『異世界維新録 ― 海援隊Re:Birth』

Ilysiasnorm

文字の大きさ
9 / 11
第2章 「交錯する志 ― 維新の胎動 ―」

第8話 青海の刃(せいかいのやいば)

しおりを挟む
深い森を抜けたところで、霧が晴れた。  霊泉の村から続く街道――その中央に、黒紋兵《こくもんへい》の影が立ち塞がっていた。

「……見つけたぞ。奴隷市から逃げた三人だな」

 黒い紋章を刻んだ鎧が月光に鈍く光る。
 リュオムは即座に木刀を構えた。折れかけた柄が痛々しい。

「ミラ、シン。背中は預けるき!」

 ミラが震えながらも一歩前に出る。
 シンは数珠を握り、息を整えた。

 しかし、黒紋兵の威圧は圧倒的だった。
 村の噂どおり、王国でも精鋭と名高い特殊部隊。

「……何者ぜよ、この圧は……!」

 ひとりの黒紋兵が無言で踏み込み、
 リュオムの木刀へ重い斬撃を叩きつけた。

 ――バキィンッ!

 木刀は無残に折れ、破片が散った。

「リュオムっ!」

「大丈夫だ……っ! まだ……!」

 言い終える前に、二撃目が迫る。
 リュオムは後退し、呼吸が荒くなる。

 ――その時だ。

 空気が、震えた。

 森の奥から、白い光がふわりと舞い降りてくる。
 霧の粒子が光を受け、蒼い波紋のように揺れた。

「……また、あなた……」

 ミラが息を呑む。

 白銀の髪を風にたゆたわせた少女が立っていた。
 裸足で草を踏む音すらない。
 瞳は夜明け前の星のように静かで、現実感が欠けている。

 少女――ルミア。

 その存在そのものが、
 まるで“この世とあの世の狭間”に立つかのようだった。

 彼女は口を動かさない。
 だが声が、胸の奥に直接響く。

 ――『あなたの旅はまだ終わっていません』

 黒紋兵が目を見開いた。

「こいつ……何者だ……!」

 光が黒紋兵たちの視界をさえぎる。
 その僅かな隙に、リュオムたちの足元へ柔らかな風が流れた。

「行きなさい。
 ――剣が、あなたを待っています」

 ルミアが差し伸べた手に導かれ、
 リュオムたちは森の奥へ駆け出す。

「……ここは」

 見覚えのある佇まいが月光に浮かぶ。
 木造の小さな庵。
 そして、その前で腕を組んで立つ男がいた。

 シュウザ=チバリス。

 彼の落ち着いた眼差しがリュオムをとらえる。

「待っていた。お前に渡すものがある」

「渡す……?」

 庵の中央の石台に、一本の刀が置かれていた。
 鞘は深い青。
 触れてもいないのに、肌に冷気が走るほどの気配を発している。

「これは……」

「《青海》と呼ばれる。
 心を誤魔化す者には絶対に抜けぬ。
 だが、迷いを断つ者には応える」

 シュウザの声は静かだが、剣士としての重さがあった。

「お前はもう、武器を失った。
 ならば次は――覚悟を手にせよ」

 リュオムは息を飲む。

 折れた木刀の欠片が、掌にまだ残っている。
 何も守れなかった自分の弱さが、
 じりじりと胸を焼く。

 ゆっくりと刀へ手を伸ばす。

「……借りるぜよ。この命に代えても」

 その瞬間、刀から蒼い光が立ち昇った。

 ――キィン……!

 刃と竜魔紋が共鳴し、蒼い波紋がリュオムを包む。

 シュウザが目を細める。

「……見事だ。
 お前は、“剣を持つ資格”を得たようだ」

「見つけたぞ!!」

 庵の外で怒号が響く。
 数名の黒紋兵が森をかき分けて迫ってきた。

「逃さぬ……! 宰相ハルエル様の命だ!」

 ハルエルの名を聞き、シンが目を見開く。

「ハルエル……? どこかで……」

 だが思い出せないまま、黒紋兵の刃が月光を裂く。

「来るぞ、リュオム!」

「ああ! 行くぜよ!」

 黒紋兵が斬りかかる。

 リュオムは《青海》の柄を握り、静かに息を整えた。

 ――抜く。

 蒼い閃光が走り、黒紋兵の武器が弾け飛んだ。

「なっ……!?」

 もう一撃。
 刃は人を傷つけぬよう寸止めしつつ、
 鎧を断ち、兵を倒す。

 シンが思わず呟く。

「……速い……! まるで別人のようだ」

 ミラも目を輝かせる。

「すごい……リュオム!」

 怒号を上げて残りの黒紋兵が突撃してくる。

「まとめて来るがいいき!」

 蒼い軌跡が夜の森に弧を描いた。

 シュウザが静かに言う。

「……迷いが消えた剣は、美しいものだ」

 黒紋兵を退けたあと、庵の前でシュウザは空を見上げた。

「この先、王国は本格的にお前を狙うだろう。
 宰相ハルエル……その名は忘れぬことだ」

「ハルエル……。どこかで聞いたような……」

 リュオムは胸騒ぎを覚えた。
 だが、その理由はまだ霧の向こうにある。

 シュウザは微笑む。

「また会う。その時は剣の続きを見せてもらおう」

 庵の灯りが静かに閉じ、
 リュオム・シン・ミラは森の道へ踏み出した。

 遠くでルミアの声が風に溶ける。

 ――『次に出会う“友”は、あなたの運命を揺らすでしょう』

 リュオムは立ち止まり、月空を見上げる。

「どれだけ道が険しゅうても――
 この刃があるき。必ず切り拓くぜよ、異世界の“維新”を」

 蒼い刃が、星々の光を受けて輝いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜

来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。 自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。 「お前は俺の番だ」 番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。 一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。 執着と守護。すれ違いと絆。 ――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。 甘さ控えめ、でも確かに溺愛。 異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。

処理中です...