暁のマリーと三銃士

Ilysiasnorm

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第2幕

第31話「仕組まれた誘い火」

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夜のヴェルサイユ宮殿。
風のない静寂のなか、宮廷の奥深くで、何かが静かに動き始めていた。

ピシグリューが仕掛けた“偽の命令書”は、予定通り、侯爵家の使者に回収された。
その情報を伝えた下働きの少年は、翌日姿を消した。

「……始まったな」

ピシグリューは深夜、厨房棟の裏手に潜み、使用人用の通路を見つめていた。
侯爵派がこの贋作に反応すれば、動き出すはず――
あとは、どこで誰が受け取り、どこへ流すか。

そのとき、地下通路の扉がわずかに開き、黒い影が素早く姿を現した。

(……来た)

ピシグリューはそのまま静かに尾行を始めた。
だが、気づかぬうちにもう一人の影が、さらにその背後にいた。

一方――

シャレットは文書室で得た証拠をもとに、管理係の文官が関与していた可能性を追い、王政資料庫の副写本室へと忍び込んでいた。

だが、棚の間に差し込まれた紙片を確認しようとしたその瞬間、鈍い音がして扉が閉まった。

「……!」

背後から放たれた短剣が、紙棚に突き刺さる。

シャレットは素早く剣を抜いた。

「罠か……!」

影が二つ、両側から迫る。
それは、侯爵派が差し向けた密偵だった。

数合の斬撃が交わされ、シャレットの剣が相手の武器を跳ね飛ばす。

「この程度か……」

密偵たちはすぐに引き、逃走用の窓から外へと消えた。
シャレットはその場に残された布切れを拾う――侯爵家の紋章がうっすらと縫われていた。

「……証拠は、これで十分だな」

さらにその頃――

ド・モードは、ロザリンドの足取りを追い、礼拝堂脇の通路で奇妙な場面を目撃していた。
ロザリンドが密かに手紙を手渡した相手は、内務局ではなく、ディオニュス侯爵の副官だった。

(……やはり。君は、裏切っていたのか)

だが、彼の胸にわずかな迷いがよぎる。

ロザリンドの手が、震えていた。

(強要されていた?それとも、演技……?)

判断を誤れば、無実の者を断罪することになる。
ド・モードは静かに身を引き、報告を待つことを選んだ。


マリーの私室——

三銃士が次々と戻り、それぞれの情報を手短に共有した直後、
カーテンの奥から、サンジェルマン伯爵が音もなく姿を現した。

「……火は、もう灯りました。あとは燃え上がるのを待つばかりです」

「伯爵、侯爵派は王妃断罪のために“公開裁判”を企てているようです」

「なるほど。見せしめのための舞台……それは、民衆の“熱”を利用する策」

マリーは立ち上がった。

「ならば、私たちも“舞台”を用意しましょう。
彼らが虚構の剣で挑むなら、私は“真実”の盾で応えるまで」

サンジェルマンは、微笑をたたえながら一礼した。

「……それが、“王妃”の戦いなのですね」

蝋燭の炎がゆらめく部屋で、マリーの瞳だけが、静かに燃えていた。

——戦いは、近い。
仮面は落とされ、刃が交わる刻が、迫っていた。

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