【高校生×OL】スターマインを咲かせて

紅茶風味

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2話-4

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 土曜日の朝十時。駅前には行き交う人々が多く、平日とは違ってゆったりとした空気が流れている。いつもある制服姿は、当然どこにもない。学校のある方角をぼんやりと見ながら、ただ時間が過ぎるのを待った。

 時計を見ると、十時から五分ほどが過ぎていた。やっぱり駄目だったか、とそっと肩を落とす。

 昨日、お迎えの時間になると、いつものように宮丘さんが学童へ来た。彼女はいつも十八時をちょっと過ぎた頃に来るので、その時に他の用事に手を取られないよう、身構えていた。そのおかげか、引き渡しの対応をすることができた。

 予め書いておいた手紙を、さも学童からのお知らせかのように渡した。読まずに親へ渡されては困るので、宮丘さん宛てであることを念押ししておいた。職員の目もあるので、あの場で話さずにそうするのが一番良い策だと思ったのだが、渡してから今日までずっと、不安で仕方が無かった。

 はっきり言って不審だ。学童でバイトをしてる人間から突然手紙を渡されて、児童のことかと思えば個人的な内容で、兄の引っ越しの人手が足りないから助けてほしいなどと書かれていたら、普通は怪しむ。

 万が一に受け入れてくれたとしても、昨日の今日では予定も空いていないかもしれない。

 しばらく待ち、小さく息を吐く。諦めよう。兄も家で待っているのだし、さっさと行ってしまおう。彼女には来週謝って、また別の方法を考えればいい。

 そう思って振り向き、一歩踏み出したところで固まった。すぐ目の前に宮丘さんがいた。少しだけ驚いたように目を丸め、俺を見上げている。嘘だろ、きたよ、この人。

「あ、篠原くんだ」

 丸い瞳が、安心したようにゆっくりと細められる。

「服装、いつもと違いますね。後ろ姿じゃ分からなかった」

 なんでもないように話す様子に呆気にとられた。自分で手紙を渡しておいてなんだが、怪しいと思わなかったのだろうか。

「あの、怒ってます? お待たせしてすみません……」
「え、いや、怒ってないです」
「よかった」
「……ていうか」

 なにをそんな普通に話しているのだろう。あの手紙はどういうことだ、と言及してきてもおかしくないものを。

 いつもはスカートを履いているのに、わざわざ動きやすいようにズボンを選んだのも、髪をきちんと纏め上げてきているのも、引っ越しの手伝いという突然の要求に答えるためなのか。

「あの手紙、信じたのかよ……」
「えっ、嘘ですか!?」
「……嘘じゃないです」
「なんだ、びっくりした……」

 じわじわと心の中に暖かいものが広がっていく。この人、すごく良い人かもしれない。あの純粋な反応を見た時から分かっていたけれど、想像以上だった。

「じゃあ、お兄さんの家に行きましょう」
「あ、はい」

 促されて歩き出すと、黙って隣をついてくる。その姿に危うさを感じて、つい不安感が生まれてしまう。

「ああいう手紙、簡単に信じたら駄目ですよ」
「渡した本人がなに言ってるんですか……」

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