サンタの願いと贈り物

紅茶風味

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【淳平編】2話-9

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「恥ずかしいです。これからサンタさんになろうっていうのに、子供一人の願いも聞いてあげられないなんて」
「いや、だから、あの状況では当然だって。突然そんな質問をされたら、誰でも不審者じゃないかと疑うだろ」

 実際、僕自身も疑った。彼女に対する警戒が解けたのは、目の前で物が現れる瞬間を見せられ、それに関する説明を聞いたからだ。

「もし親が傍にいたらどうするんだ。ああいう遊び方だって、子供は楽しいかもしれないけど、親からしたら心配の元なんだ。怪我でもしたらどうしようって。そういうことを教える大人に、近づいてほしいとは思わないだろう」
「あ、あれはやってって言うから……。いや、それ以前に、親が近くにいないことを確認してから声を掛けているので、大丈夫です」

 日野が少し誇らしげに言った。それくらいのことは心得ている、ということだろう。つまり、自分の行動が不審であることは認識しているのだ。

 昨日の話だと、サンタクロースとして正式に採用されるには、多くの子供に接触しなければいけない。百人の願いを叶える、ということは、叶えられなかったことを想定すれば倍以上の人数になるのではないだろうか。

 日野はすでに九十人以上の子供の願いを叶えているが、一体今までどれだけの人数と接してきたのだろう。このようなやり方をしていれば時間がかかって当然だが、保育施設などに勤めていない限りは、他に方法が無いのも事実だ。

「今までもそうやって、親がいない子供に声を掛けていたのか?」
「そうですよ。学校や保育園のある地域を点々としているんです。この街には最近引っ越して来ました。他の試験中の皆さんは、もっと効率良くやっています。幼稚園や児童施設で非常勤で働いたりして」
「何で同じようにしないんだ」
「私も最初は、小さな児童館でアルバイトをさせてもらっていました。だけど、全然向いてなくて。子供受けはいいみたいなんですけど、仕事で失敗ばかりしちゃうんです。願いを叶えるどころじゃなかったですね」

 それは容易に想像ができた。彼女に会うのはこれで三度目だが、その少ない時間の中でも、子供に翻弄されたり、すぐに慌てて取り乱したりと、社会的な部分に不器用さを感じる。

「とにかく、今はあまり目立つようなことはしない方がいいよ。例の事件があって、保護者はみんな警戒しているんだ」
「例の事件って、何ですか?」

 真っすぐな瞳を向けて聞いてくるのを見て、驚いた。普段から子供を相手にしている割に、情報が耳に入っていない。

 里美先生に聞いた話を、そのまま日野に話した。父から聞いた情報は、一応伏せておいた。

 僕の話を聞き、日野が眉を寄せて悲しそうに俯く。

「そんなことがあったんですか、全然知りませんでした」
「テレビのニュースでやってたみたいだけど」
「私、ニュースは見ないんです。テレビは基本的に、アニメか小さい子向けの番組しか見ませんので。でも、そっか、可哀想ですね、その子……」

 そう言って自身の左手をそっと握った。落ち込む日野を後目に、時計を見た。迎えの時間が迫っている。

「あの、今日は葵のことを聞きたくて会いに来たんだ」
「何ですか?」
「昨日、あいつ何を言っていたのかなと、思って」

 日野が僕を見つめ、瞬きをする。

 昨日、日野と葵は僕の声の届かないところで言葉を交わした。確かにやり取りはあったが、その後に変化はなかった。葵の手には何も握られていなかったし、日野の左手の数字は増えていない。

 葵に聞いても教えてくれないので、こうして日野に聞きに来たのだ。わざわざ僕を避けて言った言葉となると、余計に気になってしまう。

「葵さんは、淳平くんには内緒にしたいみたいですけど」
「だから、こっそり教えてくれないかな。葵には言わないから。うち、母親が亡くなっていて、父親も忙しいから、僕が親代わりみたいなものなんだ」

 その言葉に、日野が驚いたように目を丸くした。その反応に、僕は戸惑う。

「え、なに」
「お母さん、亡くなられてるんですか」
「そうだけど」
「葵さんは、知っているんですか?」
「知ってるよ。葵は母には会った事ないけど、写真を見せてちゃんと説明してるんだ。それが何かあるのか」

 日野は深刻な顔で、僕に言った。

「私が口を出すことではないかもしれませんが、もう一度ちゃんと、お話した方がいいです。昨日、私に言っていました。お父さんと、お母さんと、お兄さんと自分。家族四人揃って暮らしたい。それが葵さんの願い事です」
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