかしながら、一度高まった気持ちはそう簡単に抑えることが出来ない。燃え上がった炎は、バケツの水一杯で衰勢にならないのだ。
……もう、ここしかない。
時間が経てば、未空ワールドに飲み込まれて確固たる意志を揺さぶられる。それに想いは気付いてすぐが一番勢いが強く、後になるにつれ体が慣れて弱くなる。
昨日の夜に思いとどまった原因である、未空への好意。その心配要素が消え去った今なら、がっちりと受け止められる自信がある。
覚悟は、決まっていた。片側からOKが出ている状況での告白に緊張があるものかとやじられそうだが、時というものは人の心を変える。どこかで失望されていたら……。そんな不安が残っているあたり、自信の持てなさがよく分かる。
朝に洗顔したばかりだが、念には念を入れて冷水で思考を洗練させた。水道は山の湧き水を殺菌したものを通しているので、春は雪解け水が混じり非常に冷たい。この水で水風呂などを作ろうものなら、ショック死してしまうことだろう。目を覚ますには持ってこいだ。
洗面所を出ると、薄ピンクのワンピースを着た親愛なる幼馴染の姿が見えた。自分に自信を持てたおかげなのか、いつもより背中が小さく見えた。
玄関付近で入念に準備体操をしている未空を、呼び止める。
「……未空、ちょっと時間くれないか」
「どうしたの、走るのが嫌って言っても無理やり走らせるよー」
何というスパルタ教育なのだろう。持久走のタイムが一緒である仲間が欲しいからなのだろうが、これは拒否したら力づくで連れていかれるやつである。
……ランニングデート……。
変な考えが頭に一秒浮かんだが、慌てて駆けつけた理性によって排除された。
全力疾走する短距離に比べて、長距離の方がペースは落ちる。だがそれは話せる余裕があるという意味ではなく、体力を限界まで使い切るために下げると言った方が正しい。
一たび走ってしまえば、人の言っていることなど聞こえなくなる。慣れないことにチャレンジするのは避けるのが賢明だ。
いつもは腕を掴まれて引っ張られていくだけの寿哉は、未空の手を掴んだ。
「……昨日の返事がしたいんだ」
夜まで待ちきれなかった、というのは本音だ。好きになってしまった人を横にしてこれから半日過ごせというのは、悶々として仕方がない。
緩慢な動きで、未空が振り返った。新鮮なスポーツ少女の空気は消え、恋する少女の姿が現れた。
「……ずっと、待ってたよ。寿哉がどんな決断をしても、大丈夫だから」
強固に意地を張っているが、内心は台風が何度も通過したことだろう。『返事をくれなかったらどうしよう』『縁が切れたらどうしよう』と、ネガティブな気持ちが切れ目なく浮かんでいたのかもしれない。
告白をしたままで過ごす日々というのは、かけている眼鏡の色が変わってしまっているに違いない。寿哉も、未空を幼馴染という気楽に接せる一括りではなく、恋愛感情を持った一人の女の子として見えるようになった。決定権を手元に持っている自身がそうなのだから、彼女はもっとどう話しかけていいのか分からなかっただろう。
繋いでいる手のひらが、じんわりと温かい。どちらかが冷たいということはなく、血管同士が結合されているようだ。血流が行き届きにくいのが手や足などの末梢部であるが、心臓が元気よくポンプの役目を果たしてくれているということだ。
「……未空は、俺のことが好きだって言ってくれてたよな。あれから今まで、ずっと未空のことが頭から離れなかった」
好感度パラメータが可視化されていたとすれば、きっと二人の頭の上には『100』という数字が浮かび上がっていることだろう。単位はパーセントだ。
エプロンをして試行錯誤を繰り返し、我流の切り方を編み出す。マッチ箱を反対に使って、入っていたマッチ棒を全て折ってしまう。完成された目玉焼きの裏で、とても食べきれない失敗作を量産する。全て、未空がしでかしたことだ。
その後始末をしていたのは、寿哉。トンチンカンな考え方で物事を進めようとするクラス委員長を補佐するのは中々に骨が折れる仕事だったが、後悔はしていない。共同で何かしている、という感覚が嬉しかったのだ。
頭から追い出そうとしても、消すことが出来ない。そこまでに、未空のことで満たされていた。四六時中彼女が隣に立っているようで、気が抜けなかった。
モデルになってもらってデッサンをしたことは無かったので、じっくりと隅々まで顔を見つめるということ自体が初めてのことだった。無理矢理意識しようとしていなかっただけかもしれないが、理由などどうでもいい。面と合わせて見た未空の満面の笑みは、忘れられなくなるほどの大人っぽさが含まれていた。
新高校生は、広義でいうと子供に入る。公共料金や施設使用料は大人に準ずる場所が多くなるものの、法律上は未成年。まだ精神が成熟し切っていないという判断だ。
それならば、未空も子供なのか。一般に言われる中高生の特徴と、合致しているのか。
休み時間に雑談をしたり山をくまなく歩き通すわんぱく度合いは、間違いなく子供。現状を変える意見を次々と出し、物事を創造していく柔軟な思考は、大人になって生き抜くために必要な力。半分ずつ、混ざっている。
……しっかりしているお姉ちゃんで、でも遊んでる時は親友で。未空の姿を知ってるのが自分しかいないことに、特別を感じてた。
学校で接している友達には、あくまでクラスのまとめ役という役割を反映させたあり方で話していた。純粋な友達として遊んでいるのは寿哉の時だけなんだと、小さな誇りを胸に抱いて生きてきたのだ。
かけがえのない、特別な存在。大金を払っても、幼少期から付き合って来た記憶を買うことは出来ない。未空は、唯一無二の幼馴染であった。
「正直、幼馴染を好きになっていいのか不安になった」
もったいぶりたいのではなく、伝えておきたいことが流れる水のようにすらすら出てくるのだ。水門が開放されて、行き場の無かった未空への感情が流れ出して止まらない。
……昔からの友達だと、愛してるなんて言いづらい。
よく知っている仲だからこそ、恋人の関係には発展しづらい。友情が心の半分以上を占めていて、簡単に恋愛感情が芽生えない。
ましてや、姉弟のような間柄の二人である。好きだと気づいても、告白するのにはどれだけの勇気が必要だったのだろうか。量りでは計測し切れない程膨大だったのかもしれない。
「……でも、もう分かったよ」
他人の目を気にしては、気持ちに正直に生きることができない。相手に何を言われるかを怖がっている時間があるのなら、当たって砕けろでぶつかってみる方が早いのだ。
未空を幸せにしてあげよう、などと上から目線で考えていたのが間違いだった。幸せに『してやる』のではなく、幸せに『なる』。一人では手の届かないところにも、肩車をすれば届く。二人で力を合わせることは、単純な一足す一の計算よりも大きなエネルギーになる。
……好きになるのに、理由なんかいらないんだ。
真理に一日気付くのが遅ければ、自分に自信が持てないと断ったかもしれない。向こう側から渡そうとしてくれた赤い糸を、ハサミでちょん切ってしまうところだった。
声に出したいものは定まっているのに、喉より先に出てこない。途轍もない緊張感で、吐き気もする。首を真綿で締められているように、息が苦しくなる。
人を好きになるだけで、これだけの感情が渦巻くのか。漫画ではサラリとしか表現されていないものも、現実では長い葛藤があったのかと、今更ながらに思う。
引き返すための道は、塞がれていた。落石や土砂崩れなどの自然災害ではなく、未空が門のカギを閉じてしまっていた。
最初から、元通りにするという選択肢は無かったのだ。未空の告白を受けた時点で、均衡のとれた関係性を保つことは不可能になっていたということだ。
……未空は、相手がどう思ってるかも分からないまま想いを伝えたんだよな……。
寿哉のこの状況と、昨晩の状況は天と地ほど違う。
未空には、寿哉が引いて却下されてしまうという未来を否定する材料が無かった。このまま穏便に事を収めれば、高校生活も一定の交流が望める。ことなかれ主義を吹き込もうとする心が吹き荒れていたことだろう。
だが、彼女は想いを伝えた。引いていては何も始まらないと、震えながら未開拓地域へ一歩踏み出したのだ。
……俺は、未空が……。
面倒見がよく、困っている人を放っておけないお姉さんタイプ。かと思えば、戦友としてお互いに突っ込んだ話が出来る幼馴染。腐れ縁でもなんでもいい、寿哉と未空は長年の友なのである。
未空に、ついていきたい。そう思った時から、もしかすると秘められた恋心を持っていたのかもしれない。
「俺も、未空のことが好きだ。これからも、よろしくな」
顔から火が噴き出そうだった。心臓が破裂するのではないかと思った。そしてなにより、やっと自分が探し求めていた答えが見つかり、安堵していた。
ほほを赤らめて照れ隠しをしている未空は、この世で一番守りたい宝物になった。
----------
『未来へと続くスタートラインに立って』
小さい頃から付き合っていた、同級生の幼馴染がいた。
その子は活発な子で、よく野山にも連れていかれたものだった。
ケガをしたときは、泣きじゃくる自分を慰めながら絆創膏を貼ってくれた。
あの子が姉で、自分が弟。そんな関係だった。
秘境と言われるようなところに住んでいて、子供は二人だけ。
毎日疲れ果てるまで遊んで、どんどん仲良くなっていった。
月日は流れて、もう今は高校生。
相変わらず、すっかり親友になった幼馴染とじゃれ合っていた。
一生このままの関係でいたいと思ったけれど、無理な願いだということは分かっていた。
高校に入ってしまえば、繋がりが希薄になってしまうかもしれない。
それが、怖かった。
集落から出ていく二日前、その長い付き合いの子の家に泊まることになった。
思い出作りをしようと言われて、少し嬉しかった。
その子は料理下手で、カレーは一緒に作ってあげた。
初めて上手く料理を作れたことに、その子は感激していた。
外で花火をしたときには、浴衣姿に変身していたのについ目が行ってしまった。
そして、布団の中で発せられたあの一言。
『好きだよ』
どうしていいか、分からなかった。
自分が幸せにしてあげられるのかが心配だった。
幼馴染を好きになっていいのか、判断できなかった。
でも、その子をじっと見ている内に、心にあったわだかまりは解けた。
パートナーとしてついていく自信が生まれた。
幸せは、一緒に作っていくものだと気づいた。
想いを受け取った時のあの子の照れ笑いは、二度と忘れることは無い。
いよいよ今日は、出立の日だ。
古くからの幼馴染は、親友から恋人に変わった。
未来に何が起こるかは、誰も予知できない。
だから、今日を精一杯生きていこう。
あの子と、精一杯楽しんでいこう。
道は、努力する者の前に拓かれる。
輝かしい未来に向かって、全力前進。
幸福溢れる将来が、開けていますように。
野間 寿哉
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