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緑色の扉
しおりを挟むその人を思い出すたびに、真っ先に頭に浮かぶのは、緑色の扉だ。深い緑色に塗られた頑丈そうな鉄の門扉だ。
緑の扉の横は隙間だらけの、少し傾いた生垣になっていた。その隙間から荒れた感じの庭が見えた。高く伸びた大木が曲がりくねった枝を広げ、雑草だらけの庭はその陰になっている。
扉が開いているのを見たことがない。夏も秋も、雪が降り積もった冬の日も、その家の庭はいつも変わらない。空き家に見えたが、大木に梯子がかけられていたり、庭に、たまに車が止まっていたから、手入れはされていないにしても人が住んでいたらしい。
広大というほどではないけれど、東京都内であの広さの庭のある家は屋敷と呼べるのではないか。
都内のとある駅で降り、駅前のロータリーの横を通り過ぎて、飲食店やコンビニ、ビジネスホテルが並んだ狭い道を抜けると川があった。橋を渡り、川沿いを歩き、角を曲がり、住宅街へ入る。しばらく行くと、突き当たりのT字路の正面が緑の扉の屋敷だった。
緑の扉からさらに、子供の足で十分ほど歩く。知らない街の、知らない道をしばらく行くと、その人の住まいがあった。どんな外観だっだのか、庭があったのか、都外の自宅……小さな平屋の借家から、その人に会いに、季節ごとに何度も行かされたのに、記憶に残っていない。確か……二階建てだったはずだ。
「木村」という表札の下にあるインターフォンのボタンを押し、不安な気持ちを抱えて待つ。ドアが開き、その人が、
「よく来たね。さあ上がって」
優しげな声で迎えてくれた。私に微笑む顔はぎこちない。私だって同じだ。いつも緊張していた。一緒に暮らしていた母から、その人が父だと聞かされていても。
家の中は綺麗に整頓された洋室がいくつか。大きなスピーカーのステレオとソファーがあった。そしてしんとしていた。しんと静まり返ったその家にはその人しかいなかった。
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