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山音爽上京~もう二度と乗らへんわ東京のタクシー何か
しおりを挟む「 近頃はこんな山奥に大学作るんですかねぇ、
こりゃ通うのも一苦労で骨が折れるでしょう
それに周りには店もなんにもありゃしない。
まぁ野山の中に若いもんほっぽり出しときゃあ、やることないんで
男も女も嫌でも勉強するだろうって大人の浅知恵なんでしょうけどね
それにしてもねぇ
大学で青春やるんなら喫茶店も居酒屋も雀荘のひとつもないと
話が始まらないと思うんですけどね
どうなんですかねぇ、
私らの若い頃なんかは酒か女か女か酒かで誰が誰と何したとかそんな話で授業そっちのけで駄弁って一日が暮れたもんだけど
おっと、これはレディのお客さんの前でする話ではなかったかな、失言失言…」
急なカーブが連続する山道。
コーナーが近づく度に目の前でピカピカの禿頭がゆらゆらと揺れる。
爽(さやか)は途切れることのないおじさん運転手の一人語りのワンマンショーを聞き流しながら、大阪の父親が酔っ払えば必ずと言っていいほど始まる東京の悪口を思い出していた。
──東京の人間はぶすっとしてこちらが話しかけるまではなんも喋らないくせにタクシーの運転手だけは違う。ひとりで喋る。こっちの空気も読まないで
ぺっらぺっらぺっらぺっら一人くっちゃべる。
まるで一日中箱の中に閉じ込められてる鬱憤をここぞとばかりに吐き出してくるみたいに。だから俺はもう東京に行ったらタクシーには乗らない。
乗ってやらないんだ。
大東京の片隅で生きるこのおじさんにとってはこの空間だけは自分のテリトリーということか。客であれ何であれこの閉ざされた空間は自分だけのもの。そこに入り込んで来たからには黙って俺の物語を聞いておけということなのか。
乗ってから40分ほどこのおじさんはずっとこの調子でえんえん続くひとり語り
もしかしたら誰もこの場にいなくてもこのおじさんは一日中こうやって喋り続けてるんじゃなかろうか。そんなアホな疑問さえ浮かんでいた。
(おっちゃん、そんなしょうもない話、一人でも喋ってるん?)
喉元まで出かかったそんな衝動を抑えながら車窓を流れていく奥多摩の深い緑を見るとはなしに爽は目で追っていた。
けれど確かに辺りには何もない。峠をいくつ越えただろうか。周りは鬱蒼とした木々に囲まれてここまで人家一つ目にすることも無く信号も一つもお目にかからない。ここも東京なら東京なんて大したことはない。所詮は大きな田舎を背負った都会じゃないか。
「でお客さんはどちらから?」
一人語りが延々続いていたおじさん、一人じゃない事を思い出したようにルームミラーを覗く。
「大阪やけど」
「ほおーそれはまた豪気なことで」
(はぁ?何が豪気?意味分からへん)
はなから東京以外の人間を馬鹿にしてるのか、大阪というワードは東京もんにとってはNGワードなのか、どちらにしても歓迎されてないことだけは確かなようで爽は押し黙った。
「4750円」
大学の入り口とおぼしき所に到着すると爽の留めての声を待たずに停車させ
おじさんはメーターに刻まれた料金の数字だけを告げた。
財布から1000円札5枚を取り出してもうすでに片手を出しているおじさんの手に載せる。
お釣りをもらうかチップにするかは微妙な4750円。少し迷った爽だけど何も言わずお釣りが返ってくるのを待った。
ちっと小さく舌打ちした後250円を投げる様にして後ろ手で渡し降りるこちらを一瞥もせずに走り去って行った。
「ほんまや、二度と乗らへんわ東京のタクシーなんか」
こうして爽の人生初の上京は苦虫を噛み潰すような最悪の形で始まった。
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