【高校生×OL】スターマインを咲かせて

紅茶風味

文字の大きさ
14 / 25

4話-2

しおりを挟む

***

「なんで避けられてるのか分かんねぇ、っていう相談?」

 昼休み、空いていた移動教室へ強引に福本を連れて入った。教室では他の生徒もいるし、小木に見つかるかもしれない。

「ていうか、どうしたら解決するんだっていう相談」
「お前が俺に相談ねぇ……」

 しかも、恋愛の。と恥ずかしいことを言いながら携帯画面に指を滑らせる。

「小木に言うなよ」
「言わねぇよ、今日は一緒に食えないって伝えてんの」
「すみません」
「らしくねぇこと言うな」

 ただ謝っただけなのに、らしくないと言われてしまった。こういうことなのかもしれない。

「俺ってやっぱ感じ悪いの?」
「まぁ、お前の性格分かってないやつからしたら、誤解するのことはあると思う。俺もそうだったし」
「そんな嫌なこと言ったのかな……」
「謝っちまえばいいだろ」
「謝ったよ」

 直接謝ったし、携帯にメッセージも何度か送っている。完全に無視されているわけではなく、大丈夫、とか、気にしないで、などと当り障りのない言葉は返ってくるが、あの態度は変わらずだ。

「つうか、避けられてたら仕事にならなそうだな」
「お迎えの数分だけだから、それはべつに」
「……は?」
「え?」
「お迎え?」
「子供の迎えに来た時だけ」

 福本が驚いたような顔で固まった。訳がわからず、まぁいいかと、コンビニの袋に手を伸ばす。

「お前、それ、不倫……!」
「いや、違う」
「付き合ったら不倫だろ! 引き返せ!」

 必死な形相で言う姿に、なるほど、と納得した。バイト先の人、としか伝えていなかったから、相手は職員だと思っていたのだろう。それが保護者だとなれば、自然とそういう思考になる。

 ただ、一時的にお迎えを代行している人だ。そう伝えると、冷静さを取り戻した目が何故か俺を咎めるように見た。

「早く言えよ」
「勝手に勘違いしたんだろ」

 紙パックのジュースにストローを指し、代わり映えのしない菓子パンを取り出す。目の前で広げられる弁当箱をなんとなく眺めていると、そこから現れたのは例のおっさん顔をした猫だった。福本が絶句し、おもむろに箸を取り出すとおっさんをつつく。

「珍しく弁当寄こしたと思ったら……」
「お前らって仲いいよな」
「これ見てその言葉が出んのかよ」

 相手に遠慮しないというのは、仲がいいということじゃないのか。まるで家族のように接する二人は、今の俺からしたら羨ましい。

「とりあえず篠原は現状維持」
「でも……」
「ちゃんと返信くれるってことは、嫌われてるわけじゃないと思うぞ。なんか思うところがあって迷ってるんだろ。そこに、ああだこうだ言われたら、それこそ嫌いになる」

 そう言われ、何も返すことができなかった。ただ黙って避けられている現状を受け入れるのはつらい。けど、たしかに、ここで余計なことをして嫌われたらもっとつらい。

「恋愛って、苦しいんだな……」

 呟くように言い、ジュースを啜ると、「小学生か」と突っ込まれた。




 どんなに悩んでいようと日は経つもので、あっという間に金曜日になった。また今週が終わってしまった。彼女に毎日会える日々は、今日を終えればあと一週間しか残っていない。

「それでね、花ちゃんが帰るまえにアイスかってくれてね」
「アイスって、寒いだろ」
「花ちゃんも言ってた。けど食べたかったの。おいしかったよ」

 悠希と二人、テーブルで向き合って会話をする。悠希の手には色鉛筆が握られ、代わる代わる色を交換しながら画用紙を塗り込んでいく。昨日の帰りにアイスを買ってもらい、父親に内緒で食べたのだと、嬉しそうに報告しながらその時の絵を描いている。

 時刻はすでに十八時半を過ぎていた。遅くなることは事前に連絡をもらっているから問題はないが、今日に限って他の保護者のお迎えが早く、悠希だけが一人残ってしまっている。

「あの人って、好きな食べ物とかあるのかな」

 絵を眺めながら独り言のように言った言葉に、悠希が顔を上げた。

「あの人じゃなくて、花ちゃん」
「は、はなちゃん」
「えー、好きな食べ物かぁー、知らないなー」
「知らないのかよ……」

 電話の着信音が聞こえた。学童の固定電話だ。事務室で誰かが話し出す声が聞こえ、その場を立つ。廊下に出ると、すぐに会話を終えたのか、職員の女性が同じように廊下にでてきていた。

「宮丘さん、駅に着いたからもうちょっとで来れるって」
「じゃあ、準備しときます」

 部屋に戻って悠希に伝えると、嬉しそうに色鉛筆を片づけ始めた。その手がカラフルに汚れていたので、手を洗うように言うと、ついでにトイレも行ってくる、とわざわざ宣言して走って行った。

 職員が早々に戸締りを始める中、玄関前で宮丘さんと悠希を待つ。ガラス扉の先には暗い夜道が広く見える。明かりの届いていない道の先は、真っ暗闇だ。そこから、すっと人影が現れた。宮丘さんだ。電話が来たばかりなのにもう着いたのか、と思ったのも束の間、なぜか玄関前を素通りしていく。

 その顔が、一瞬だけこちらを向いた。表情は見えず、ほんのわずかに顔が傾けられた程度だったが、その目は俺を捉えていたように思う。

 消えて行った姿を呆気に取られて見ていると、すぐに違う人影が反対側から現れた。ロングコートを着た男が真っすぐに速足で歩いていき、彼女を追うように消えていく。

「あおちゃんお待たせ」
「悠希、ちょっと待ってろ」

 帰り支度を終えて現れた悠希に言い、事務室にいた職員に悠希を見ているようにお願いした。ゆっくり状況を説明している暇はない。あれが見間違いでなければ、彼女は男に後を追われている。

 見失う前にと急いで外に出た。速足だったせいか、暗い夜道の先にはすでに二人の姿はない。走って手前に現れた角を曲がる。点々と街頭の光が続いていて、そこにも姿は見えない。

 どうしよう、携帯を鳴らしてみようか。そんなことをして、もし身を隠していたら逆効果かもしれない。

 彼女が学童に入らず、そのまま素通りしていったのは、きっと悠希のことを考えての行動だ。助けを求めるならすぐにでも入るべきだが、そうすれば悠希が危ないと考えたのだろう。だとすれば、そういう相手に追われているということになる。

 自分の両手を見つめた。なにか無いのか、と考え、思い浮かばない自分に失望する。再び走りだした。真っすぐな道を進み、また角が現れたのを見て、そこを曲がろうとした。しかし、その前に人影が飛び出してきて激突する。

 はっと息の飲み、宮丘さんが俺を見上げた。その顔を見て途端に心が安堵する。よかった、見つかった。

「大丈夫?」

 聞いても返事がなく、ただ驚いた表情のまま固まっている。今ここで事情を聴くなんてことは無理だろう。とりあえず学童に戻ったほうがいい。悠希たちも、きっと心配して待っている。

 花、と男の声がした。姿は見えないが、曲がり角の先に誰かがいる気配がする。宮丘さんの顔が強張った。俯き、手をゆっくりと上げ、俺の身体を弱い力で押す。

 もう一度、名前を呼ぶ声が重く、近づいて聞こえてくる。何も言わずに押してくる手が、まるでこの場から早くいなくなってくれと言っているようだ。

「あぁ、ここにいた」

 角から男が姿を現した。先ほどのロングコートを着た男だ。宮丘さんの背中を見つめ、真っすぐに立つ。その目が、俺に向けられる。

「誰ですか?」
「あんたこそ誰だよ」

 いつものように感情がそのまま口から出てしまった。けれど、怯えたように目を濡らし、真っ青な顔をしている彼女を目の前にして、冷静に相手を見定めることなんて出来そうにない。

 すでに押し返す力はなく、ただ触れたままの手にそっと自分に手を重ねた。小さな息遣いが僅かに聞こえてくる。大丈夫、と思いを込めて握りしめれば、強張った顔が歪む。

「花、また今度二人で話そう。待ってるから」

 男が優しい声音でそう言った。返事を待つことなく、俺を見ることもなく、背中を向けてその場を去っていく。足音が小さくなり、聞こえなくなってから、ようやく宮丘さんが安心したように息を吐いた。力が抜けたのかその場で蹲ってしまい、慌ててしゃがんで様子を窺った。

「具合悪い? 気持ち悪い?」
「……だ、大丈夫。ごめんなさい……」

 目を瞑り、浅く呼吸を繰り返す姿が痛々しい。汗をかいたのか、前髪が濡れて額に張り付いている。思わず手が伸び、触れた瞬間に驚いた目が俺を見上げた。

「ご、ごめん……っ」

 謝る俺に何も言わず、冷静さを取り戻すように目が細められる。

「学童に戻ろう。俺、飛び出して来ちゃったからみんな心配してる」
「でも、今行ったら……」
「もうアイツいないから大丈夫だよ。俺もいるし」

 小さく頷くのを見て、両肩を支えるようにそっと触れた。あまり足に力が入らないようだが、ゆっくりと、体重を預けながら立ち上がった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

エモパレ ―感情が見えるぽっちゃりな私が、オジさま副局長を無自覚なまま搦め捕るまで―

久乃亜
恋愛
前世の記憶を持つぽっちゃり看板娘ハルネは、 人の「感情の色」が視える魔眼『エモパレ』と、持ち前の経営手腕で、実家の香房を切り盛りしていた。 そんなある日、とある事件から、 オジさま――第二調査局副局長、通称「鬼のヴァルグレイ」に命を救われ、 ハルネの理想のオジさま像に、一瞬で恋に落ちる。 けれど、彼がハルネに告げたのは、愛の言葉ではなく ――理不尽な『営業停止』の通告だった!? 納得いかないハルネは、自らの足と異能で犯人を追い詰めることを決意する。 冷徹で無表情な彼だが、なぜかハルネに同行し、過保護なまでに手伝ってくれて……? 「人生2週目」のポジティブぽっちゃり娘と、不器用な冷徹最強騎士が織りなす、 お仕事×捜査×じれじれの初恋溺愛ファンタジー! ※ 第1部(1~3章)完結済み。 毎日投稿中

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。 俺と結婚、しよ?」 兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。 昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。 それから猪狩の猛追撃が!? 相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。 でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。 そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。 愛川雛乃 あいかわひなの 26 ごく普通の地方銀行員 某着せ替え人形のような見た目で可愛い おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み 真面目で努力家なのに、 なぜかよくない噂を立てられる苦労人 × 岡藤猪狩 おかふじいかり 36 警察官でSIT所属のエリート 泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長 でも、雛乃には……?

年下男子に追いかけられて極甘求婚されています

あさの紅茶
恋愛
◆結婚破棄され憂さ晴らしのために京都一人旅へ出かけた大野なぎさ(25) 「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!ムカつくわー!お前ら全員幸せになりやがれ!」 ◆年下幼なじみで今は京都の大学にいる富田潤(20) 「京都案内しようか?今どこ?」 再会した幼なじみである潤は実は子どもの頃からなぎさのことが好きで、このチャンスを逃すまいと猛アプローチをかける。 「俺はもう子供じゃない。俺についてきて、なぎ」 「そんなこと言って、後悔しても知らないよ?」

恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-

プリオネ
恋愛
 せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。  ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。  恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

処理中です...