サンタの願いと贈り物

紅茶風味

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【葵編】4話-2

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 しばらく無言で歩いていると、「さっきの」と隣で話し出した。

「三上先生に呼び出されたんだ。お前のことで」
「なんで兄ちゃんなんだよ。父さんは?」
「……進路希望に、なんて書いたんだ」

 俺の質問には答えず、代わりに言った言葉にそのことか、と口を噤んだ。なんて書いたのかだなんて、呼び出されたのだから知っているだろうに。先生はあまりにも馬鹿げていると思って、父を呼ぶのを躊躇ったのだろうか。

「兄ちゃんに告げ口しなくたっていいじゃんか」
「葵」
「サンタクロースになりたいって書いたよ。それがなんだよ」

 俺の反抗的な言い方に、兄が顔が曇った。

「なんでそんなこと……」
「なんでって、兄ちゃんが言ったんだろ、やりたい事やれって。だから、やりたい事書いたんだよ」
「書くなよ、そんなこと。進路希望に書くな」

 少し声を荒げてそう言い、いや、違う、と呟く。

「葵、本気なのか」
「本気だよ」
「なるってどうやって」
「そんなの分かんないけど、調べるよ。力はちゃんとあるんだから、なれないことなんてないだろ」

 はぁ、と兄が大きく息を吐いた。それが呆れたような色を見せていて、心の中で不快感が増す。

「なんでそんな反対するんだよ」
「反対っていうか、現実的じゃないだろ、そんなの。お前は思い出を美化して憧れてるだけだ」

 頭に熱が籠るのを感じた。湧き上がってきた感情が一気に放出され、思わず拳を握る。

「自分と一緒にするな!」

 立ち止まって声を上げた。駄目だ、落ち着け、と言い聞かせながらも、一度開放してしまった熱はそう簡単には収まらない。

 兄が驚いて振り返り、俺を見つめてくる。

「思い出ってなんだよ、違うよ、俺がサンタになりたいのは、ひのりんがそうだったからじゃないよ。俺が自分でなりたいって思ったのに、なんで」
「葵……」
「結局兄ちゃんは、俺の中にひのりんを見てるんだろ。だから反対なんかするんだ」
「違う! それは違う、葵、ちゃんと落ち着いて話を」

 伸ばされた手を見て、乱暴に振り払った。乾いた音が鳴り、暗い空に溶けて消える。

「大切な人が死んで悲しいのは分かるよ。でも、でもさ、俺だって」

 嫌な感情がぐるぐると胸の中を巡る。

 優しかったあの人が死んでしまって悲しい。そんな彼女に、きっとまだ恋をしている兄を見ていると、もっと悲しい。過保護が抜けず、しかってくれない父を見ていると歯がゆくて、我儘を言う自分が、滑稽で醜くて。

「どうしたらいいのか分かんないんだよ……っ、気にするなって、好きに生きろって言われたって、みんなのこと考えたら頭の中がぐちゃぐちゃして」

 鼻の奥がつんと痛み、慌てて顔を俯かせた。

「俺だって、苦しい」

 最悪だ。守られて、傷つけて、一番迷惑をかけている自分が、苦しいだなんて言葉を口にするのは馬鹿げている。

 こんなに吐き出すつもりはなかった。ただ、考えに考え抜いた夢を、唯一事情を知っている兄に否定されたのがショックだった。やっぱり、やめておけばよかった。力が出たあの日、兄の涙を見た時から分かっていたはずなのに、どうして期待してしまったのだろう。

 兄は何も言わず、ただ静かにその場に立ち尽くしている。俺は顔を上げることができず、そのまま下を向いて歩き出した。あおい、と小さく呼ばれるのを聞いて、速足で進む。

 やがて耐えきれなくなって走り出したが、後を追ってはこなかった。
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