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2話-3
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「篠原、どした」
「……なにが」
「顔がやばい。イケメンがブサイクになってる」
昼休みの教室はいつも通りで、小木が低いテンションで話しかけてくるのもいつも通りだ。この学校での生活は、いつまで経っても何一つ変わらない。
「もしかして振られたの?」
「おい、その話題はほっとけって言っただろ」
「一週間くらい我慢したじゃん」
「三日しか経ってねぇよ……」
二人の会話を、どこか他人事のように聞いた。どうやら福本は、気を利かせて小木にあまり触れないように制していたらしい。本気なんだろ、と言っていた言葉を思い出す。
結局連絡先は聞けず、あれから二日が経った。なんとか話しかけられないかと試みるも、あのお迎えの時間だけでは雑談すらままならないし、他の職員が対応してしまえば会話も無い日だってある。
このままではあっという間に代理の期間が終わってしまう。そう思うと心ばかりが焦り、ただ日が経つばかりだ。
「で、振られたのか?」
「お前……、自分で小木のこと咎めておいてそれかよ」
「だって気になるだろ。ずっと思いつめた顔してるし」
そんな顔に出ていたのか。全然気づかなかった。そういえば家にいる時も父親が気にしていたが、いつもの調子で大げさに言っているだけだと思っていた。
「振られてないし、告白もしてない」
雑に言うと、二人が顔を見合わせ、揃って俺を見る。
「なんか意外だな。勢いで言っちまいそうなのに」
「うんうん。その場の勢いで言っちゃいそう」
なんだか失礼な言い方だが、つい先日、似たようなことをしたので反論できない。
「お前らはどうやって付き合うことになったの」
聞くと、途端に福本が顔を逸らした。自分の苦手な話題になったからだろう。大して小木はといえば、「えー」と変わらず低いトーンのまま言う。
「べつに、どうもこうもないよ。普通に仲良くなって、そろそろ付き合うかぁ、って感じ」
「きっかけとかは」
「無いよ。ドラマじゃあるまいし。学校来てれば、会いたくなくたって毎日会うんだからさ」
たしかにそうだ。参考になればと思って聞いてみたが、お互いの関係性が全然違うのだから参考にしようもない。学校のように毎日長時間と言わずとも、せめてゆっくり話ができる日が一度でもあれば違うだろう。悠希を送って行ったあの日のように。
「まぁ、焦ってもしょうがないじゃん。それより私のキャラ弁を見てくれ」
「そろそろおっさん以外のキャラを作れよ……」
再び話し出す二人の会話をよそに、紙パックのジュースに手を伸ばした。あまり恋人同士という関係には見えないが、慣れ親しんだやりとりを見ていると、少し羨ましくなってくる。前はこんなふうに感じることなんてなかった。誰かとこういう関係になりたいだなんて思ったのは初めてだ。
ふと、ポケットの中で携帯が震えた。取り出して見れば、そこには『淳平』の文字があった。
『土曜暇?』
たったそれだけのメッセージが送られ、しばらく待つと、案の定続きがくる。
『もし時間空いてたら、荷造り手伝って』
荷造りとは、引っ越しのことだろう。随分前から家を探していて、ようやく希望の場所を見つけたのが一か月ほど前だ。受験生に暇かどうか聞くのもどうなのだと思うが、追い込んで勉強をする必要もないので、まぁ、暇と言えば暇だ。
『昼おごる』
ぽこぽこと短い文章が送られ、止まったタイミングで『いいよ』と返した。
『お前だけでいいからな』
『父さん連れてくるなよ』
後から思い出したのか、念押しのように続く言葉を呆れて見た。父に言えば、はしゃぎながら手伝いを買って出るだろうし、それが煩わしい気持ちもわかる。その一方で、一緒に暮している自分としては、たまには相手をしてやればいいのに、とも思うのだ。
「篠原、それ彼女?」
「兄貴」
「なんだぁ、ブラコンかぁ」
その言い草も気に入らないが、彼女ってなんだ。もしかして宮丘さんのことか。小木の言動にいちいち突っ込みを入れていたらキリがないが、彼女ではない。
「……あ」
そうだ、と頭の中に閃いた。俺の声に、え、と二人が視線を向ける。
「なに?」
「お前、いいこと言った」
「ブラコン?」
しまいかけていた携帯を再び見つめ、文字を打ち込む。
『友達一緒でもいい?』
『暇だし、手伝いたいって』
送るとすぐに返事がきた。
『いいけど、誰?』
少し迷い、再び送る。
『学校の男友達』
こうでも言わないと、あの兄の性格では断られる可能性が高い。『分かった』とだけ返事がきた。あとは本人に声をかけるだけだ。そっちが断られることも十分あり得るが、そこは食い下がって押し切るしかない。他に、誘う口実など無いのだから。
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