サンタの願いと贈り物

紅茶風味

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【淳平編】1話-2

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 朝食を済ませ、まだゆっくりと食事をしている葵と父を尻目にリビングを出た。自室に戻り、パジャマを脱いで制服に着替える。

 洗面所で軽く髪を整えてから、リビングに戻った。先ほどと変わらない姿勢のまま、二人がぼんやりと口を動かしている。時計を見るとすでに七時を過ぎていた。いつもなら食べ終わり、着替え始めている時間だ。

「いつまで食べてるんだよ」

 少しだけ焦り、父に向かって言った。

「遅刻するぞ。葵も、保育園遅れちゃうだろ」

 すると、父が僕を見て目を丸くした。その目が、だんだんと細められていき、嫌そうな顔で口を開く。

「今日、土曜だけど」
「えっ」
「土曜です」

 慌ててカレンダーを見た。土曜である今日の日付を見てもピンとこないが、そういえばテレビのニュース番組がいつもと違っていたのは、そういうことだったのかと合点がいった。

 僕の呆けた様子を見て、父が頭を抱えて声をあげた。

「あぁ、お兄ちゃんの勘違いだったよ、葵。何か予定でもあるのかと思っていたのに、ただの勘違いでお父さんの貴重な睡眠時間が奪われたよ」
「うるさいな、葵が困ってるだろ」
「葵だって、怒ってるもんなぁ」

 父が賛同を求めるようにそう言うと、葵が不思議そうな顔で「なにが?」と言った。

「悪かったよ、休みに起こしてごめん」
「分かればいいんだよ」

 先ほどまでの熱はどこへいったのか、途端に冷静になると朝食を再び食べ始める。疲れの刻まれた顔で、黙々とサンドイッチを咀嚼し、食べ終わると皿を見つめて固まった。

 父が黙って一点を見つめている時は、何か考え事をしている時だ。こうしてしばらく沈黙が続くと、決まって最後に結論を言うので、あぁ、その事を考えていたのか、と分かるのだ。そして、それは大抵、唐突な内容だったりする。

「よし、ピクニックに行こう」
「寝ろよ」
「なんでだ……、酷い」
「さっき、貴重な睡眠時間を奪われたって喚いてたじゃないか。二度寝すればいいだろ、ていうか何だよピクニックって」
「三人で公園に行こうと思ったんだよ。お弁当とか、フリスビーとか持って」

 葵がつぶやくように、「フリスビー」と言った。ちなみに我が家に犬はいない。ピクニックに対する勝手な思い込みだ。

 父が明るい表情で続ける。

「家族みんなで、休日に出かけるなんて今までしてこなかっただろう。ちょうどいい機会じゃないか。うん、ピクニックだ、ピクニック日和だ」

 母がいないのだから、家族みんなとは言えないじゃないか。そう思ったが、口に出すのはやめた。無意識に母の席に視線を向けた僕に、父が気づいたからだ。

 なんでもないふうにして視線をそらし、そのまま葵を見た。会話に参加せず、黙ってスプーンの先でフルーツを突いている姿に話しかけた。

「葵は、公園行きたいか?」

 スプーンを握ったまま、大きな瞳が僕を向く。

「カバさんの公園?」

 それは、家から歩いて十五分ほどの場所にある、大きな公園のことだ。葵の通う保育園が近くにある為、迎えに行った帰りなどに頻繁に寄っている。

 広い敷地の一角に子供用の遊具が設置されており、その中でも特に大きなものが、カバを模った滑り台だ。背中に階段があり、それが体内へと続き、大きく開いた口が傾斜部分となっている。傾斜角度が高い為、子供達が高速でカバの体内から出てくるという、なんとも言えない光景になるのだ。

 その独特の特徴をもつ遊具から、大人も子供も揃って、カバの公園と称している。

「えっと、どこでもいいよ。違うところがいいなら、そっちに行こう」
「あおいはね、じゃあ、お兄ちゃんの学校のところがいい」
「それって、前に行った学校の裏の公園のこと?」
「そうそれ」

 葵が頷き、またフルーツを突き始めた。

「学校の近くに、公園なんてあったか?」

 父が、コーヒーを啜りながら聞いた。

「裏門側の一本先の道に、小さいのがあるんだ。遊具もあんまり揃ってないし、人けもあんまりないんだけど……」
「葵が行きたいなら、そこにしよう」
「わざわざ、電車乗ってまで公園に行くのかよ」
「ピクニックらしくて、いいじゃないか」

 そう言ってコーヒーを一気に飲み干し、上機嫌で立ち上がる。食器を持ってキッチンに入っていく姿を見送り、僕は葵に再度聞く。

「本当に、今日、行きたいのか?」
「うん、行きたい」

 どっちでもいい、と言ってくれることを期待したが、駄目だった。正直、休みの日まで学校近くに行くのは気が重い。

 キッチンで食器を洗いながら父が「早く」と急かす。対して葵はゆっくりとした動作でフルーツを口に運び、空虚を見つめながら咀嚼している。

 葵が食べ終えるのを見届けると、空いた食器をキッチンに運んだ。すでに自室に戻っていた父に葵が呼ばれ、返事をすることなく小走りで廊下の先へと行ってしまった。

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