『異世界維新録 ― 海援隊Re:Birth』

Ilysiasnorm

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第2章 「交錯する志 ― 維新の胎動 ―」

第9話 王都アガレス、秩序の名のもとに

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王都アガレスは、巨大だった。

白亜の城壁は幾重にも連なり、街路は碁盤の目のように整えられている。
人間、獣人、エルフ――種族の違いはあれど、誰もが一定の距離を保ち、無駄な衝突はない。

表向きには、理想的な共存国家。

だが、違和感は確かにあった。

街角ごとに立つ兵士の数は多く、検問所では旅人一人ひとりに鋭い視線が向けられる。
掲示板には「秩序を乱す者を見かけたら通報せよ」という布告が張り出されていた。

――星紋を持つ者は、特に注意せよ。

その一文に、人々は無言で視線を逸らす。

秩序は、静かに息苦しさを孕んでいた。

王城の奥、政務の間。

玉座より一段低い位置に立つのは、王ではない。
王を支える実務の要――宰相ハルエルだった。

長い銀金の髪。
透き通るような肌。
人ならざる長命の気配を宿す、ハイエルフの男。

だがその眼差しは、どこまでも冷静で、感情に溺れない。

「報告を」

低い声が響く。

跪いた部下が答える。

「黒紋兵部隊、霊泉の村付近にて敗走。
 青い刃を持つ転生者が確認されました」

「被害は?」

「死者は……出ておりません」

一瞬の沈黙。

ハルエルは、ほんのわずかに目を伏せた。

「ならば良い」

怒りも、苛立ちもない。

「力を持つ者ほど、慎重に導かねばならぬ。
 混乱は、弱き民から血を流す」

側近が言葉を探す。

「……拘束、あるいは排除を?」

ハルエルは首を振った。

「急ぐな。
 “剣”ではなく、“意思”を見極める」

その声は、あくまで民の安寧を思う者のものだった。

だが同時に、そこには揺るがぬ決意があった。

――志は尊い。
――だが、志だけで国は守れぬ。

一方その頃。

森を抜け、街道を進む三人は、夜営の準備をしていた。

ミラは《青海》の鞘をじっと見つめている。

「……不思議な剣だね。
 触ってるだけで、海みたいな音がする」

リュオムは焚き火の前に腰を下ろし、剣を膝に置いた。

「剣を持った以上、守れるもんも増える。
 けんど……斬らんで済む道も、探したいき」

シンは数珠を握りながら、周囲を見渡す。

「王国が本気で動き出したな。
 黒紋兵を出すということは、相当だ」

「縛って守る国……か」

リュオムは火を見つめる。

「信じて任せるのと、
 縛って守るのと……どっちが正しいがじゃろうな」

答えは、まだ出ない。

翌日、街道で出会った商人から話を聞く。

「今の王国を動かしてるのは、宰相ハルエル様さ。
 転生者の管理政策も、全部あの方の判断だ」

「悪い人なの?」

ミラが尋ねる。

商人は首を振った。

「いや……むしろ立派なお方だ。
 戦を減らし、飢えを抑え、街を守った」

シンが小さく息を詰める。

「……妙だな」

「どうしたが?」

「名を聞くたび、胸がざわつく」

リュオムも同じ感覚を覚えていた。

理由は分からない。
だが、無関係ではないと直感が告げている。

夜。

焚き火の前で、リュオムは《青海》を膝に置く。

「縛って守る国と、
 信じて任せる世界……」

星空を見上げる。

その遥か彼方、王都アガレスの方向にも、同じ星が輝いている。

――同時刻。

王城の高楼。

ハルエルは夜空を仰いでいた。

「……同じ星を見ているか。
 名も知らぬ転生者よ」

彼の胸にも、かすかな疼きが走る。

まだ交わらぬ二つの志。
だが、確実に同じ時代を生きている。

世界は、静かに胎動を始めていた。
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