【高校生×OL】スターマインを咲かせて

紅茶風味

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6話-3

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 次の日、学校に行きたいくない自分と葛藤しながら家を出た。どうでもいい授業を聞き、どうでもいい時間を過ごし、ただ椅子に座ってじっと耐える。

 考えたって仕方がない。そもそも今はまだ会社で仕事中なはずだ。悶々とする心を押さえながら、机に張り付いて溜息をついた。あれ、そういえば今って何の時間だっけ?

「おい、お前大丈夫かよ」

 机に頬を付けたまま呆けていると、福本の声が降ってきた。クラスの違うやつが何しに来たんだ、と身体を起こせば、いつの間にかクラスメイトが全員いなくなっていた。

「あれ、もうみんな帰ったんだ……」
「嘘だろ、気づいてなかったのか?」
「まぁ……」

 俺の返答に、なんだこいつ、と言わんばかりの怪訝な顔をする。よく見れば、福本も帰り支度を終えていた。鞄を抱え、細めた目で俺を見下ろす。

「お前今日ずっと変だぞ」
「考え事してたんだよ」
「キャラ弁にもつっこまねぇし」
「あれはもう飽きた」

 時計を見れば、すでに十七時半を回っていた。普段なら、学童に到着している時間だ。十八時までに着けばいいとはいえ、このまま直行しても、間に合うか怪しい。

 急いで学童に電話して、少し遅れるかもしれないと伝えた。言い訳をどうしようか悩んだが、なにも聞かれずに二つ返事で通話が切れた。

「なんか、俺がいなくても平気そうな気配を感じた」
「ちゃんと行けよ」
「行くけどさ」

 正直、それどころではない。十七時半を過ぎているということは、花さんはもう、あの男と会っている。今頃、どこかで二人きりでいる。そう思うと不安で仕方がなくなる。自分に出来ることなど無いというのに。

 福本はまた部活に顔を出していたらしい。もう関係のない場所にわざわざ行くなんてよくやるな、と感心するが、案外普通なのかもしれない。一年の頃からずっと熱意を注いできたのだから、思い入れも、未練もそれなりにあるのだろう。一度も部活をやらなかった俺には分からない。

 二人で学校を出て商店街を歩いた。もはや急いでも間に合わないと分かると、急ぐ気力すら沸いてこなくなる。

 近代的な街並みの中を、ぼんやりと歩く。うちの制服の男女を雑貨屋の前で見かけ、そういえば小木が制服デートをしたいと言っていたことを思い出す。そんな経験、一度も無かったな。いや、あったかな。付き合っていた相手に制服のままどこかへ連れていかれたことはあったけど、もうあまりよく覚えていない。その程度の出来事だった。

「なんか、大したことない高校生活だったな」
「そうか? 俺は結構楽しかったぞ」
「まぁ、人生で初めて友達と言える存在は出来たけど」
「え。それ俺のこと言ってんの? なら泣くわ。色んな意味で」

 先に、大きなイルミネーションが見えてきた。駅前にある、クリスマスツリーのオブジェだ。青色と白色が散りばめられ、キラキラと点滅している。通行人が足を止め、携帯のカメラレンズを向ける。ふと、その人だかりの中に知っている顔を見つけた。

 思わず足を止める。花さんだ。まさかここにいるわけがない、と思うも、遠目でも分かるあの人は、間違いなく彼女だった。コートを着込んで鞄を前に抱え、写真を撮るでもなくただ立っている。ツリーの光を見つめる表情は浮かない。

「どうした?」

 足を止めていることに気付いた福本が、振り返って不思議そうに言った。その恰好を見て、今の事態に気付く。慌てて近くの物陰に隠れた。なんの電飾も施されていない乾いた木の陰は、きっと向こうからはただの暗闇に見える。

「何してんだ」
「お前も隠れろよ」
「なんで?」

 訝し気な顔をしつつも、言われた通りに背後に来た。俺の視線の先を見たのか、「ツリーがどうかしたのか?」と聞く。

 どうしてこんなところにいるのだろう。いや、どうしても何も、理由は明白だ。自分にとってはただの学校がある最寄り駅だが、そこそこ大きな駅で、店も多く、最近イルミネーションが話題とあれば、食事をしに出掛ける場所として選んでもおかしくはない。

「もしかして知り合い?」
「……学童の」
「えっ、お前が惚れてる相手? まじか、どの人?」

 俺の気も知らず、福本が嬉しそうな声を出す。どうしよう、このまま駅へと向かえば、高確率で姿を見られる。不審なのを覚悟して、顔を隠しながら走ればなんとかなるか。

 考えながら、欲が生まれる。今、ああしてツリーの前に立っているのは、きっとあの男を待っているからだ。これから食事に行くのだとすれば、ついて行くことが出来る。

「ていうか、なんで隠れてんだ?」
「俺が高校生だって言ってないから」
「なんだそれ。どういうこと?」
「大学生だと思ってる」

 はあ? と大きな声で言われ、数人がこちらを振り向いた。慌てて顔を背け、太い木に背中を押し付ける。

「静かにしろよ、バレるだろ」
「年齢誤魔化すとか駄目だろ……!」
「言うに言えなかったんだよ」
「なんでだよ、言えるだろ」

 当然のように声を上げる福本に、若干の苛立ちを覚える。そんな簡単じゃない。俺だって、最初は嘘をつくつもりなんてなかった。だけど、気づいたら大学生だと思われていて、その時にはとっくに好きになっていて、そうしたら、言えるわけないじゃないか。高校生のガキなんて相手にされるわけがないんだから。

「……なぁ、その人って、黒いコート来てる人?」

 福本がツリーの方を見ながら言った。

「そう」
「白っぽいスカート履いて、手持ちの鞄持ってる人?」
「そうだよ、何」
「なんか、男来たけど」

 身を翻し、木にしがみついた。花さんのいた場所を見れば、たしかに、男が近くにいた。あいつだ、たぶん。顔は遠くてよく分からないが、背格好があの時と同じだ。

 二人が会話を交わしたかと思えば、どこかへ移動する。駅とは反対側に向かうのを見て、その後を追った。

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