サンタの願いと贈り物

紅茶風味

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【葵編】2話-2

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 その日の夜、夕飯を終えて風呂を上がると、父の部屋の方から物音が聞こえてきた。何かが倒れたような大きな音だったので、急いでパジャマに着替えると濡れた頭もそのままに脱衣所を出て駆け出した。

「……なにしてんの」

 顔を覗かせて見れば、そこにはベッドに大の字になって脱力する父の姿があった。具合でも悪いのかと様子を窺うが、きょとんとした顔を向けられてしまう。

「頭びしょびしょじゃないか。ちゃんと拭きなさい」
「……心配して損した」
「心配?」
「なんでもない」

 部屋の隅には、大きなプラスチック製の収納ケースが乱暴に四つ置かれ、押し入れが全開になっている。それを見れば、何をしていたのかは聞かなくてもわかる。近づいてケースの蓋を開けると、中には暖かそうな冬物の衣類が収まっていた。

「もう出すの。早くない?」
「こういうのは思い立った時がいいんだよ」
「それにしたって、平日にやらなくても」
「平日に思い立っちゃったからなぁ」

 こういうマイペースな性格は昔からだ。俺も兄も、しっかりとそれを受け継いでいる。厚手の衣類をなんとなく捲っていると、ぽたりと雫がそこに落ちた。そういえば髪を乾かしていなかった。脱衣所に戻って手早くドライヤーで乾かし、生乾きのまま再び部屋に戻る。

「葵も手伝ってくれるか?」

 復活した父がベッドから離れ、衣類を取り出し始めていた。言われた通り、他のケースを開け、中身を取り出していく。空になったそこに、いつの間にか纏めてあった夏物の衣類をしまった。つい最近まで着ていた服もあったので迷ったが、べつにいいかと、そのまま雑に放り込んでいった。

「よし、じゃあ押し入れに戻そう」
「俺やっとくからいいよ。早く風呂入れば」
「えっ」

 何故か驚いたように父が声を上げる。

「やだ、かっこいい」
「早く入れよ」

 かっこいい、どうしよう、かっこいい、とふざけているのか本気なのか分からない顔で繰り返しながら父が部屋を出て行った。

 重さを覚悟して収納ケースを持ち上げてみれば、思いのほか軽くて少しふらついた。冬物と比べれば軽いのは当然だ。そう思いながらも、父との差が生まれているのだろうかと感じて物悲しくなった。

 ケースを押し込もうと棚に一度置き、ふと奥に何かがあるのに気付いた。小さな段ボール箱だ。

 持ち上げていたケースを下ろし、それを奥から引きずり出す。蓋にガムテープは貼られておらず、上面に綺麗な字で『捨てるな』と書いてあった。なんとなく見覚えのある筆跡は、おそらく兄のものだ。

 好奇心を抱きながら、蓋を開いた。白いスーパーの買い物袋が見え、中身が薄っすらと透けて見える。取り出してビニール袋を剥ぎ取れば、それは子供用のバケツとシャベルだった。

 頭の中で何かが弾けたような気がした。遠く、遥か遠くで小さく弾けただけで、すぐに感覚は消えて無くなってしまう。けれど、このおもちゃには、言葉にしがたい何かを感じる。

 収納ケースを全て元に戻し、部屋を出た。段ボール箱ごとおもちゃをリビングに持っていくと、ちょうど父が風呂から上がって出てくるところだった。

「あれ、それどうしたんだ? 懐かしいなぁ」

 濡れた頭を拭きながら、父がのんびりと言った。

「これって俺の?」
「そうだよ。お前は砂遊びが好きだったから」

 兄の家に飾ってある写真が脳裏に蘇る。

「この字って、兄ちゃんの字だよね」

 上面の文字を指さして聞けば、少し神妙な顔になって頷いた。

「葵のおもちゃはほとんど人にあげたり処分しちゃったんだけど、それだけは淳平がとっておくって言って聞かなかったんだよ」
「なんで?」
「分からないな。理由を言わなかったし、なんか聞いちゃいけない雰囲気だったから」

 バケツもシャベルも、新品のように真新しくてあまり使っていたようには見えない。砂場でよく遊んでいたのは覚えているが、このおもちゃを本当に使っていたのだろうか。

「そういえば、それを買った覚えがないんだよなぁ。淳平は自分で買ったりはしなかったし、じいちゃんばあちゃんかなぁ」

 父が遠い記憶を呼び戻すかのように、ぼんやりと呟いた。

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