サンタの願いと贈り物

紅茶風味

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【淳平編】2話-8

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 結局、家の近くにあるスーパーで惣菜を買って帰った。料理をしている間、父を待たせておけばいいだけなのだが、気力が沸かずに諦めた。パックのまま並べられた惣菜を見て、父がわざとらしく溜息をついたので、僕も忙しいのだと主張した。

 夜、葵が眠ったのを確認すると、父に話しかけた。父はリビングのテレビを見ながら、酒を飲んでいた。

「今日、殺人事件の話を聞いたよ」

 父はコップを握ったまま顔を歪める。内容まで言わずとも、何の話か分かっているようだ。

「学校で?」
「いや、保育園で。先生とか親とか、けっこう話題になってるみたいだよ」
「まあなぁ、これだけ近所で起きちゃうと、警戒するもんなぁ」

 語尾が伸びている。酔っている証拠だ。

「父さんが捜査してるんだね」
「あぁ、今回はちょっとつらいな」
「近所って、だいぶ近いの?」
「うんまぁ、そうだな、お前の学校の方が近いけどな。もっと端っこだ」

 頭の中で地図を思い浮かべたが、市境が明確に分からなかった。方角的には、住んでいるこの場所よりも田舎になる。

「犯人、捕まりそうなの?」
「まぁ、大丈夫だろう。町中で誘拐したうえに遺体を遺棄してるからな、証拠がたくさん出てくるはずだ。そこから辿ればすぐに」

 父が突然、口を閉じた。細めた目で僕を見る。

「何を言わせるんだ」
「勝手に喋ったくせに」
「誘導尋問だ」
「朝のニュース、気づかれないようにチャンネル変えてたんだろ。そういうことするから、息子に探りを入れられるんだよ」
「俺はただ、余計な心配をかけたくないと思って……」

 父が両手を顔にあてて泣きまねをしたので、その隙に酒の入ったコップを奪った。キッチンに持っていくと、気づいた父の抗議の声が聞こえてくる。

「……淳平君、まじめな話なんだがね」

 ふざけているような口調で言う。

「葵のこと、くれぐれも気を付けてくれよ」

 キッチンから顔を出し、父を見て、母の写真を見た。

「分かってるよ」



 次の日、学校の授業を終えるとすぐに、カバの公園へ向かった。保育園へ行く前に、日野に会っておこうと思ったのだ。別に彼女に好意を持ったわけではない。葵と話した内容がどんなものだったのか、気になったからだ。

 公園に着くと、迎えの時間までまだ一時間近くあった。急いで来たが、時間を持て余してしまうかもしれない。

 日野の姿を探して、公園の中を歩く。昨日と同じ、滑り台の上にいるかと思ったが、そこには小学生の群れがいるだけだった。

 滑り台を通り過ぎ、ジャングルジムの前で立ち止まった。周囲を見回したが、日野らしき姿は見当たらない。もしかしたら、来ていないのだろうか。この時間にはいると言っていたが、そう毎日いるものでもないだろう。

 少し早いけれど、保育園へ行こう。そう思って振り返ると、視界の端にブランコが映った。ジャングルジムの向かい側にある、少し古くて寂れたブランコだ。

 思わず視界で捉えてしまったのは、二つあるうちの一つが、尋常ではない高さまで揺れているからだ。乗っている人物は全力で立ち漕ぎをしているようで、そのまま一回転してしまうのではないかと思われるほど、高く上がっては、しなって落ちてくる。

 危ないな。そう思った瞬間、乗っていた人物が手を離した。身体は慣性に従って前へと飛び出し、僕に向かってくる。日野だった。

「パンツ見えた!」

 ブランコの近くにいた子供が叫んだ。
 日野は泣きそうな顔で宙を舞い、そのまま僕の数メートル前に着地した。一度は両足を付いたが、すぐに崩れ落ちるようにして全身で地面に倒れ込む。

「痛い、痛いよぉ」
「ねぇちゃん、かっけー! すっげー飛んでたぜ!」

 小学生の男の子が、興奮しながら走り寄って来た。昨日、滑り台のところにいた子のようだ。あと数人も、ブランコの方から走って来る。

「ちゃんと飛びましたよ。これで、欲しい物を教えてくれますよね」
「えーやだよ」

 日野が涙目になった。

「なぜ!」
「だって、ねぇちゃん怪しいもん。欲しい物聞くなんてさ、変な人じゃん。母ちゃんに話したら、もうその人に近づいちゃ駄目って言われたよ」
「そ、そんなぁ」
「でもまぁ、楽しかったよ。じゃーなー」

 男の子はそう言うと、他の小学生と共に走って行ってしまった。全身に土汚れの付いた日野が、その後ろ姿を呆然と見つめている。

「当然だと思うけど」

 僕の声に、地面に座ったまま日野が顔を上げた。驚いて呆けた顔が、みるみる赤くなっていく。

「見てたんですか」
「僕に向かって飛んできたぞ」

 日野は立ち上がり、服に付いた土を両手で払った。髪の毛も乱れ、少し土が付いているが、気づいていない。黙って指をさすと、頭を振りながら手で払っている。犬のようだ。
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