サンタの願いと贈り物

紅茶風味

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【葵編】4話-3

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 駅には会社帰りと思われるスーツ姿が多くいた。同じ制服姿もちらほら見える。人の間を縫って通り、改札を潜り、ホームに上がる。ちょうど電車が行ってしまった後のようで、誰も座っていないベンチに近づくと重い身体を下ろすかのように乱暴に座った。

 疲れたな。そう思ったら口から出ていて、虚しくなった。

 何をするでもなく静かに電車を待つ。これからどうなるのだろう。豪語したのはいいが、サンタクロースになる為の手立てが本当に見つかるのかどうか、正直不安だった。日野が生きていれば聞けるのに、と、どうしようもないことを思う。

「あ」

 低く、少し間の抜けた声がした。顔を上げて声のした方を見ると、ホームに福本が立っていた。

「今帰りかよ、遅くねぇ?」
「そっちこそ」

 福本が部活動をしているのかどうか知らないが、その手には学校指定の鞄しかない。そういえば、小木の家はこの近くだった。そういうことか、とつい笑みが零れてしまい、福本が少しむっとしたように顔を赤くした。

「お前、部活やってんの」
「やってない」
「じゃあなんで……、あ、居残り?」
「ちげぇよ」
「なら兄貴んちか」

 その言葉に、今度はこちらがむっとした。つい先ほどのやりとりを思い出して、感情がそのまま顔に出てしまう。

 福本が近づき、開いているベンチに座った。行き先が同じなのだろう。家はどこなのだ、という質問が思い浮かんだが、気怠さに負けて口から出てこなかった。

 二人の間に沈黙が流れる。小木がいないと、会話がない。彼女の嘘による一件以来、たまに昼食を共にとるようにはなったが、そこまで仲が良いというわけでもない。俺にとってはまだ、突然殴ってきた男子、だ。

「あのさぁ、篠原って、その……」

 突然、福本が話し出した。歯切れの悪い言い方を不思議に思いながら、隣を見る。

「何?」
「いや、聞いていいもんかどうか」
「なんだよ」

 黙り、迷ったように視線を左右に泳がせると、意を決したように俺を見た。

「あの事件の、被害者だったりするのか」

 驚いて身体が固まった。あの事件、とは、十二年前のことを言っているのだろうか。被害者だなんて言い方からして、それしか考えられない。

 なんでもないように、そうだよ、と言えばいいのに、言葉が出てこなかった。初めて、第三者からそのことを言われた。唇を硬く結び、強張った顔で福本を見つめる。

 その反応を見て気づいたのか、そっか、と納得したように視線を下げた。

「悪い。べつに、だからなんだってわけじゃないんだ。ただ、あの話題出した時、お前は知らないって言ってたし、今思うと、俺、軽率だったなって思って」
「……なんで」

 ようやく出てきた声は、思いのほか小さかった。

「なんで、知ってんだよ……」
「俺のばあちゃんさ、こっちで働いてたって言っただろ。こないだ昼休みに話してから、気になってよくよく聞いてみたんだよ。そしたら、連れ去らわれた子が職場で預かってた子だったんだって」

 ざわつく心で、福本の言葉を聞いた。ホームにアナウンスが流れ、風が吹く。

「保育士だったんだよ。お前が通ってた保育園の。お前の名前、今でも忘れられないって、悲しそうに言ってた」

 電車が到着し、ドアが開いた。

「もしかして、福本先生……?」
「……お、おぉ」

 忘れていた。名前も、存在すらも。俺にとって、里美先生以外はどの先生も同じだったから。それでも、兄や父がその名前をよく呼んでいたのを覚えている。

 福本が電車のドアに向かうのを見て、慌てて立ち上がった。発車ベルに急かせられながら乗り込めば、それを待っていたかのようにドアが閉まる。

「なぁ、頼みがあるんだけど」

 焦る心で言えば、大きな声に周囲の視線が集まった。声を落とし、困惑した様子の福本に言う。

「あの時働いてた先生と話したいんだけど、連絡先が分からないんだ。だから」
「あぁ、ばあちゃんに聞けばいいのか?」
「助かる。ありがとう」

 里美先生の名前をメモして渡そうと、鞄から適当なノートを引っ張り出した。ペンケースからシャーペンを出そうとするも、片手でもたつき、面倒くさくなって鞄に隠れた手に新しくペンを生み出した。

「あのさ……」

 揺れる電車の中で書きなぐっていると、遠慮がちな声で言われる。

「もし、よかったら、その……ばあちゃんに一言、もらえねぇかな」
「え?」
「大丈夫、って。もう、元気に過ごしてるって。いや、お前にとってはきっとまだつらい過去なんだろうけど、嘘でもいいから伝えたいんだ。それだけでたぶん、安心するからさ」

 走らせていたペンを止め、俯いた。ノートをしまい、うん、と頷く。

「手紙、書くよ。俺もお世話になったし、ちゃんと伝えたい」

 そう言うと、ほっと安心したように息を吐いた。

「あんたって、そんな感じなのになんで俺のこと殴っちゃったんだろうな」
「掘り返すなよ……」

 家に帰るとすぐ、福本先生宛ての手紙を書いた。便箋など持っていなかったので、父に言うと訝しがりながらも引き出しの奥から探し出してくれた。

 お世話になった感謝と、あの事件など気にせず元気に過ごしていること、そして最後に里美先生の連絡先が知りたいから教えて欲しいと書いた。理由は書けないので、同じように自分は元気であることを伝えたいのだと、嘘をついた。

 次の日すぐに福本に手紙を渡した。一緒に住んでいるわけではないようで、返事が貰えるまで待ってほしいと言われた。落胆したが、頼んでいる手前で急かすこともできず、分かった、とだけ言った。
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