サンタの願いと贈り物

紅茶風味

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【淳平編】2話-5

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「私の手を見て」

 日野が言った。言われたとおりに視線を向けると、次の瞬間にはそこに飴玉が現れた。驚く僕に対して、照れたように笑うと飴玉を差し出してくる。

「最初に出したのはボールペンでした。書くものが無いかと探していたところに、突然ぽんって。驚いて、何が起きたのか分からないうちに知らない大人の人が来て、そういう体質になったんだって言われました」
「大人の人っていうのは、その、サンタクロースに関係する人?」
「そうです。ごくたまに、私みたいな人がいるらしいんです。そういう人には、サンタさんになれる資格があるんです。ただ、それには試験を受けなくちゃいけなくて。私、去年から頑張ってるのに、まだ達成できていないんです……」

 日野が左手の甲を見せるようにして、少し近づけてきた。何でもないように見えたが、甲に薄っすらと白い線が走っている。何かの模様かと思い、凝視していると、それが二ケタの数字であることが分かった。

「やっと、九十七人まで叶えることができました」
「叶えるって、もしかして、子供の願い? だから欲しい物を聞いて回っていたのか? その数字は、願いを叶えた子供の人数?」
「その通りです。まぁ、願いを叶えるっていう言い方は少し大げさですが……私、そこまで大それたことは出来ませんので」

 左手の甲を、右手の指先が撫でる。

「あと少しなんです。百人まで達成できれば、正式に採用されるんです。サンタさんとして、子供達を幸せにしてあげられるんですよ」

 そう言った日野の顔は、まだ見ぬ未来に期待を膨らませ、輝いているようだった。

「信じてもらえますか」
「信じがたい話だけど、まぁ、嘘を言っているようには見えないし」

 日野が嬉しそうに、言った。

「じゃあ、もう一度、葵ちゃんに欲しいものを聞いていいですか」
「なんでそうなるんだ」
「だって、葵ちゃんの欲しいもの、リンゴジュースじゃなかったんです。この手にある数字、子供に幸福を与えられると瞬時に増えるんですよ。でも、葵ちゃんにジュースをあげた時には増えなかった。きっと、本当に欲しい物が他にあるんですよ」

 公園で、悲しそうに手の甲を見つめる日野の姿を思い出した。それを確認していたのか。

「別に、葵じゃなくてもいいんだろ。あと三人なら、その辺の子供に適当に声をかければいいじゃないか」
「それは、そうなんですが……」

 俯き、日野が盗み見るようにして葵を覗いた。相変わらず、一段上った場所から動いていない。横には移動しているようだが、怖くて上がれないのだろうか。

「なんだか気になってしまって。あの子、感情がよく分からなかったから。もしかしたら、言いたい事を隠しちゃってるのかなって、思って」

 自分の心の中を言い当てられたようだった。それは、ずっと気になっていた事だ。気になっていて、でも、気にしていないフリをしていた。

 葵は物をねだったりしない。我が儘も言わないし、泣いたり怒ったりもしない。笑うことも少ない。感情的にならないのだ。同じ年頃の子供を見ていると、もっと感情をむき出しにしている。ちょっとしたことですぐに喚いて、かと思えばすぐに笑っていて。そういった過剰なほどの喜怒哀楽を、葵は全く見せない。

「欲しい物を聞かれても答えないと思う」
「知らない人に答えてはいけないと、教えているからですか?」
「違うよ。僕が聞いても答えないんだ。答えたとしても、それが本当に欲しい物なのかどうか、あいつの反応を見ていても分からない」

 きっと、そういう性格なのだ。僕自身もあまり明るい方ではないし、幼い頃のことはよく覚えていないけれど、葵と大差はないだろう。
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