暁のマリーと三銃士

Ilysiasnorm

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第1幕

第5話 カトリーヌの影

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リュシアンはジュールに別れを告げ、再び街を歩き出した。胸の中で膨れ上がるのは、カトリーヌの面影だった。彼女がこの時代にいる――その確信だけが、彼の足を動かしていた。

街並みは異様だった。豪奢な宮殿の近くでは、貴族らしき人々がきらびやかな衣装を身にまとい談笑している。その一方で、貧しい人々が道端に座り込み、疲れ果てた顔で空を見つめていた。リュシアンはその光景に息を呑んだ。

「これが……革命前夜のフランスか」

彼はふと、遠くにそびえる壮大な建物に目を向けた。黄金に輝く門、広大な庭園、そしてそびえ立つ宮殿――ヴェルサイユ宮殿だった。その華麗さに圧倒されながらも、彼はどこか冷たいものを感じずにはいられなかった。

「カトリーヌ……」

そう考えた瞬間、背後から誰かに腕を掴まれた。

「おい、あんた!」

驚いて振り向くと、ボロボロの服を着た小柄な少年が立っていた。目には怯えがありながらも、必死さが伝わってくる。

「頼む、助けてくれ!妹のソフィが捕まっちまったんだ!」

「捕まった?どういうことだ?」

ルイと名乗るその少年は、荒い息をつきながら言葉を続けた。

「衛兵たちが俺たちみたいな貧しい奴らを次々に捕まえてるんだ。妹は何もしてないのに!」

リュシアンの胸がざわついた。ルイの焦りようから、放っておけば何か取り返しのつかないことになるかもしれない。

「案内してくれ!」

ルイに連れられ、リュシアンがたどり着いたのは貧民街の一角だった。そこでは、武装した衛兵たちが無理やり人々を荷車に押し込んでいた。

「なぜこんなことを……」

リュシアンは息をのんだ。その視線の先で、小さな少女が衛兵に捕まって泣き叫んでいた。

「ソフィ!」

ルイが叫んだ。しかし、衛兵は冷酷に言い放つ。

「このガキども、王家の施しを受けておきながら文句を言うとはな。しつけが必要だ」

「やめろ!」

リュシアンは思わず駆け出した。しかし、すぐに衛兵の一人が剣を抜き、リュシアンを威嚇した。

「余計な口を挟むな」

絶体絶命――そう思った瞬間、澄んだ女性の声が響いた。

「その子を離しなさい!」

衛兵たちは驚き、声の主の方を振り返った。そこには上品な衣装を身にまとった若い女性が立っていた。背筋を伸ばし、堂々とした態度で衛兵たちを見据えている。

「この方は……」

「私は王妃の命を伝える者です。このような横暴な振る舞いを許すつもりはありません。今すぐその子を解放しなさい」

衛兵たちは一瞬顔を見合わせた後、渋々とソフィを解放した。少女は兄の元へ駆け寄り、ルイは泣きながら妹を抱きしめた。

リュシアンは安堵しつつも、目の前の女性に目を奪われていた。その顔には、どこか見覚えがある――

「あなたは……?」

女性は微笑み、静かに答えた。

「あなたとは、また会う気がするわ。その時まで、どうか気をつけて」

そう言い残し、彼女は去っていった。その背中を見つめながら、リュシアンの心はざわめいていた。

「彼女はいったい……」

女性の姿が見えなくなった後、リュシアンは改めてルイとソフィに目を向けた。彼らを安全な場所まで送り届けながら、彼の心には新たな決意が生まれていた。

「この時代で、カトリーヌを必ず見つけ出す。それが俺にできる唯一のことだ」

リュシアンの冒険は、次第に大きなうねりの中へと巻き込まれていく――。
 
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