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第7話『目覚まし大作戦』

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■ 目覚まし大作戦

 地球一家6人が新しい星に到着してバスに乗ると、運転手の男性が父に話しかけた。
「お客さんたちは、明日の朝、6時半の飛行機に乗るんですよね」
「はい、そうなんです。明日は朝早いから大変で……」
「お任せください。空港までのバスは、僕が運転しますから。早起きするために、僕は今夜は10時前には寝なくちゃ」

 運転手は、父が持っていたホストハウスの地図をのぞきこんで叫んだ。
「おー、奇遇だなあ! 僕、この家のすぐ隣に住んでいるんですよ」
 すぐ隣の家とは。思わぬ奇遇を聞いて、地球一家はほほえんだ。

 家に到着した6人は、HF(ホストファーザー)とその娘に連れられて夜まで町を見物した。家に戻り、HFが言った。
「そろそろお休みになったらいかがですか? 明日は朝が早いんですよね」
「はい。6時に出発しないと飛行機に間に合わないんです。そこで、私たち5時半に起きたいんですけど、目覚まし時計を貸していただけないでしょうか?」
 父が頼むと、HFから意外な答えが返ってきた。
「この星には目覚まし時計はないんですよ。私たちの体は便利にできています。眠ってからちょうど7時間半後に目が覚めるんです。例えば、5時半に起きるためには、夜の10時に寝ればいいんです」

 時計を見ると、まもなく9時50分だ。
「そろそろ10時ですね。それじゃ、私は今から寝て、5時半に起きて皆さんを起こしてあげますよ。私たちは、ある意味、目覚まし時計よりもずっと正確です。今まで7時間半後に起きられなかったことは一度もないんですから」
 HFは立ち上がって寝室に向かった。

「それじゃ、私も寝ようかしら」とホストの娘。
「あのー、本当に目覚まし時計なしで、大丈夫でしょうか? 飛行機に乗り遅れると大変なことになるものですから」
 母が聞くと、娘は自信たっぷりに答えた。
「大丈夫ですよ。父と私に任せてください」
「7時間半後に起きられなかったことは、本当に一度もないんですか?」
「父は忘れているみたいですけど、一回だけ起きられなかったことがあります。私がまだ小さい頃の話なので、10年以上前です。その日、今も隣に住んでいるバスの運転手さんが、どういう訳か夜中に間違えて入ってきてしまったんです。家の中の異変に気付いて、彼は驚いて私たちを起こしてしまいました。眠っている途中で起きてしまったのは、その一回だけです。それで、夜中に目を覚ましてからもう一度寝た場合には、次に起きるのは二度目に寝てから7時間半後になってしまうんです。私も父も、その日だけは予定の時間に起きられずに遅刻してしまいました」
 なるほど。さっき会った運転手さんの話だな。そして、この星の人たちの体内時計はとても正確だが、融通が利かないところもあるようだ。
「そうすると私たちは、うるさくしないようにしなければなりませんね。万が一、お二人が途中で目覚めてしまったら、5時半に起きられなくなりますから」
 父が心配そうに言うと、娘は胸を張った。
「ちょっとやそっとの物音では、決して起きませんから大丈夫です。あ、もし心配なようでしたら、夜の会話はこれを使ってください」
 娘は、携帯電話のような物を6個取り出して地球一家に配った。
「これは、単純な通信機です。遠くにいる人にも、小声で話ができます。会話をする相手を選ぶこともできるので、内緒話をする時にも便利なんですよ」

 時計を見ると、もうすぐ10時だ。
「もう寝ないと、5時半に起きられないわ。それじゃ、おやすみなさい」
 娘が急いで寝室に向かおうとするところを、ジュンが呼び止めた。
「寝る前にすみません。いらなくなった時計があったら、もらえませんか?」

 その直後、客間で地球一家6人が寝る準備を始めた。
「とても正確な人間目覚まし時計がいらっしゃるから、心配なさそうね」と母。
「いや、どうかな。機械の時計とどちらが信頼できるかと考えると、難しい問題だ」と父。
 その時、ドライバーで置時計をいじっていたジュンが、威張った顔で時計を見せた。
「じゃーん。もらった時計を改造して、目覚まし時計を作ったよ」
「へえ、すごーい。兄さんは器用だね」とタク。
「僕は機械に強いからね。それじゃ、5時半にセットして……」
 ジュンは時計の裏のねじを回し、アラームをセットした。
「本当にちゃんと鳴るのか?」と父。
「大丈夫だと思うよ。まあ、二人が起こしてくださるそうだし、それが駄目だった場合の保険だと思ってよ。それじゃ、僕も寝るね」
 ジュンはそう言い残して、ベッドに入って目を閉じた。ほかの5人も横になる。

 父は、すぐに通信機を使って小声で話し始めた。
「お母さん、ミサ、タク、リコ。聞こえるか?」
「聞こえるわ。どうしたの?」と母。
「やっぱり心配だから、僕が朝まで起きていようと思う。ホストの二人も起きられなくて、ジュンの目覚まし時計も鳴らなかったら大変だからね。お父さんに任せて、みんな安心して寝なさい」
「でも、お父さんが起きていたら、ジュンが気を悪くするかも。自分の作った時計が信用されてないんだなって」
「そうだな。じゃあ、ベッドの中で眠ったふりをして起きていることにするよ。それじゃ、おやすみ」
 こうして、部屋は完全に静まりかえった。

 全員が眠る中、ジュンの作った目覚まし時計が非常に大きな音でジリジリジリと鳴り響いた。6人はびっくりして飛び起きた。
「ん、何だ、もう朝か?」と父。
 ジュンは、時計を観察して頭をかいた。
「しまった、セットの仕方を間違えた。まだ1時半だよ。今やり直したから、今度こそ5時半に鳴るよ。ごめんね、みんな。じゃ、おやすみ」
「待って。今の音で、下の二人が目を覚ましてしまったかも」とミサ。
 かなり大きな音だったから、一階まで響いたかもしれない。眠っているかどうか、ミサが確かめに行くことにした。音を立てないように寝室のドアをそっと開けると、HFも娘も目を閉じて眠っていた。
「二人とも眠っていたわ。大丈夫よ」とミサ。
「いや、油断できないな。一度目覚めて、もう一度眠り直している可能性もあるぞ」と父。
「5時半に起きられなかったら、どうしよう」とタク。
「その時のためにこの目覚まし時計があるんだから、安心してよ。ちゃんと鳴ることは確認できたんだから。じゃあ、おやすみ」
 自信家のジュンはそう言ってベッドに戻って目を閉じ、ほかのみんなもベッドに戻った。

 父がまた通信機を使って、小声で話し始めた。
「お母さん、ミサ、タク、リコ。聞こえるか? お父さんが朝まで起きているから、安心して寝なさい。あと4時間だから、なんとかなるよ。じゃあ、おやすみ」

 しばらくして、母が通信機を使った。
「ミサ、タク、リコ。聞こえる? さっき目覚ましが鳴った時、お父さん、明らかに眠っていたわよね。お父さんだけに任せるのは不安だから、お母さんが起きていることにするわ。でも、起きているとわかったらお父さんを信用してないみたいで、気を悪くするだろうから、ベッドで目を閉じたまま起きていることにするわ。みんなは安心して寝てちょうだい。それじゃ、おやすみなさい」

 次に、ミサが通信機で話した。
「タク、リコ。聞こえる? お父さんとお母さんに任せるのは不安だから、私が朝まで起きてることにするわ。年を取ると、徹夜は結構難しいのよ。でも私なら大丈夫。起きてるとわかったらお母さんが気を悪くするだろうから、ベッドで目を閉じたまま起きてるわ。二人とも安心して寝て。おやすみなさい」

 最後に通信機を使ったのは、タクだ。
「リコ、聞こえる? ミサに任せるのは不安だから、僕が朝まで起きてることにするよ。ミサは寝るのが大好きだからね。気を悪くするといけないから、ベッドで目を閉じて起きてるよ。リコは安心して寝な。おやすみなさい」

 この後、ミサとタクは心の中で、眠っちゃいけない、眠っちゃいけない、と考えたが、どういう訳か考えれば考えるほど眠気が襲った。
 逆にリコは、起きているとみんなが自分のことを心配するだろうから、自分だけはちゃんと眠らなきゃ、と考えた。

 そして朝になり、部屋の掛け時計は5時半を少し過ぎた時間を指した。
「みんな、起きて! 5時半だよー」
 ぐっすり眠っている5人を起こして回ったのは、リコだった。
 5人は目を覚まし、完全に眠りに落ちてしまったことに驚いた。
「どうして目覚まし時計が鳴らなかったんだろう。みんな、ごめん」
 ジュンは、みんなに頭を下げた。そういえば、HFも娘も起こしに来ない。まだ二人とも眠っているのだろう。やはり夜中に一度起きてしまったに違いない。
 しかし、なぜリコだけ起きられたのか? リコは、眠らなければと考えれば考えるほど、逆に目がさえてしまったのだ。リコのおかげで助かった。さあ、急いで支度しよう。

 6人がバスターミナルに到着すると、バスの中には誰もおらず、運転手もいない。6人は、近くにあったバス会社の事務所まで歩き、父が受付の男性事務員に声をかけた。
「すみません、空港行きのバスに乗りたいんですけど、運転手さんは?」
「それが、まだ来てないんですよ。おかしいな」
 ジュンが自作の目覚まし時計を手に持って青ざめた。
「そうか。運転手さんは、僕たちが泊まった家の隣に住んでるんですよね。夜中にこの目覚まし時計が鳴った時に、目覚めてしまったのかも」
 きっとそうだ。あれほど大きな音を鳴らしたのだから、隣の住人を起こしてしまっても不思議ではない。

「今から彼に連絡しても、おそらく間に合いません。別の運転手がここの二階で寝ていますから、一人起こしましょう」
 事務員の男性はそう言って、地球一家を連れて事務所の二階に上がった。部屋をのぞくと、10人の運転手がベッドで眠っている。
「みんな、バスの発車時刻に間に合うように、その7時間半前に眠り始めたんですよ。今回は、やむを得ません。このうち誰か一人を起こしましょう。誰にしようかな……」
 事務員がそう言った次の瞬間、ジュンの持っていた目覚まし時計が突然、ジリジリジリとけたたましい音で鳴り出した。運転手10人は、その音に驚いてベッドから体を起こした。事務員も地球一家も、全員驚いて目を見開いた。
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